第4話 後輩で可愛い子ですよ?

「生徒会長、とりあえず落ち着こうよ」

「い、院瀬見さん! ごめん!!」


 俺と美少女優勝者とのやり取りにただならぬ雰囲気を感じたのか、俺は北門に、院瀬見は推し女たちの手で制された。


 会議室の中は不穏な空気になるのを避けたかったようで、みんなで慌てている様子が見て取れる。


 俺としては別に煽ったつもりはなかったんだが。


「……気を取り直してお尋ねしますけど、古根こねの生徒会長ということですけど、本当にあなたなんですか? 隣に立つ男子ではなくて?」


 完全に疑いから入ってるな。そもそも名乗ることなく進行しようとしてるのがどうにも気に入らない。


「隣の彼は生徒副会長ですが? そういうあなたはセミなんとかさん――」

院瀬見いせみですっっ!」

「あーはいはい。俺は正真正銘の生徒会長ですが、何か?」


 しかし美少女優勝者も面倒な性格をしているな。こっちは正直に明かしてるというのに。


「……へ、へぇ。古根も変わった人選をするんですね。お名前は?」


 あれ、とっくに名乗ってなかったっけ?


 だがその前に、


北門きたかど副会長。霞ノ宮の女子たちを――」

「――あっ、うん。えっと、立ち話だと話が進まないので、みなさんとりあえず席に着いてもらえますか?」

「ちょっと!! 生徒会長の名前を聞いて無いんですけど!」


 ――などと院瀬見は答えを求めてるようだが、ここは俺が冷静になっておかねば。そうしないと後ろに控えているアレが俺の部屋で暴れかねない。


 それに、上田が興奮してたのも分かるくらいの美少女たちがここに来ているわけだし。こんなホコリだらけの会議室に長くいさせるのはさすがにな。


「翔輝。院瀬見さんを何であんなに怒らせたの? ほら、ずっと睨んでるし……」

「分からん。ちやほやされたいんじゃないか? メンバーでちやほやしてやれば機嫌は直ると思うぞ」

「自己紹介が済んだら上田くんと下道くんに頼んでおくよ」


 北門が気にしているが、ずっと俺を睨んでいる院瀬見は放置しつつ、古根の生徒会メンバーと霞ノ宮の女子たちが向かい合う形で着席。


 幼馴染のアレと七先輩の他、推し女の女子たちが数人で自己紹介を始めた。


「ウチは選抜候補の段階で落選した二見ふたみめぐでーす! 今は院瀬見さんの推し女やってまーす」

「同じく推し女、十日市とおかいち聖菜せな。以後、よろしく」

「七石です。去年準優勝した草壁の付き添いです」

「もうご存じだと思うんですけどー、私は九賀みずき。院瀬見さんの推し女です」


 七先輩を除くと、他は院瀬見の推し女のようだ。名前を堂々と名乗るだけあって全員整っているし総じてレベルが高いが、金髪に茶髪に銀髪? 


 まさにオールスターだな。


 その恩恵、いやご褒美を頂いている生徒会メンバーの面々はほぼ陥落状態だ。北門だけは落ち着いているようだが。


「ご紹介ありがとうございます。生徒会メンバーの紹介をしますね。僕は北門純、副会長です。会計は上田、書記は下道、その他雑用で動くメンバーがいます」


 勿体つけて俺だけ紹介しないところもさすがの参謀ぶりだな。下道たちも北門の紹介後にさっそくおもてなしな動きを始めているし、抜かりが無い。


 院瀬見の眼光は相変わらずなのにビビってないのは尊敬に値する。


「それから、僕の隣にいるのが古根生徒会の会長の……」

「あたしの可愛い年下の後輩なんですよー! みなさんも可愛がってくださいねー」


 俺のフルネームをはっきりさせる前に、空気が全く読めない新葉わかばがその場の時間を一瞬だけ停止させた。


 新葉は俺をチラッと見ながら、親指立ててしたり顔を見せているが――


「――あのっっ!! そうではなくて、生徒会長の名前を聞きたいんですっ!」

「うんうん、あたしが可愛がってる男の子の名前はねー」

「すみません、草壁先輩じゃなくてそこの男子が名乗るべきことだと思いますので、少しだけお待ち頂いてもよろしいですか?」


 なるほど、優勝者だとしてもさすがに先輩に対してはリスペクトしてる感じか。それならば俺も期待に応えよう。


「あー、紹介が遅れたんだけど、俺は草壁の可愛い年下の後輩で……」

「可愛くないですけど?」


 一言余計なんだよな。この優勝者は。


「俺はみなみ翔輝しょうき、生徒会長だ。それであんたの……」


 すでに知っているが、本人の口から下の名前も聞いておかねば。


 そう思っていたら、


「う、上田、かか、会計の上田です! 院瀬見さん、明日ひひひ、暇がありましたら!!」

「下道っす! トイレでもロッカーでも靴磨きでも何でもするっす!! 下道って名を覚えてもらえると嬉しいっす!」


 お前ら、おもてなしの意味を間違えてるぞ。それはただのナンパだ。


「院瀬見さん。僕は生徒会長には劣りますが、僕のことも覚えて頂けたら嬉しいです。何か困ったことがありましたら何でも生徒会を頼ってください」


 女子に興味も何も無いと思っていたのに、北門純……お前もか。それも推し女の方じゃなくてラスボスに行くなんて。


 俺以外の生徒会メンバーからちやほやされているが、肝心の院瀬見はどう思っているんだ?


「……ありがとうございます。そうですよね、男子のみなさんってほとんどが反応を示しますよね。とても嬉しいです!」


 何たる無表情っぷり。新葉は誰にでも愛嬌を振りまくというのに、優勝者だからってあんまりすぎないか?


 コンテストに選ばれて当然だと思ってるだろうし、ほとんどの男子から好意を向けられてるんだろうが、何でそんなにつまらなそうにしているんだ?


「そこの――院瀬見なんとかさん」


 生徒会メンバーが院瀬見一人だけをもてはやすのはよろしくない。他の推し女もいるし、ついでに新葉もいるしどうにかしないと。


「はい? 何ですか? 可愛くない生徒会長さん」

「会議室に呼ばれた意味は理解してるか?」


 俺の言葉に北門たちが動きを止め、控えている推し女たちも姿勢を直している。


 推し女たちに罪は無いがあるとすれば、


「古根男子へのサプライズ会の話ですよね? 他に何かありますか?」


 自覚なしとはいえ、こいつはいい気になりすぎだな。


「そうだ。つまり、生徒会メンバーが気を遣って話をしてやってるわけだ。それなのにあんたは少しもメンバーに優しくないよな? こっちは具体的な話をしようとしてる。だからこそのもてはやしなのに、さっきからうんざりした顔をしてるのはおかしくないか?」


 ちょっと厳しいことを言ったかもだが、これで理解してくれるはず。


「へぇ……そう見えるんだ。ふーん……。面白いかもね。それとも妬いてる感じ?」

「ん? 何をぶつぶつと言ってる?」


 などとちょっと苛立っていると、見えないところから手が伸びてきたようで頭頂部を軽く小突かれた。


「――つっ!?」


 誰の仕業だと思いながら後ろを振り向くと、そこには七先輩と新葉が引きつり笑いで立っていた。


 うわ、不味ったな。

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