第4話
ある日のこと、あたし金井紗季は、一人でいることを、激しく後悔していた。一人を選ぶと、すべてが一人だけになってしまう。それは当たり前で、だけどそれは淋しい。だけどあたしは、それを択ばざるを得ないと思っていた。
あるきっかけがあって、友達に戻ってくれた。あたしが言葉足らずで、いつも公開して来たのに、またそうだった。それが理由で、仲直りできたのは、嬉しかった。ただ裏切ったつもりはなかったけど、あたしはこの発作で、つらい思いをしていた。それを話せばよかったのだ。ただそれだけの話。
だからきっかけがあり、あたしの友達は、相変わらず友達でいてくれた。理由を離したら、大丈夫か、と言ってくれた。ずっと発作で目眩がして、それがあたしのすべてだった。
だけど違うのだ。話せばよかった。見えなくなっていた。家族の中でも、あたしはそれで孤立しがちだった。家族は話さないわけにはいかない。
そう言えば、別居している母さんから、母さんの旦那さんがお盆、家族でご飯を食べに行こうと誘ってくれていた。家族でご飯を食べるのはいい。でもあたしは兄貴とは仲が悪い。すぐに話が望んでいないほうに行くからだ。しかも当たり前みたいに、あたしを置いて行こうとする。それが嫌だった。
あたしは母さんには会いたかった。歳が歳だ。もう会えないかも知れない。今は電話だけの母さんに、あって話したいことは山ほどあった。だけど行けない。行ってはならない。行ったらまた、あたしは体調を崩す。やっと通所している、そんな状況だった。
いつもあたしは、そうやって自分を追い詰める。自分を追い詰めて、揺れる視界の中、歩いている。もうそれが当然になって来た。昔からそうだった。友達はだいたい、解っていて何かあったかと聞いてくれる。だからあたしも話せた。そうして話して、すっきりする。
いつもあたしは、それで立ち直って来た。あたしはいつだって言葉が足りない。それは解っていた。でもあたしにも理由はあって、いつものことながら、目が見えないのが普通だ。そうして考えてみたら、話せばいいことを、ただ黙って我慢していた。それがつらかったことなど、あたしはざらにある。
そうしてもう一度話せるようになって、あたしはほっとしていた。自分の体調が最悪で、だけど買い物には行かなければならない。そう言う状況だった。薬も取りに行かなければならない。またあたしは追い詰められている。
でも乗り越えてきたはずだった。それは憶えている。当たり前に乗り越え、あたしは今日まで繰り返し、生きて来た。これが当然だった。今は生きることに必死にならなくていい。家がある。普通に生活できるはずだった。
そうだ。あの頃のようにくさびが必要だったわけではない。今はそのくさびは、あたしを縛るわけじゃない。だからきっと安心していた。それが行けない。
あたしは安心してはならなかった。国語がうまいと話してくれた学校は、もう行かなくていい。あたしは卒業して長かった。だからあたしは生きることに必死だった。誰もいなかった。だけど今は一人じゃない。そう思っていいんだ。
あたしに必要なのは何なのか。それが今は見えない。だけどきっとそれは、身近にあって、決してなくしてはならないもの。お互いに支えることが、きっと必要なのだ。もっと話していい。見えない目でも、それはできるはずだ。
話を聞いてくれる先生がいて、病院に行ける日は、発作が起きなかった。だからあたしは、前を向けるはずだった。後ろ向きなのは、あたしが一人だったから。あたしは歯を食いしばって、生きることに必死だった頃が、確かにあった。
そしてあたしは今、こうしてパソコンに向かっている。それが当たり前で、だから引きこもった。引きこもって、ただパソコンを打ち込んでいた。そんな時代があったのは、あたしの過去だ。振り返ってはならない。その時代に戻ってはならない。
頭が痛い。めまいがする。そんな症状なんて、あたしは自分の力で、抜けきるはずだった。立ち直れなくても、あたしはその時代に戻らずに、ただ生きることができたはずだった。それが今までのあたしだ。
今あたしは、毎日のように、目眩と戦っている。でもこれはあたしが後ろを見ているから。戻りたいと思っているから。腕を傷めたり、苦しい時代は、もう終わりにしなければならない。あたしは立ち上がって、前を見て、そうしてまた生きていく。
思えばそれで立ち直って来た。あたしは今、言葉を尽くしていい。そう言う存在にまた会えた。あたしのために、あたしはここにいる。今は言うほど必死にならなくていい。だけど夢がある。その夢をかなえるために、あたしは今、パソコンに向かっているはずだ。
座ってただやみくもに、打ち込んでいるはずじゃなかった。そんな時代に戻ってはならない。もう一度前を向いて、夢をかなえるために、ネットに小説を上げていい。そんな時代だ。今までは違った。本当に一人だった。
父さんが死んで、あたしは一人になって来た。それが当たり前で、兄貴は恩を売っている。そんなの違う。ただ会えなくてもいい。時々話して、元気なのを確認して、あたしは自分で目を向けて、生きていく。
新しいくさびが出来た。それが嫌じゃないのは、あたしが望んでいたからだ。あたしは一人が嫌だった。だけど一人でいる。その矛盾だって、昔から付き合って来た。家族で住んでいた頃も、家族がバラバラになった後も、あたしはその矛盾に苦しんだ。
そうやってあたしは乗り越えたはずだった。だから今回もあたしは乗り越えられる。そう思っていないと、起きていることすら難しい。今日は薬をもらって、買い物がある。それを一人で乗り越えるはずだった。
手を差し伸べてくれる人がいる。そう思ったら、嬉しい。その手を払いのけてはならない。それはあたしの悪い癖だ。一人でいいなんて言えないのに、あたしは一人を選んできた。だったら今は、その手を取って、一緒に歩いて行けばいい。一人でもいいなんて言わない。
小説というくさびが、今はあたしには必要だった。だけど何かに縋り付いて、それが当たり前だと、そう言ってはならない。あたしは縋りつくのが当たり前になっていた。だからそれが当たり前ではなく、自分らしさを保たなければならない。
それが当たり前で、だからあたしは耐えられた。それを取り戻さないと、あたしはもう二度と立ち直れなくなる。暮らしていた街に帰るなら、あたしはそれを取り戻す。今はそれだけの試練。あたしは思い出さなければならない。そう思った。
一人を択ばなくていい。あたしは自分でいられる場所が、少なくともある。今は被がかげるのが早くなっている。日が出るのも遅くなっている。そう言えば、あたしはそれが当たり前だった時代が、確かにあったのだ。だから友達に感謝して、今日はここまでにしておこう。一人称が多くなったけど、これがあたしの偽らざる気持ちだった。
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