俺、やるわ

 楽しそうに笑っている。俺といるときよりも、笑顔値数が高いと思うのは間違いであってほしい。

 テスト初日が終わり、少し気持ちが緩んだ。


「何ボーッとしてんだよ」

「そーだよ。このままじゃ取られちゃうよ?」

「えっ? いきなり何?」


 両隣から輝紀とみっちゃんが忍び寄り、控えめな声で言ってきた。

 昼前、太陽が空の一番高いところに迫る時間帯、窓際の席はカーテンをしてエアコンを入れていても、ダダ漏れの光が暑さなびかせる。


「お前、わかりやすいんだよな?」

「えっ? 何が」

「好きなんだろ?」


 輝紀は手を口元に寄せて、俺の耳元に話し掛けてきた。


「まあ、わかりやすいのは福居もだけどね。ろくん、昔からサッカー以外は抜けてること多かったもんね」

「おい、凛花」

「えっ? あ、ごめん」


 輝紀とみっちゃんは俺の前でサッカーの話をするのはタブーだと思っているみたいで、顔を顰めて謝った。


「謝んないでよ。今更、サッカーに未練なんかないんだからさ」

「うん」


 ふたりは気まずそうに顔を見合わせた。このままの空気ではいづらかったため、行動を起こした。立ち上がり、葵さんと福居が楽しく喋っている前の席まで行った。


「あっ、それそーだよね?」


 結構なオーバーリアクションだったと思う。そして、後ろのふたりにドヤ顔をしてやった。けれど、期待していた表情ではなく、肩を落としてため息を吐かれた。


「ロカ男、大丈夫か?」

「えっ、何が?」


 福居の顔が、お前は頭でもおかしくなったかと言っていた。


「やっぱり、笹井くんもおろしろい」

「えっ? そーかな? ハハハッ、ありがと」


 葵さんが笑ってくれたなら、よしとしよう。


「葵さん、俺のほうがおろしろいよ。ほら見て」


 福居は口を尖らせたり、目を三角にしたり、見開いたり変顔をした。それを面白そうに葵さんが笑っている。この目と鼻の先で起きている事実が無性に腹立たしい。俺に笑顔を向けていたのに、奪われた。悔しいし、苦しいし、少しの怒りが心に湧いた。


「俺、トイレ行くわ」


 なぜかわからないけれど、そう言って教室を出てしまっていた。別に、トイレに行きたいわけではなかったのに、身体が足を走らせていた。どうしたものかと、とりあえず、言った通りにトイレに向かった。


「絽薫、待てよ」

「……輝紀」

「どーしたんだよ」


 輝紀は心配しているようで、肩を抱いて寄り添ってくれた。


「わかんない——ただ、なんかムカついて」

「誰に?」

「……福居」

「んーん」

「別にさ、殴りたいとか、嫌いとか、そんなんじゃなくて、葵さんが……」

「お前さ、悔しくないの? そりゃ、福居はでら面白いし、八十パーセントくらい好意を寄せる女子はいると思うよ、身長もでかいし。だからって、葵さんがその八十パーセントかはまだわかんねーだろ?」

「うん」

「それに、お前福居のこと好きだろ? 友達として、演劇部仲間としても」

「えっ? ……うん」

「俺と福居と絽薫と結構ないいトリオじゃねーか?」

「まーね」

「だったら、逃げるのはよそーぜ、かっこ悪い。好きになったのは仕方ない。恋なんて男にはどーなるかわかんないんだから、正々堂々、戦うのみ。なっ?」

「うん」


 輝紀に促されるまま、教室に戻った。ホームルームも終わっているためか、帰っていくクラスメイトが徐々に廊下を埋めていく。


「よっ」

「よっ。ってどうしたんだよ、ロカ男。腹の具合でも悪いか?」

「いや、そーゆーわけじゃ」


 どう話せばいいのかわからなくて、モジモジと小さな子どものように、口を突き出して噤んでしまう。そこに廊下から足音が聞こえてきた。徐々に近づいてくると突然ピタリ止まった。次の瞬間、新座が教室のドアを勢いよく開けた。この空気を知らないために、慌ただしい雰囲気でこちらまで駆け寄ってきた。


