第2話 高嶺の花は食べられない
「えー? 翔輝……それ、マジで言ってる?」
「誓って真面目だ。興味なんて個人差があるしそんなもんだ」
「もう、バカすぎじゃん? ……多分だけどきっと本人的にショックだったんじゃないかな」
美少女そのものに興味が無い――それだけなのに、幼馴染の新葉は俺を見て呆れ果てている。
「言っとくけど美少女とかはともかく、優勝者の顔と名前くらい見れば分かるぞ。興味は無いけどな。そもそも自分アピールしたいなら普通は名乗るだろ! 何で美少女にいちいち反応しなきゃいけないんだよ」
俺は放課後にあった出来事について、いつものように部屋を荒らしに来た幼馴染である
普段から俺の部屋に上がり込んでくる図々しい幼馴染がいることもあって、俺の中で女子の誰かを意識するだとかをいちいち気にしなくなった。
「全国美少女選抜ってすっごくすごいんだよ? 簡単には選ばれないすごいコンテストなんだよ? 何でそんな態度になるかなぁ……。現にここにもすごい美少女が!」
すごいしか言葉を知らないのがこいつの欠点だな。
「確か準優勝だったよな?」
「そ。去年ね。つまり、一つ上のお姉さんはすごい幼馴染なわけ。こんな間近にこんなすごい美少女がいるのに、何であんたはしょうもないんだろうね?」
幼馴染である新葉は霞ノ宮所属の一つ上の学年。一応先輩でもある。立ち入り禁止が解かれたのが最近なこともあり、学校では会ったことも無ければ会いに行ったことも無かった。しかし共学になるとかにかかわらず俺の家に上がり込んでは愚痴を言ったり聞いたりしていたので、年上という概念が無い。
容姿端麗な彼女はそれこそ高嶺の花と言ってもいいが、『すごい』が口ぐせなせいか間違っても才色兼備にはならないちょっと惜しい女子だ。
「惜しいんだよな、色々と……それに引き換え、ななさんは全然違う」
「何がだー! っていうか、ここであの子の名前を出すのは卑怯だぞー」
ななさんは新葉の級友かつ、推し女をしていた人だ。タレントに全く興味を示さなかった新葉と違い、今では彼女がそっちの活動をしている。
普段から新葉の近くにいた人なので、俺も時々顔を合わせたり話をしていた。そんなこともあって俺が生徒会長なことも知っている。色んな関係で頭があがらない魅力的な先輩女子であることは間違いない。
「それは置いとくが、お前は俺にとって身近すぎるんだよ。ほぼ毎日のように間近で見過ぎてるから多分見慣れているわけだし。つまり、俺がこうなったのは新葉のせいってことだな」
俺の中の美少女に対する無反応さの仮説は慣れであると判断した。
「何があたしのせい?」
「新葉が美少女だという事実について」
「うっ……おぉぅ! 面と向かって言われるとすごい困る―。だけど幼馴染にも選択肢はあるんだよ。そんなわけで翔輝と結ばれたいと思ったことは一度も無いからごめんね?」
顔を赤くしつつ何度も俺に頭を下げているが、こういう思考に至っているのが非常に惜しい。
「勝手に誤解して勝手に俺を振るなよ! 告ってないぞ俺は」
要は美少女が身近にいすぎて見慣れてしまった説。そして綺麗な幼馴染を基準にしてしまったことで、美少女自体に夢も希望も
「高嶺の花は滅多に会えないし、簡単にはいかないものなんだよ? それをあんたはみすみすとー……」
「高嶺の花は食べられないからな」
「食べっ!? それはアレだ、お馬鹿さん的な発言で取っていいのかな?」
「食べられる花なら喜んで食べるぞ。菊の花とかバラとか」
食用としての意味で言ったが、やはりこいつには通じなかった。
「コ、コホン……手を出すつもりがあるなら、もっとこう――生徒会長っぽく動いた方がいいんじゃない?」
「興味ないから問題無い」
幼馴染の新葉はともかく、同学でしかも優勝者となると現実的に考えれば、たとえ興味を持ったとしても恋愛関係にはならないと考えるべきだ。
そもそもあくまで自分アピールしかしてこない相手が、果たして俺というか男子その他としか見ていない状態から格上げするとは到底思えない。
少なくとも向こうから俺の名前を聞いてくるまではこっちとしてもいい態度を見せる必要はないだろう。
「……くっ、可愛くない奴ー。仕方が無い。こうなればあたしが人肌脱ごうじゃないの!」
「とうとう脱ぐのか?」
「脱がないっ!! じゃなくて、幼馴染のよしみで翔輝のすごいところをその優勝者さんに教えてやるの! すごすぎる美少女さんから迫られたらさすがのあんたも本気出すでしょ」
別の意味ですごい剣幕で怒りながら迫ってくるだろうな。
「それはない。それに俺のスペックは――」
「生徒会長じゃん! イケメンかそうでないかは置いといても、生徒会長だってすごいことなんだよ?」
「……置いとくなよ」
実を言うと、誰もやりたがらずいつまで経っても帰ることが出来なかったから手を上げただけで、当初は学校の為に何かしようという気持ちは全く無かった。
それに共学となった今では生徒会長という肩書には何の効果も権力も無いに等しい。単なる雑用係と言っていいだろうし、利点と呼べるのは他の男子よりも女子と接する機会が多いだけ。
そもそも実は俺が生徒会長だと言ったところで、あの美少女優勝者が素直になるとは思えない。
「よしっ! あたしはそろそろ帰るよー」
「飯は食って行かないのか?」
「明日からが楽しみで仕方が無いからね。自分の家に帰るよ。とにかく翔輝はいい子にして待っててー?」
何か良からぬことを企んだのは明らかだ。とはいえ、何かを決断した新葉の行動力に定評は無い。
俺が心配することは何も無いだろう。
「翔輝会長、おつー! 僕のメッセに対しての反応はどんな感じ?」
夕飯を食べ終えて部屋に戻ると副会長からメッセージが届いていた。その内容にいちいち文字を打って反論するのも面倒なので電話で話すことに。
古根高校での生徒会活動も実際は帰宅部のようなもので、決して褒められるような活動ではなかった。せいぜい週に一度ある定例会議に出るくらいで、他の奴からすれば遊んでいると思われているのが現実だ。
それなのに、
「……どういう風の吹き回しなんだ? 急にやる気出して生徒会っぽいことを女子にアピールするのか?」
「そうじゃないよ。霞ノ宮との共学化でこれといった記念集会とかをしてこなかったでしょ? だからあっちの提案でそうなったんだ。そうなると体育館とか仕切るのに生徒会が必要なわけ。理解したー?」
「納得してないけど理解した。で、どんな記念だ?」
「それはまだー。明日会議あるから、そん時にあっちの提案を聞く予定だけど男子が驚くものらしいから楽しみだよ」
新葉の企みよりも先に面倒そうなことが起きそうだな。
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