結愛

 せっかくの土曜日なのにお兄ちゃんはいない。

 そりゃ受験勉強もあるから、遊んでくれる時間の方が少なかったけど、いるのといないのとでは全然違う。

 午後からピアノの先生がいらっしゃる。だからその時間までお兄ちゃんと一緒に遊びたかった。


 結愛は千代紙を折りながら拗ねようとしていた。


 なのにお兄ちゃんは雪乃お姉ちゃんと遊びに行っている。デートなのかな。でも2人とも服がダサかったから違うのかも。雪乃お姉ちゃんは「心温こはるさんのお相手はどういう方なのかしら」と言っていた。

「心温さん」ってお母様のことだよね。戸籍に書いてあった。と、言うことは「お相手」はお父様?


 お行儀悪く折り鶴を放ると、結愛はベッドに身を投げ出した。


 結局、お母様ってどんな方なのかしら。

 あの怖いお父様が好きになったくらいなのだからしっかりした人? 私と一緒でお母様も長女なのかしら?

 私とお兄ちゃん、お父様との容姿の違いはあまりない。私達2人共お父様に似てしまったのか、お父様もお母様もそっくりだったのか。お祖母様の昔の写真を見ると、お父様とよく似てらっしゃる。


 毛布で守られていたような生活に飽き飽きしていた結愛は、推理ごっこに夢中になった。


 もし、そうであればお父様はお祖母様に似た人を妻に選んだの? 何だか、お母様が可哀想。あの「お祖母様に似ているから」だなんて理由で結婚相手に選ばれるなんて。いくらお兄ちゃんでもそんなことをすれば絶縁…………しない。


 結愛は胎児のように膝を抱え丸くなった。「小学3年生」の割に、兄に依存しすぎている自覚はあるが、変えたいと切実には願っていなかった。


 でも、お兄ちゃんも雪乃お姉ちゃんも何をしに行くんだろう? お母様の近況を探りに? 後で教えてほしいなぁ。


 何故か急に寂しくなり、結愛はギュウッと膝を抱きしめた。


 鶴を千羽折ったら願いが叶うらしい。千羽折ったその時、私は何を願うのかしらん?

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