「あー、みんなまだいた。よかったー。うちも一緒に帰ろうと思って……えっ? なに?」

「明歩、こっちこっち」

「えっ? 何?」


 キョロキョロと顔を揺らしながら、みっちゃんの隣へと足音を消すように、丁寧に歩いて行った。


「でっ、どーした?」

「何、ロカオンと福助何やっての?」

「明歩はちょっと黙っとこうね」


 みっちゃんは人差し指を口に持ってきて、強めの目力で新座を見つめた。


「いや、その、なんて言うか……あお、葵さん……」


 自分でも情けないと思う。都合が悪くなると頭が真っ白になり、何も思いつかない。俺は葵さんが好きで、福居も好きなら、俺は譲る気はない。そう言えたら楽なんだろうけれど、うまく言葉が出てこない。霧のように、頭の中が濁っていくような気がした。クラクラと頭が重たくなり目眩がして、膝から崩れた。


「おい、絽薫大丈夫か?」

「ロカ男、ガチで調子悪かったのか?」

「いや、そんな……勉強のしすぎで寝不足なだけだよ」


 輝紀と福居に支えられて立ち上がった。


「はい、笹井くん。飴食べて」

「えっ?」


 葵さんは鞄から何かを取り出して、心配そうな顔でこちらに駆け寄ってきた。手を握ってくれるのかと思ったら飴を渡された。


「疲れたり勉強のしすぎとか、甘いものがいいでしょ? はちみつの飴だからおいしいよ」

「ありがと」

「さすが葵さん、用意周到じゃん」

「たまたまだよ」


 照れくさそうに、微笑むところも可愛い。自分の席に戻り鞄を手に取ると「帰ろ」と、今度は華やかな笑顔を見せた。

 最高に可愛い。自分の視界には葵さんしか映っていない。光の道で繋がれて、今すぐにでも手を繋いでしまいそうだ。と、俺の甘い半妄想はあっという間に崩れしまう。


「よしっ! 帰ろー! そらそら平民たち、道を開けよ! 姫様のお通りじゃ」

「いきなり何だよ」

「福居はいつでもスイッチ入っちゃうね」

「まあね。あれでも次期部長候補だから」

「姫なんて、なんか恥ずかしい」

「恥ずかしいなんて、姫は姫にございます。おい、そこの農民! 図が高い!」

「えっ、俺? なんで俺だけ農民なんだよー」


 福居の時代劇は門を出るまで続いた。

 気のせいだろうか? 俺が葵さんに近づけないようにするために、わざと農民と身分に差をつけ、前に出れない状況を作っている気がする。

 恋のライバルに、うまいこと誘導されてしまったのかもしれない。

 情けない。こんなにも簡単に、葵さんとの距離を弄ばれるなんて、俺の思考能力は小学生以下かと嘆きたくなる。

 外に出ると、煙のような薄暗い雲が東の方へと流されていく。先ほどまでの海を想像させる夏の日差しは、すっかり姿を消してしまった。午後から雨の天気予報は外れていないようだ。

 みんなの話に頷きつつ、ボーッと歩いていると、いつからか福居が隣にいた。なぜだか、他の四人は前のめりに先を歩いているようだ。

 きっと、輝紀とみっちゃんが気を遣ってくれたんだろう、福居とちゃんと話せと。


「よっ! 俺、福居昇流」

「えっ? あっ、俺は笹井絽薫」

「よろしく!」

「よろしく」


 福居はこちら周辺に視線を向け、目をギリギリのところで合わせない。


 ————。


 耳には足音と雑音しか入ってこない。そのままコンビニ前まで来てしまった。いつも通りコンビニに立ち寄り、ジュースやお菓子を買った。立ち位置は先ほどと変わらず、四人と後ろに俺と福居だ。


