山登り
ボウガ
第1話
Aさんは登山が趣味だ。そこそこ高い山に登り、達成感をえるのが楽しいという。だが、その野心が一転した出来事があった。
Bさんという大学の登山サークルからの親友だったが、彼が山で遭難し、行方不明になったからだ。
それも地元では有名な、“神が宿る”とされている山で、そこでは様々な人が、“自分のもっとも欲するもの”を山の頂上、雪の降り積もる地点で見るという。
彼の死後、家族ぐるみで付き合いのあった彼の家族とも疎遠となった。奥さんと子供さんとを残しての他界、無理もないだろう、そう思っていた。
だが、ある時彼の遺書と思われるものの一部が自分のもとへ、その家族から郵送されてきた。そこにはこんな事が書かれていた。
「もし、俺が死ぬことになったらAによる憧れによって死ぬのだろう、山登りでも趣味でも、友人関係でも、成績でも奴にかてなかった、俺はあいつを追いかけることで、なんとか人生を歩んでこれたのだから」
そのほかに手紙が同封されており、最近彼の遺体がみつかり、そして彼の持ち歩いていたボイスレコーダーみつかったそうだ。そこに彼の最後の音声がはいっていたらしい。彼の最後の録音には
「Aがいる、Aをおいかけなければ」
という音声が入っていたそうだ。
「彼は、自分への憧れをもっていて、自分をおいかけていって遭難したのか……」
Aさんは暫くの間自分を責め続けたそうだ。山の神が、まさか自分に化けるだなんて思いもしなかったから。
確かに若かったころ、特に大学生時代は意地をはって、人より高い山に登ろう登ろうとしていたし、酒の席では、自慢話のように高い山に登ったことを話していたものだ。Aさんもそろそろ30代半ばになろうとする今、こんな事を経験したあとでは、山のぼりの趣味で、人前でさえ意地を張らないようにしている。
そして、登山の時にはBさんの遺書を肌身離さず持ち歩き、山で彼の愛するものや、彼の欲する何かを見つけても、日常に戻る事だけを考えて、遭難しないよう細心の注意を払っているらしい。
山登り ボウガ @yumieimaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます