theater14: 怪談噺
■〈せっかちは三文の徳〉■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
♪ ピンポーン ♪
「ああ、雑誌社の人?大家さんから聞いてますよ。ささ、どーぞ、入って入って。いーですよ、靴なんか揃えなくって。おーい、お客さんだ。茶ぁ入れてくんな……え?独り身って聞いた?いえね、実は最近カミさんをもらってね……籍は入れてないから内縁ってヤツ。大家さんにはご内密に……へへっ。
「録音?どーぞどーぞ。あたしゃ早口だから、メモ取るの大変でしょ。せっかちが服着て歩いてるってよく言われますよ。ガキの頃からですよ、ええ。運動会の徒競走じゃ必ずフライングして嫌がられるタイプ。オヤジもオフクロも死んじゃってんですけど、遺言が『車の運転はするな』『モチ食うときには落ち着いて』でしたよ。去年の事故だって、信号が青になった瞬間、横断歩道に飛び出しちまったもんだから右折してきた車にドーンと……。10何メートルか吹っ飛んだんだけど打ち身だけで済んじまって、生命力強すぎだって医者もビックリで。
「え?その事故じゃなくて、事故物件?この部屋が??契約時に説明……あったっけ、そんなの。いえね、こんなだから仕事も急き過ぎて数字しくじっちゃってクビんなってね。前のアパートは家賃溜めて追ん出されちゃって住むとこ探してたら、ここ紹介されたんですよ。駅近で風呂トイレ付き2DKで月2万3千円とか、もう即決ですよ、即決。
「事故物件の怪奇現象リポートねぇ……。なーんにも怖いことないけど……あ、ビックリしたことはあったね。バイト終わって帰ってきたら、知らない女がほら、そこのハンガー掛けに紐かけて首吊ろうとしててさ、もうウワーッて慌てて引きずり降ろしてね。そん時は逃げられちゃったんだけど、それから毎晩のように首括りに来んのよ。鍵かけて出て行ってんのに、どっから入ってくんだか。こっちもたまったもんじゃないから、気合い入れてとっ捕まえて説教よ。聞けば、何でも前にここに住んでた男にさんざ尽くした挙句、裏切られて捨てられてさ、当てつけに自殺してやろうって。住人が代わってんのに気が付かねぇかな、あたしもそそっかしいけど、向こうも大概さね。そうやって助けちゃ説教を繰り返している内にお互い憎からず思えてきちまって、そのうち彼女、普通に座ってあたしの帰りを待つようになって、今じゃ料理とか掃除もしてくれんのよ。嬉しいじゃないの。で、ちゃんとした仕事につけたら改めて祝言あげようかなって……ねぇ、顔色が悪いですけど、どうかしました?そんなに震えて……。そう言えば、さっきからカミさんがあんたの後ろに立ってもの凄い目でにらんでっけど、昔の男に似てるんですかね?まさか御本人ってことはないですよねぇ……?
(Stigmatized Property ・ Fin)
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