心の声

@kanaisaki

第1話

 あたし、金井紗季は、どうしていいか解らなくなっていた。この街は、薄情だ。人に責任を押し付けるばかりで、自分の責任を果たそうとしない。まずは自分で責任を果たして、そこで初めて言えるのではないだろうか。

 この街で暮らしているけど、あたしはもともと西方の人間だ。西方の生まれで、西方の育ち。すでにこの歳まで、自分の思うことを書いてきた。だがそれが確かだとは思わない。そしてあたしは、自分が正しいとも思っていない。それが当たり前だと思ってるだけだ。

 具合が悪い時、人に報せることなど、できない。動けなければ、外に出ることもできない。電話を持たないから、電話することもできない。それが当たり前。あたしは土日と、いつも商業施設に行って、自分のパソコンを打つ。ネットがあるからだ。

 どんな時もあたしは、自分を貫く思いがある。だけどそれが迷惑なら、あたしはそれを人には言わない。それがあたしという人間だ。もう二度としないと思ったら、そこまで。それで終わり。誰かが気を遣っているのなら、その誰かはつらいのだろう。

 だけど自分だけが気を遣っていると思ったら、それは外れだと言える。違う誰かは気を遣っていて、そしてまた相手がいる。それが自分だと解らない人もいる。今あたしは送迎に乗っている。そして作業所に行っている。それが日常。でも非日常。

 いつも文章を打っていたい。それが本音。そこに絡む本音がある限り、人は本音を持って生きている。それが嫌なら、もういっそのこと、付き合いをやめた方がその人のためだろう。そう思って、あたしは他人との付き合いを続けたり、やめたりしている。高校の時から、あたしはそうして来た。

 中学の時、あたしはあることでいじめられていた。言葉だ。あたしの故郷の言葉は、解りにくい。そして通じる人と通じない人がいる。故郷に帰れば、自然と出てくる言葉を変えることなど、容易いことではない。

 いつだってそうして来たのに、今そうできない。グループホーム、作業所。そう言ったところで暮らしているからだ。故郷に帰るお金が要ると、思いこまれている。

 日々の貯金でそれをまかなって、旅行に行く段取りを、考える。考えるのは他の人だが、あたしは予定を変えて、勝手に旅行に行くので、これは怒られる。それは当然だ。解らないことばかりの旅行。そしてそれから帰ってくると、言葉は自然、故郷の言葉。

 それが解らないのに、矢継ぎ早に言葉を言って、それが当たり前だと思っている。そんなのはいやだ。なのにそれが言えない。言ってはならない。そう思って来た。紗季という名前が表す、意味を考えたら言えなかった。

 だけど言ったほうがいいのだろう。きっとそれは、正直な気持ち。ある日、こんなことがあった。何も聞いていなかったのに、そこに来るはずの人が来なかった。送迎の運転手は、そこにいたあたしに聞く。当たり前だ。同じグループホームで、一人だけなのだから。

 そして五分ほど待って、来ない。仕方なく作業所に行った。それに対し、文句を言ったのは、当然のことだっただろう。寝坊するほど夜更かしするほうが悪いし、夜更かししていなかったら、もっと性質が悪い。次の日に、何気なく乗っているのもムカついた。

 謝りもしない。待たせたことが当たり前になっている。それがあたしには許せなかった。だけどそれはあたしの心の声。人のことではない。だから黙っていた。そしてこの時、あたしは電話を持っていた。だから電話連絡もできる。

 ただあたしは下手な人には、電話番号を教えていない。兄貴との仲は不仲で、悪化する一方だったため、教えられないのだ。そう言った事情を知っている人間でなければ、あたしは教えることができなかった。教えた人は、ほとんど知っている。

 この時のあたしは、ショートメールもできたし、電話もできた。だがあまり教えていないため、相手に伝わらない場合もある。そして一人は教えていたが、一人は教えていなかった。それが具合が悪い時まで、部屋を訪ねて、教えろというのだから、どんな元気な人だと思う。

 これが伝わらないのなら、実は常識がおかしい。そうは思うが、相手があることだ。人には言えない。だからあたしの胸に留めた。それが悪かったのか、仲は悪化する一方。だがこれは曲げることはできない。

 あたしは一人で抱えることにした。だが作業所の職員の一人には、言った。あたしが目指すものを知っているからだ。あたしは自分の夢は、公言してきた。だから知っている人がほとんどだ。それでもあたしは、こうして書くことをやめられない。

 だからこれはあたしの思っていること。電話があれば、電話すればいいと思うかも知れない。でも教えられる危険を冒して、これ以上電話番号を言う気はない。そして夢がかなわないことには、あたしは暮らしていくすべがない。だから今この時も書いている。

 それがあたし、金井紗季の夢。思ったこと。今はこのことを記してすべてを終える。でもいずれ続くだろう。あたしの日常は、今はここにあるのだから。次は楽しい報告をしたい。

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