「よっ! 俺福居昇流!」

「よっ、俺は……それさっきも聞いた!」


 俺と福居は、最近少しよそよそしくなっていた。葵さんのことがあるからだ。でも、耐えきれなかった。こんなこと意味がない。いや、意味があるかないかはわからないけれど、絶対にこんな状況は必要ない。

 だから、俺たちの通常いつものように、横腹を突きながら、ツッコミを入れてやった。どう返してくるか、若干の不安はあった。けれど、それは……それこそ必要なかった。


「ロカ男、今日強ない?」


 福居の何気ない返しが、無性に笑えてきた。


「何、笑ってんだよ」


 福居は俺に向かって横腹を突きに来た。捕まるわけにはいかないと、前の四人を通り越して全力で走った。大通りの信号が変わる直前、ふたりで横断歩道を走り切った。追いかけてくる福居を見ると笑顔だった。もちろん俺も笑顔になっていた。

 向かいの歩道から「待てー」の声が聞こえてきたため、少し先で止まった。信号待ちをする四人に手を振り、見計らったかのように俺と福居は顔を見合わせ、わざとらしい笑顔をしてすぐに背けた。

 お互いに四人に表情を見られたくなかったのか、何気なく細道を渡りそこで立ち止まった。

 

「ごめん」

 

 福居は少し気まずそうに、下を向きながら言った。


「俺もごめん」


 頷き、同じように下を向いた。けれど、全身にネトネトした何かが絡みつくようで気持ち悪い。どうしても我慢しきれず

「ぐわあー!」と声に出すと、全く同じように福居も「ぐわあー」と言っていた。


「俺は武士! お前は非人!」


 三人分ほどの距離が空いていたところに、刀を振りかざす素振りを見せ、キメ顔でこちらへと寄ってきた。


「せめて農民にして下さい!」


 俺は畑を耕すような素振りをしながら、福居の隣に行った。しっくりきた。このポジションの安定感がハンパなかった。

 ちょうど信号が変わり、小走りで俺たちの後ろに四人は並んだ。

 いいタイミングだった。四人が揃ったと同時に、俺たちは振り向いていつもの変顔で締めた。


「はいー」

「何やってんだよ」

「仲直りしたんだー」

「完成度が低すぎるー」

「ふふふっ、ふたりともおもしろい」


 それぞれ俺たちにツッコミをいれた。唯一、笑ってくれたのは葵さんだけだ。


「もっちゃん、笑わなくていいんだよ」

「そーそー、調子乗っちゃうからね」

「ミサキング、調子乗らしてくれよー」


 福居は全身を揺らしながら変な踊りをした。


「イェス! パーリーナイト!」


 俺はツッコミではなく、ノリで返した。


「まだ昼間だろ」

「パーリーナイトね」

「いやいやいや、もっちゃん、そこも乗らなくていいの」

「通る人の邪魔になるから、広がらなーい」


 いつも通りバカなことをしながら、それぞれの帰路についた。葵さんとの最寄駅が一緒であることを、恨めしそうに、ほんのり怒りを込めた声で「ノーカウントだ」と、口をへ文字に曲げて言っていた。

 

 福居の気持ちを聞いたわけでも、話し合ったわけでもない。けれど、これからはライバルとして正々堂々と戦える気がした。

 それでいい。そうではないといけない。俺を救ってくれたのは福居だから。多少、大袈裟に言っているかもしれないけれど……それでも、感謝している。



     ♤   ♤   ♤

 


 俺は小学生のときから、ずっとサッカー一筋だった。周囲の小学校では、それなりに名前が知られていた。クラブチームの練習に参加したり、キャンプに参加してMVPを取ったりと、好成績を残した。もちろん、クラブチームに誘われた。そりゃ、行きたい気持ちはないはずがない。けれど、今の仲間たちとやりたかった。俺が必要とされていた。

 クラブに入らなくても、キャンプなど常に参加して好成績を残せれば、高校生でもプロになれる。幼かったし、自信もあった。そのスタンスで、中学二年までは余裕だと思っていた。

