第4話「王太子との対面とモンスターの襲来!」



国境には、隣国の王太子と兵士が迎えに来ていた。


馬車の中から見た彼らは、鎧に身を包み、隊列を組んでいて、とても勇壮だった。


隣国はモンスターの被害が多いという。


王太子自ら指揮を取り先頭に立って、モンスターと戦っているという。


殺戮の王子という二つ名は、そうしたことから付けられたのだろう。


異母妹は怖がっていたけど、民を守る為に率先して戦うなんてかっこいいと思う。


隣国の兵士が馬車のドアを開けた。


馬車から降りて挨拶しろということなのだろう。


お姫様らしく上品に降りようと思ったが、慣れないドレスに足を取られ、バランスを崩してしまった。


このまま地面に激突するのかと思ったけど、一向に地面が近づいて来ない。


フェルが引っ張ってくれたのかと思い、振り返ってみたが、彼の姿はない。


誰かが正面から支えてくれたことに気づくのに、大分時間がかかってしまった。


顔をあげると、燃えるような真っ赤な瞳と目が合った。


漆黒の髪、切れ長の真紅の瞳、高い鼻に、整った顔立ち。


私より頭一つ分大きな彼が、おそらく隣国の王太子、レオニス・ヴォルフハート様なのだろう。


「失礼いたしました」


彼の腕の中にいることに気づいた私は、ぱっと体を離した。


「アリー、大丈夫?? 怪我しなかった?」


心配して駆け寄ってきてくれたフェルにコクリと頷いて返す。


みんなにはフェルが見えていないし、彼の声も聞こえていないので、返事をするわけにはいかないのだ。


王太子に向き直り、淑女の礼をする。


「先程はお恥ずかしいところをお目にかけました。私の名はアリアベルタ・ノーブルグラント。ノーブルグラント王国の第一王女です。ヴォルフハート王国のレオニス殿下とお見受けします。この度は国境まで出迎えてくださりありがとうございます。ふつつか者ですが、いつ久しくよろしくお願いします」


私が挨拶をすると、周囲からどよめきが起こった。


目の前にいる王太子も、私の顔を見て訝しげな顔をしている。


私の挨拶の仕方はそんなに酷かったかしら?


母から一通り淑女教育を受けたとは言え、長年カーテシーなどすることがなかったので、形が変になってしまったのかもしれない。


「なぜ、第一王女なんだ……?」

「第二王女が輿入れするはずでは?」

「第一王女ってあれだろ? 金遣いが荒くて、暴力的って噂の……」

「美少女と名高い第二王女ではなく、悪名高い第一王女が輿入れしてくるとはな……」

「詐欺じゃないか……」


どうやらヴォルフハート王国の兵士がざわついているのは、私の挨拶の仕方ではなく、私の存在自体のようだ。


隣国の人たちは妹が嫁いで来ると思っていたらしい。


国王や国民に愛されている評判の良い妹ではなく、悪評高い私が嫁いで来たのだから、こういう反応になっても仕方ない。


それにしても、私の悪い噂って隣国にまで届いていたんだ。


これから長い期間、この国で暮らすのに、やりにくいなぁ。


「静まれ!」


そんな兵士たちを王太子が一括した。


「ノーブルグラント国王は、『娘を嫁がせる』と言った。第一王女も国王の娘。嘘はついていない。こちら側が勝手に誤解しただけだ」


王太子殿下は、話が分かる人のようだ。


「部下が失礼した。俺の名前はレオニス・ヴォルフハート。この国の王太子だ。末永くよろしく頼む」


「はい、殿下」


王太子から差し出された手を握り、握手を交わした。


彼となら、上手くやっていけそうだわ。


そのとき、森の方から持し引きが響き、「モンスターだ!!」という言葉が響いた。


モンスター……?!


隣国にはモンスターが沢山出るとは聞いていたけど、こんなに近くに出るなんて……!


予想していなかったわ!


「アリアベルタ王女を馬車に入れろ! お前は馬車の警護をしろ! それ以外は持ち場に付け!! モンスターを迎え撃つ!!」


言うが早いか、王太子は近くにいた兵士に私を託し、森に向かって駆け出して行った。


「王女様は馬車の中に!」


私はフェルの姿を探した。


モンスターには姿を消していてもフェルの姿が見えるかもしれない。


「フェル……!」


小声で叫ぶと、背後から声がした。


「僕はここなのだ。近くにいるから心配しなくても大丈夫なのだ」


フェルの声を聞いてほっとした。


私が馬車の中に戻るど、扉が閉められた。


窓から外の様子を見たかったが、メイドのジャネットにカーテンを閉められてしまった。


「嫌だわ! こんな野蛮な国! 早く帰りたい! なぜ私がこんな国に来なければいけないの?!」


ジャネットはガタガタと震える体を押さえながら、ブツブツと文句を言っていた。


外からは「ウギャーー!!」とか「ぐわぁぁぁぁあ!」という、モンスターの断末魔が聞こえてくる。


私はフェルを膝の上に乗せぎゅっと抱きしめた。彼を抱っこしていると不思議に落ち着いた。


フェルが見えない人間からは、何もない空間を抱きしめているように見えたかもしれない。


カーテンはしまっているし、同乗しているジャネットはずっと目をつむっているので、不審に思われることもないだろう。


どうか、王太子殿下と兵士たちが無事でありますように。


しばらくして外が静かになり、やがて兵士たちが勝どきを上げた。


モンスターに勝利したことがわかり、安堵の息をついた。


そっとカーテンを開けて外の様子を伺う。


こちらに近づいてくる王太子殿下の姿が見えた。


モンスターの返り血なのか、彼の血なのかわからないが、彼は全身血まみれだった。


大変、怪我をしているなら治療をしないと……。


そう思った時……。


「きゃあっ!」とジャネットが悲鳴を上げ、「化け物!!」と言ってカーテンを締めた。


彼の位置からはジャネットが見えなかったかもしれない。


だとしたら悲鳴を上げたのも、「化け物」と叫んだのも私だと思われただろう。


カーテンが閉まる直前に王太子殿下と目があった。


彼はとても悲しそうな目をしていた。



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