第21話:レベル上げ
神歴808年・公国歴72年5月19日ベーメン公国リューネブルク侯爵領魔界境界地域:アンネリーゼ視点
「少数説とはいえ、実戦経験を重ねたら高いレベルの魔術が使えるようになるという説があるのです。
それを試さないのは不忠であり、侯爵閣下に対する愛がないのです。
侯爵閣下の妻として命じます、私が実験経験を積む手助けをしなさい」
「「「「「はっ!」」」」」
すみません、今口にしたのは建前です。
本音は、自分が冒険者になるための実戦経験が積みたいだけです。
でも、侯爵閣下の病を治したい気持ちもちゃんとあります。
家臣たちの賛成を得て、侯爵閣下に快復魔術と状態異常快復魔術を使いましたが、これまでと同じように治りませんでした。
でもこれは最初から分かっていた事です。
レベルが低くて治らないのか、そもそも効かないのかは、もっとレベルの高い魔術を試してみなければわかりません。
侯爵家にある本を全部調べて、レベル3以上の快復魔術と状態異常快復魔術を書いた物がないか探してもらっています。
ユルゲン魔術顧問は、回復魔術はレベル3まで使えますが、快復魔術と状態異常快復魔術は使えません。
もうユルゲン魔術顧問から教えてもらう魔術は無くなったので、アルフレート伯爵と一緒に公都に戻ってもらいました。
公都で、レベル3以上の快復魔術と状態異常快復魔術について書いた魔術書を、手に入れてもらうのです。
ユルゲン魔術顧問は、同じ魔術士の関係から探してもらいます。
魔術書として書かれていなくても、呪文を知っているだけでも良いのです。
私には適性があるので、試しているうちに使えるようになるかもしれません。
アルフレート伯爵には、リューネブルク侯爵家の権力と財力を使って、魔術に関するあらゆる情報を集めてもらう事にしました。
家臣筆頭で伯爵位をもつ彼なら、公王家に対しても圧力をかけられます。
侯爵家よりも蔵書が少ないと言っていましたが、質が悪いとは限りません。
たまたまレベル3以上の快復と状態異常快復の魔術書があるかもしれません。
「アンネリーゼ様、次のモンスターが来ます」
私の側についてくれている、エルンスト伯爵の長男ロメロが声をかけてくれます。
次の領地家宰となる、リューネブルク侯爵家では名門の家臣です。
今は領城の執事をしながら政務を学んでいるそうですが、物凄い美青年です。
しかも、私を守るために付けられた専属の護衛騎士たちよりも強いそうです。
政務もできて美青年で、武術まで一流というのですから笑ってしまいます。
ですが、今の私は、そんな天与の才を努力で輝かせた人にも負けていません。
運が良かった事と、多少のズルはしていますが、努力はしています。
人に誇れるところがあると、これほど心が穏やかになるのですね。
「万が一仕留め損ねても護衛の者たちが止めを刺します。
落ち着いて狙いを定めてください」
「ええ、分かっているわ」
今日八頭目のデビル・グレイ・ボアが私の前に追い込まれてきます。
リューネブルク侯爵家の家臣たちが、魔境に入って追い出してくれたのです。
殺さないように生命力を削いでくれていますから、私のファイア・ソードが当たれば間違いなく即死します。
これも魔法学の少数説ですが、モンスターと戦って能力が上がるのは、最後に倒した者だけだそうです。
本当かどうかなんて誰にも分かりません。
私が大々的に試す事で、一つの実例になるかもしれません。
ですが、私独りだけの例では、能力が上がらないとする主流も、戦いに参加した者全ての能力が上がるという少数説も、今のまま変わらないでしょう。
「我が魔力を集め炎の剣へと変換する、ファイア・ソード」
「ブッヒ!」
体重千キロを超える巨大なデビル・グレイ・ボアが、断末魔と共に斃れます。
突進していた勢いは残っているので、山から開けた平地を滑走します。
剣も弾くほどの剛毛と皮、厚い脂肪で肉は傷まないでしょう。
「手の空いている人は悪い血が回らないうちに解体してください。
この後、肉を焼いて全員で食べますが、食べ切れない肉と素材は商人に売って、今日参加した全員で分配します」
「「「「「おう!」」」」」
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