第7話 英傑『粉砕剣聖』セシリアの場合
当たり前だが、強い者に対して弱い者は勝つ事は出来ない。
下克上という言葉がありはするものの、これはあくまで強者と呼ばれる存在が弱者よりも弱体化してしまった時にのみ起こるものである。
だから、全ては全て当然のように、予定調和に始まり終わる。
水が上流から下流に流れるように。
全て、当たり前の事が当たり前のように帰結するのだ。
◆
セシリアにとって『エリア21』というダンジョンは確かに好奇心が久方ぶりに湧いてくる対象ではあったが、とはいえ期待はしていなかった。
『英傑』と呼ばれる者は基本的に生来そうである事が多い。
つまり生まれつきそのように強者である事が義務付けられた存在。
だから、という訳ではないが彼女らは強力な力云々以前に自らが負ける事を一切考慮していない。
……セシリア以外は。
セシリアは、ありていに言ってしまえば、そう、破滅願望を持っている。
自らが敗者となり、全てを奪われる事。
そのような妄想を常日頃から妄想している。
その事を彼女自身は「はしたない」と思っているが故にそれを実行する事はなかったが、しかし無意識に、根底にその願望がある彼女はだからこそ常に『敗北』を意識している。
負けたいという願望があるからこそ、絶対に負けないために尽力する。
矛盾しているようなその精神性。
それが彼女をなによりも『英傑』たらしめてあえるのだ。
そんな彼女だからこそ、その『エリア21』に対して警戒をしていた。
負けても大丈夫、とは思わない。
……例によって魅力的とは思うけど。
『束の剣』をダンジョンに足を踏み入れるよりも前に展開し、内の刀のような剣を手に持ち他はすぐに射出出来るようにしておく。
最悪、全てを爆破して一か八か自らもろとも爆死する事も考慮しておきながら、セシリアは早速ダンジョンに足を踏み入れ……
「……!」
話は聞いていたので予想はしていた。
このダンジョンには『黒い骸骨』がいた、と。
ダンジョンのモンスターが出現する理由、経緯、メカニズムは未だ不明だが、少なくとも何かを消費してモンスターを生成、成長させている事は分かっている。
で、ある以上。
いきなり強力なモンスターが突発的に現れる可能性な少ない。
そして、『黒い骸骨』が倒されていないならば、それがその強化個体がいるのではないかと、想定していた。
(骸骨……?)
何故か、ダウングレードしていた。
いや、まだ現れていないだけで奥に潜んでいる?
しかしダンジョン内は狭く隠れる場所はなさそうだ。
……思考途中、降ってきたスライムを処しつつ、とりあえずと目の前の骸骨に対して……『束の剣』のうち、一本を犠牲にし強力な爆発を起こした。
それで他の隠れているかもしれないモンスターが現れる、もしくは倒れるのならばよし。
『束の剣』は消耗品だ。
どれも街で買えるような量産品であり、重要なのは彼女の『束の剣』という力一点。
そして、その一撃を受けて痺れを切らしたのか、奥から三体の骸骨が現れる。
それもまた『束の剣』を用いて剣を射出、それだけで骸骨……それと不壊属性を持つはずのダンジョンの壁を壊し。
そして、現れるのは真っ赤に、血のように真っ赤な骨で構成されたモンスター。
それは『黒い骸骨』の強化個体、その名前は『緋色の骸骨』。
しかもその手には骸骨シリーズが本来持たないはずの鋭い剣が握られていた。
そして骸骨とは思えないほどの速度で近づいてきた『緋色の骸骨』は剣を振り下ろし。
「……!」
危なくその一撃を喰らいそうになった。
その剣撃ではない。
骨に絡みつき、近づくと同時に飛びついてきたスライムだ。
普通の冒険者ならば『緋色の骸骨』に気を取られてスライムの急襲をモロに喰らっていただろう。
スライムは弱くても、その攻撃によって体の自由は多少奪われるだろう。
そして目の前にいる『緋色の骸骨』相手にそのような状態で挑むのは愚の骨頂である。
しかしそれをセシリアは見抜き、そしてこれ以上の油断はダメだと判断した。
……つまり、もはや相手のペースに従うのは危険だと判断した。
だから、『束の剣』を使ってダンジョン諸共、吹き飛ばした。
剣を全て発破材にする事により、ダンジョン全てを吹き飛ばした。
そもそも彼女がそのような判断をしたのは、『緋色の骸骨』が現れたから。
この『エリア21』というダンジョンは生まれたばかりのそれ。
理論上『緋色の骸骨』が現れる事はあるが、それはすべてのエネルギーを骸骨に注ぎ込めば、の話である。
だから、あれさえ倒してしまえばおしまい。
そもそもあの爆発によってダンジョンはボロボロになっていた。
……本来ならばここで全ておしまいだっただろう。
しかし、彼女にとって想定外な事が起きた。
床が、抜けた。
否、より正確に言うのならば、床が壊れた。
元々何らかの装置によって抜けるようになっていたのかは分からないが、兎に角そこにあった筈の床は消えてセシリアは重力に引かれて落ちていく。
空中で体勢を整えて、しっかり受け身を取って着地。
……着地?
てっきり、何かしら体を傷つける何かがあるかと。
「……ぇ」
しかし、セシリアが思考出来たのはそこまでだった。
まるで魂そのものを愛撫されているかのような快楽。
次の瞬間、彼女は全てを手放した。
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