第7話 凛々しき女子のお出迎え?
院瀬見とのやり取りを終え教室に戻ると、推し女たちの姿は無く、担任が淡々とホームルームを始めていた。
自分の席に着こうとする俺に、担任からの理不尽な注意が飛んでくる。
「南 翔輝。自覚があるのか?」
「えぇ? 外の空気を吸いに行ってただけで遅刻じゃないですよ」
「……示しがつかない行動は慎めよ」
くそぅ。俺はそもそも遅刻をしてないのに何でこんな目に遭うのか。周りの男子どもは何食わぬ顔で過ごしているし、とんだ迷惑な出来事だった。
「おはよう、翔輝。教室を抜け出して何をしに外に行ってたの?」
休み時間になって純が何気なく声をかけてくるが、そういえば女子たちが生徒会入りすることを知らせる暇はなかったな。昨日は幼馴染のアレと七先輩が来てたし。
「純……。お前が来た時の教室の雰囲気はどうだったんだ?」
「え? いつもどおり騒がしかったよ。僕が来る前に何かあったの?」
「放課後に明らかになるから心の準備だけしとけよ」
「う、うん」
それでも、こいつはまだそこまで取り乱すことはないだろうけどな。
放課後になり週一回しか使わない会議室ではなく、生徒会メンバー揃って女子棟の談話室に集まることになった。男子棟に無いような施設ばかりで、副会長ですらも驚いてばかりだ。
「おおおぉ……か、香りが違う……」
「気のせいだ、上田」
香りがするのはおそらく、敷地内にある日本庭園が間近にあるからだろう。同じ私立でこんなにも違うのはやるせないんだが。
「女子棟の深部に来たのは初めてっす! やべぇっすね」
「別に女子棟はダンジョンじゃないぞ? 下道。一階から三階に上がって行くだけだしな。まぁ、仮に迷っても誰かが助けてくれるだろ」
「シャレになってないっす……」
こうやって生徒会メンバーがまとまって女子棟に来ることは今までなかった。それだけに、いつも出入りしている下道も変に緊張している。
「翔輝は何で平気なの? 霞ノ宮の女子のレベルがこんななんて、僕は驚きを隠せないよ……」
院瀬見率いる推し女だけでなく、霞ノ宮の女子は総じてレベルが高い――というのは、統合前から有名な話だ。俺から言わせれば何を今さらって話になる。
「しょ、翔輝会長……美少女の視線を感じるっす!」
「ん?」
どいつもこいつも何をびびっているのか。
「みなさーん! ここからは
俺以外がびくついている中、俺たちは二見という推し女によって三階にある談話室という名のやけに広い会議室に案内された。中に入るとくつろぎの空間が広がっていて、会議室とは程遠いソファが置いてある。
すでに待機していた優雅な女子たちが俺たちの姿に一斉に立ち上がり、
「――というわけでー! 院瀬見つららの推し女であるウチたちが男子の生徒会に入ることになりましたのでぇー、よろしくでーす!」
入って早々に甲高い声を上げた。
率先役の九賀みずきの他、推し女たちは皮肉めいた笑みを浮かべながら軽く頭を下げている。
「あああああ……ありえねええええ!!!」
「おい、上田」
「無理無理無理無理無理!! はぁっーはぁっはぁー……」
興奮しない限りは温厚のはずの上田がここまで取り乱すとは。推し女たちも若干引いてるじゃないか。
まさか暴れたりしないよな?
「そういや、九賀。院瀬見は? ここに来てないのか?」
「あ、それならー」
主役というか強引に提案したあいつが遅れるとは、いいご身分だな。それはまだいいとしても、生徒会メンバーは石像のように固まっていて言葉を発せる状態にないし、どうにも居づらい。
それを察してか、二見めぐが俺だけに話題を振ってくる。
「生徒会長の南さーん、院瀬見さんの手足はハンドクリームを付けなくてもすべすべですっごく綺麗なんですよ! だから汚さないであげて欲しいんですよねー。ウチはまだそこまでじゃなくてー……。でも、本っっ当にお綺麗ですよねー」
「……そりゃあ、優勝するくらいだからそうなんじゃないのか?」
「見て下さいよーこの傷んでる髪!」
「茶髪はそんなもんだろ」
何でこんなに馴れ馴れしく近づいてくるんだ。それに院瀬見を推してるのはいいとしても、何で俺が院瀬見を汚す方向になってるのか。
「めぐといちゃついてるフツメン生徒会長に伝言ですけどー、院瀬見さん、庭園で待つって言ってましたよ」
いちゃついてもいないし、興味も無いんだが。もしや推し女たち同士で対立でもあるのか?
「……ここに来るんじゃなくて一階で見た庭園? それを先に言ってくれ」
「言おうとしましたよ? とにかくこの場は副会長さんと何とかするので、早く向かったらどうですか?」
九賀は俺に対して妙に敵対視してるな。最初の時点でこいつ呼ばわりしてたし、よほど合わないってことかも。
「
「……あっ、はい!」
「詳しいことはそこの九賀が教えてくれる。書記と会計にも伝えてやっといてくれ。頼んだ!」
「そ、そうだよね。うん、分かったよ。僕に任せて」
女子が苦手とかじゃないんだろうが、副会長にはきちんとしてもらわないとな。
「南さーん、くれぐれも院瀬見さんを汚さないでくださいよー?」
「知らん!」
どういう意味での汚し発言なのかは不明だが、結局俺一人だけで一階にある日本庭園に行くことになった。
まだ夕日が沈んでないとはいえ、放課後の日本庭園にはひと気が感じられない。あるとすれば、どこからともなく聞こえる土いじりの音くらいだ。
そこをめがけて近づくと、
「遅かったですね、南」
――だろうな。
"汚す"というワードが出てきた時点で何かオチがあると思ったが、そのまんまの意味だった。
「叱るんなら九賀に言った方がいいぞ。伝えるタイミングが遅かったからな」
「そうなんですか? てっきり他の推し女たちにちょっかいを出してるのが原因かと思いましたけど」
こいつ……まさかここから見てたのか?
しかし、庭園の位置から見えるところにそれらしい部屋は見当たらない。そもそも談話室の場所もはっきりしていないわけだが。
「院瀬見がそう思うならそうかもな」
「……別にどうでもいいですけど」
「というか、その土まみれの手足は何だ?」
他の推し女たちも含め、誰かが手伝うでも無い庭園いじりを院瀬見だけでしているのは意味不明だ。しかも汗をかいているせいか、腕まくりをしている白肌の腕には土がこびりついている。
「美少女選抜優勝者がこんなことをするのは意外ですか?」
「さぁ……どうだか」
「……まぁ、どうでもいいです。南も来てくれて作業がはかどりそうなので良かったです! とりあえず、向こうに置いてある脚立を持って来てください」
「は?」
もしや俺をこき使おうとしているのでは?
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