恥ずかしがり屋で引っ込み思案な幼馴染が僕の前でだけ可愛い

海野 流

第1話

「くぁ‥‥ねみぃ‥‥」

 4月下旬、新学年にも慣れてくる頃、俺――――光月こうづき陽翔はると――――はあくびを噛み殺しながら登校していた。

 

 今年から高校生になったばかりだが、入学から2週間近くたった今、緊張感なんてものはなくなり、こうしてゆるーく登校している。


「おっす陽翔。おはようさん」

「うっす。おはよ」

 

 自分の教室に入るや否や、軽く手を挙げながら俺に声をかけてくる男友達――――雲海うんかい朝也ともや――――に返事をしつつ、俺は自分の席に着く。

 

 こいつとは、高校で初めて知り合ったのだが、始めからノリが軽く、入学式の日に、初対面の俺にも気さくに話しかけてきた。

 

 髪色も全体的に茶色がかっているし、このノリの軽さやコミュ力の高さも相まってか、入学したばかりにもかかわらず、男女問わずクラス内でかなりの人気を集めていた。


「なぁはると~。、今日も反応を返してくれなかったんだけど、どうしたらいいと思う?」

「俺に聞かれもなぁ‥‥」

 

 自分の席に着いて、荷物の整理をしていたら、反対側から机に顎を付けつつ、朝也がそんなことを聞いてくる。


「入学式の日からずっと声かけてるけど、あの子だけ全然反応返してくれないんだよ」

 

 朝也はそう言いつつ、俺の後ろ側へと目を向ける。俺もそれに釣られ、後ろを振り返り、朝也の視線の先にいる女子――――月影つきかげ日菜ひな――――へと目を向ける。

 

 彼女は、ウェーブがかった茶髪を肩まで降ろし、黒縁の眼鏡をかけている。一見、オシャレで目立ちそうな見た目をしているが、彼女が学校で誰かと話しているところを俺は見たことがなく、今も一人で本を読んでいる。そんな彼女に対して、朝也も毎日声をかけ続けているが、いまだに反応が返ってきたことはないそうだ。


「俺、みんなに挨拶するためにいつも早めに学校に来てるんだけどよ、毎回月影さんの方が早いんだよな。だから『おはよう』って挨拶するんだけど、うんともすんとも言ってくれないんだよ」

 

 会釈くらいは返ってくるんだけどなぁと、朝也はぼやく。そんな朝也を横目に俺は

(授業だるいなぁ‥‥)

 と、どうでもいいことを考えていた。




「じゃあなみんな!部活あるやつは部活頑張れよ!!今日もお疲れ!」

 

 放課後、朝也はクラス中に聞こえる声でそう言う。クラスの皆もそれに答え、各々教室を出ていく。


「じゃあな陽翔。お疲れさん」

「おう。明日は返事が返ってくるといいな」

 

 俺の冗談交じりの返しに、朝也は「うっせ」と返し教室を出ていった。

(さてと、俺も帰るかも待ってるだろうし)

 そんなことを考えながら俺は教室を後にした。


「ただいま」

 

 家に着き、俺はそう口にしながら玄関の扉を開ける。両親は共働きでまだ家に帰っていないはずだが、玄関の鍵は開いていた。


(ということは、がいるんだろうなぁ‥‥)

 

 そんなことを考えつつ、リビングへと続く扉を開ける――――


「おかえり!はる!」

 

 その瞬間飛び込んできたのは、満面の笑みを浮かべる俺の幼馴染――――月影日菜―――の姿だった。

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