アタシ、グレース! 夜露死苦!!

高山小石

第1話 よくある婚約破棄からの罰的婚姻中に

 ダンッ! ダンッ!


「グオォオオオッ!!」


 小刻みに続く振動と獣の声に目を開けると、壁沿いに天井まで備蓄品がキッチリ積まれているのが見えた。


「なんで避難所で寝てんだ?」


 体を起こそうとしても、身動きできない。内から叩かれ続けるような頭痛に顔をしかめながら、ギリギリなんとか首を持ち上げると、婚礼衣装が視界をかすめ……ガクッと力が抜けた。


「結婚式の最中に魔物に襲われて前世を思い出す……ナイわぁ」


 でも、今アタシが無事でいるということは、魔物にふっ飛ばされたアタシを、見捨てることなく避難所まで運んでくれたということで。


「受けた恩はキッチリ返す! それが……イタタタタ」


 衝撃が残っているのか、前世の記憶が戻ったせいか、頭が割れるように痛い。

 回復術の副作用で体も動かないことだし、動けるようになるまで、記憶を整理しよう。


 アタシは元公爵令嬢グレース。

 どうして元かを十秒で。


 第二王子から冤罪かけられ婚約破棄。

   ↓

 王命で罰として不人気な辺境での婚姻を強制。

   ↓

 式の最中に魔物の襲撃。←今ココ


「あーっ、もーっ! ダンダン、グルグルうるっさい!」


 さっきから外にいる魔物は、アタシのことが気になって仕方ないらしい。

 いらだたしげに前足をドスドス、吐き出す熱い息で何度も窓を曇らせている。


 辺境であるここは、国境にもなっている魔の森に面しており、魔の森からは実に様々な魔物が出てくる。


 現在、窓から見えている魔物は、見た目二足歩行小型恐竜。大型犬ほどの大きさながら力押しタイプ。

 獲物であるアタシが見えているのに手が出せないのが腹立たしい様子。


 現状を認識しながら、(前世を思い出すなら、もっと早く思い出したかった!)と内心逆ギレ中。


 そもそも、なんで、あんなアザトい令嬢にしてやられてんの?

 王子も王子だよ。王子が簡単に骨抜きにされるなんて、情けない。

 もう少し早く思い出せていたら、あの女子の目論見をバッキバキに折ってやったのに。


 婚約破棄はいいとして、ラノベ大好きミーちゃん情報によると、テンプレとかでは、辺境に追放後はのんびりスローライフが始まるはずでは?


 なにゆえガチな戦闘生活!?


 今アタシがいる避難所は、辺境のいたるところに建てられていて。

 魔物よけがほどこされた頑丈な避難所は、むしろとりで。しばらく籠城生活できるように、武器・食料・衣類・寝袋といった生活必需品が大量に備蓄されている。


 でもこの避難所にアタシ以外の誰もいないということは、みんな戦いに出てるってことで。

 それくらい今回は侵入された数が多いってことだ。


 ちなみにマジ戦闘職な方々は、交代で最前線を維持しておられるとか。


 象やキリンより大きいオオモノはもちろん警戒対象なんだけど、頻繁に大量発生する小魔物がクセモノ。

 小魔物は前線をすり抜けて街にまで入ってくる。

 それが日常過ぎて、辺境の住人は、女性もお年寄りもチビっ子も、もれなく戦える。


 辺境に来た日、小学生くらいの子どもが、一人で平然と、その子と同じ大きさの魔物を倒しているの見て言葉を失ったのは、もはや懐かしい思い出。

 公爵令嬢だったアタシも、今ではすっかり日替わりで現れる魔物に慣れてしまった。


 微妙な例えをするなら、不快だけど、倒してもたおしても、いなくならないアレみたいな扱い。

 

 ようやく体が動くようになってきたけど、アタシは戦わないほうが邪魔にならないかな。


 魔物に慣れるのと魔物に勝てるのは別物で。

 剣を扱えないアタシは、小魔物にも苦戦してしまうザコっぷりなのだ。


 壁に据え付けられている、辺境内魔物感知地図で魔物の位置を確認する。地図上には数え切れない魔物の赤い点が光っていた。


「ウソでしょ……」


 ここ一番の大量発生具合にゾッとする。

 

 これは手近なの一匹でも減らさないと。

 でも、婚礼衣装は一人で着替えられないし、避難所から出て戦うのは怖いから、避難所から首だけ出してヒット&アウェイを狙おう。


 剣を扱えないアタシの唯一の対抗手段。太もものガーターベルトに隠し持っていた武器を抜き取る。


 いつの間にやら増えてた、窓ごしに鼻息荒くアタシをうかがっていた魔物 たちに、武器をビシィッと向けた。


「いーい? あんた達のおかげで皆が準備してくれた式が台無しになったんだからね! その報い、とくと受けとりやがれください!」

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