 今更後悔なんてないし、心残りもない。けれど、あの日の俺は、すべてを失ったと思った。

 中学三年、夏のキャンプに参加したときだ。今まで感じたことのない焦りを初めて感じた。圧倒的とは言わなくても、明らかに実力の差が見えた。学校でキャプテンを担い、部長を担い、実力は上がっていると自負していた。毎日学校から帰っても、ドラマやアニメを見るより、サッカーの試合を見て、動きの研究をしたり、休みの日には、サッカー部のメンバーを集めて自主練したりと、目標の選手の背中を追いかけていた。

 あの日は、小雨が降っていた。こんなところでは負けられない、俺はプロになって世界で戦うんだと、独り意気込んでいた。

 夏休み他校との試合、キャンプのときの悔しさをここで拭ってやるんだと、独りよがりだった。

 

『チームで戦うんだ、攻めも守りもひとりじゃない、チームのみんなを信じるんだ』


 いつもそんな偉そうなことを言っていたくせに、完全にひとり試合だった。

 必死だった。

 誰よりも上手く、軽快に、センスよくやらなきゃいけない! ひとりで負かせるようじゃなきゃダメなんだ。

 ささいー! と、みんなの声援に調子に乗っていた。雨なのに、グラウンドの状態すらすっかり忘れて。いつもなら気をつけてプレーしているはずなのに……。

 学校のグラウンドが人工芝のわけもなくて、土だ。雨が降ればぬかるむ、サッカーをしていなくたって、そんな単純な事わかりきっている。けれど、あのときは周りも自分さえも見えていなかった。

 ドリブルで抜けると思っていたところに、ぬかるんだ土とボール、相手の足とが絡み合い、俺の足首は衝撃と共に、全身に気を失うほどの電気を走らせた。

 その後の記憶はよく覚えていない。痛かったからなのか、ケガしたことへの恐怖だったのか……気づいたときには病院のベッドにいた。


 それからは空気のように、とりあえず、今の場所にいるだけだった。

 だってどうでもよかった。もう、プロ選手になることなんて叶わないんだから。

 高校にも行く気はなかったけれど、親の圧には勝てず、仕方なく進学を決めた。頭は母親からの遺伝だろうか、そこそこよかった。だから、荒くれた学校には行かずに済んだ。

 偶然にもサッカーが、ある程度強い高校だった。迷ったけれど、足は治っていたし、体力も有り余っていた。試してやろうと、そして、もしかしたら、また夢を追えるかもと淡い期待を抱いてしまった。

 サッカー部に入り、一年で俺と輝紀だけがスタメン入りした。そのときから輝紀とは仲良くなった。中学のとき、イケメンでオシャレな奴がいると聞いたことがあったけれど、こいつかと速攻で納得したのを覚えている。

 でも、続かなかった。というよりは続けられなかった。あのときの痛みや恐怖で、思うように足を動かせなかった。

 夏休みを前にして退部した。それからは、またどうでもいい日々を過ごしていた。目標も一生懸命も、きらりと光った青春も、別人の中にいるように、自分とは無関係だった。

 漫然とした日々は簡単だった。何も考えずに一日が終わり、一週間——そして、半年が過ぎ、二年になった。クラス替えがあり、そこで福居と出会った。存在は一応知っていた。演劇部のでかくて男前で、寒いけれどおもしろいやつがいると。

 とにかく、しつこかった。常につきまとわれ、トイレも昼も、休憩時間も、ギャグを見せてきたり、一方的に話してきたり、怒りを通り越して、ため息が出るようになっていた。そこを狙っていたのかもしれないけれど、演劇部を観にこないかと誘われた。

 まったく興味がなかった。文化部なんて何のためにやればいいのか、意味がわからない。

 それでも、断る理由も見つからず、重たい足をゆっくりと進めた。

 

 四月も残り一週間程度、薄ピンクのカーテンはすでに若葉に変わり、昼間は動くと汗ばむほど暖かだ。昇降口の手前には、下を向くとアリンコの列がどこかへ向かっていた。

 

