第二話「初船出」
鬼族の住まう島、鬼ヶ島とも呼ばれるその島には西南にある大港の他複数の船着場が点在している。
シュラと玉梓は島の北東部にある船着場から島を出ることにした。
「して玉梓よ、
櫂を漕ぐ傍付きにシュラはそう零した。
「さぁ、相手は大旦那様及び郷の鬼衆総て。そして何より影神子様も貴方を郷に連れ戻そうと奔走なさる事でしょう。大嬢様の出郷、首尾よく進むかは運が大きく絡みます。」
「そうか、あっちにはユラもおるのか……
「大旦那様もユラ様も、そして郷の鬼衆達も来たる次代の鬼神となる貴方の身を案じておるだけでございます。」
シュラは玉梓のその言葉に少しバツの悪そうに目を伏せながら瓢箪を煽る。
「そんなことは解っておるわ。……じゃが、儂は外を見たいのじゃ。ガキの頃に郷を訪れたあの冒険者の紡いだ冒険譚、あれが嘘か誠か。あの狭い島にいつまでも留まって居れば安泰なのは確かじゃが、それではつまらん。一度しかない我が生、浮世を渡るのもまた一興じゃろうて」
「島の外の話ならば、わえが幾らでも語りますのに、それでは不満ですか」
「不満も不満よ!聞くだけ聞いてこの身で味わえぬなど、歯痒過ぎるわ」
「そうですか。」
シュラの言葉に呆れたように笑いながら玉梓は船を進めていく。
「それにしてもこんなチンタラした船では親父に見つかれば一足で追いつかれそうじゃな」
「大嬢も櫂を握って下されば随分と速くなるはずでしょうけど」
「玉梓よ、主人を働かす気か」
「いえいえ、大嬢の剛力で以て海面を掻けば大旦那様も追いつけぬのではないかと。わえはあまり力が強くありませんので」
そう言ってゆったりと櫂を漕ぐ玉梓にジロリと睨みを利かせるも効果は無い。
「……ハァ。儂も漕ぐか」
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
暫く船を進めるも海原景色に何ら変化はない。
然しシュラは生まれてこの方航海どころか郷から遠出することすら許されはしなかった。
故に果てなく続く一枚絵も彼女からすればその目に映る全てが強烈に
水面に映る星屑の美しさに櫂を回す手が止まる。
そんな主の様子を我が子を見守る様に優しい顔を向ける玉梓。
「……なんじゃ」
自身をじっと見つめてくる玉梓にぶっきらぼうにそう零した。
「いえ。星屏風に鬼姫、絵になりますな」
「……お主は時折よう分からんことを言うな」
「ふふ……ほらほら、大嬢。手が止まっておりますぞ、天に見惚れるのも結構ですがあまりのんびりしている暇もありませぬぞ」
「む……解っておるわい」
そう言ってシュラは再び櫂を漕ぎ始めた、しかしその顔はいつまでも水面に映る星空から逸らすことはなかった。
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