 以外だった。というか、驚かされた。演劇場に鞄を置くと、正門前に集合させられた。ここで演技の練習をするのかと思っていたら、「外周行くぞー」と部長が声を出すと、正門を出て走り出した。何事? と疑問を抱きつつ付いていくと、サッカー部の走り込みと同じだった。周る回数は2週だけだから足りないけれど、しっかり汗をかき気分が上がった。

 そのまま声出しと言われ、演劇場まで顎の付け根などをマッサージしながら、大声を出して歩いていく。そして、柔軟をして筋トレをして、発声をした。

 なんか気持ちいい。

 喉、身体が整うと、早速練習が始まった。エチュードという即興劇をやった。まずは、福居と新座、一年ふたりと三年ふたりが行った。

 目を擦り瞬きが止まらなかった。終わった後に、すげーとと声が出てしまったくらいだ。確か、場所と出てくる順番を決めただけで、誰が何をやるのか、どんなことを言うのか、何も決めていなかったはずなのに、ひとつの物語が出来上がっていた。

 感心して拍手をしていると、呼ばれた。名前を呼ばれて、舞台に集まった。さっきのように六人だ。じゃんけんをして場所を決めて、————何が何だかわからないまま、自分の順番がきてとりあえず舞台に出ていった。よそよそしくキョロキョロと周りを見ては相槌を打ち、じゃあ行くねと袖にはけようとしたら、捕まえられ舞台に戻されてしまった。自分では何もできずにタイムオーバーだ。

 思っていたものと違っていた。

 情けなくて悔しくて自分に腹が立った。普通に日常会話したらいいんだろ? と簡単に考えていた。

 ……このままじゃ終われない。

 久しぶりに湧き出た感情があった。もぬけの殻だった心のどこかが、隙間風ではなく、炎が吹き荒れた。穴を覆い尽くし、身体の中から熱くなるようだった。


「俺、やるわ」


 帰り道、みんなが話している間、ボーッと考えていた。自分の気持ちはどうなのか、スポーツではないものでやれるのか……ふと思った、どうでもいい。考える必要なんてない。身体も心もやりたいと言っていた。そう思ったら自然と言葉に出ていた。


「んっ? 今何と?」


 聞き耳を立てるような大袈裟な動きで、こちらの周りを回り始めた。


「いつまで回るんだよ!」


 ツッコミを入れると同時に、脇腹を突いてやった。身体をくねらせオウンっと一声発した。そのまま膝をつき、動きが止まった。


「今の強ない? 電気走ったよ電気」

「そんな大袈裟な……」


 何も考えずによそ見をしてしまった。福居はゆっくりと立ち上がった。俺の脇腹を狙っているなんて、数ミリも思うわけもない。悔しくもまったく同じリアクションを取っていた。確かに、電気が走った。


「俺が悪かった」


 福居に捕まり、立ち上がった。


「わかればよろしい!」


 フーッと一呼吸置いて、福居に話した。


「俺、演劇とかそーいったの全然わかんなくて、自信も全然なくて……それでもできるかな?」

「誰だって最初から上手い奴なんていねーよ。俺についてこい!」

「ついていきます!」


 

 サッカーを辞めてから、打ち込めるものなどないと思っていた。けれど、そんなことはなかった。しつこい福居のおかげで、今ここにいられる。この先はどうだろうか、俳優になろうか、今はまだそんなレベルにも達していないから、とりあえずはキャストを取れるように、演技の勉強をするしかない。



     ♤   ♤   ♤



 昼飯を食べて、自分の部屋に戻った。充電中のスマホを手に取って、ベッドに座った。

 いつもよりも気分がいい気がした。気楽な仲間とふざけ合って、好きな人がいて、一生懸命になれることが嬉しかった。こんなこと恥ずかしくて誰にも言えないけれど、大切な友達だ。

 窓ガラスを見ると、川のように雨水が流れていた。その奥は、何本もの線が連なるように、雨が降り続いていた。

 








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