第2話 怒られた……

「ふふ〜ん♬」


 俺の横で楽しそうに歌っている莉子。

そんなに部活が楽しみなのか?

まあ、俺も今は無表情だけど実はかなり楽しみにしている。

何故なら……俺の趣味である『イラスト』を描けるからだ!

 俺が所属している部活は『漫画研究部』……通称『漫研部』。

だけど、俺が1年生の時に漫研部は『漫画部門』と『イラスト部門』に分かれた。

最初は漫画を専門とした部活だったけど、とある先輩の提案があって今の形になった。

俺は漫画よりイラスト派だから、その時はすごいありがたい話だった。

あの先輩、今何をしてるのかな……。


「おーっす」


「こんにちはー!」


「莉子、急に大声出すな」


「おお〜、またお前ら2人で来たのか。お前らカップルか?」


「んなわけないだろ。こいつはうざい後輩だ」


「なっ! 酷いですよ先輩!」


 俺のことを叩いてくる莉子のことは、ひとまず置いておいて……。

一足早く来ては作業をしているこいつの名前は、山本やまもと 和真かずま

俺と同じ3年生で、見た目からしてオタク感満載の男子高生だ。

 和真にとって漫画は命らしく、2次元の美少女こそが正義というスローガンを自分の中で掲げている。

そんなオタク満載の和真だが、やはり命をかけているだけあって絵はものすごい上手い。


「和真、ちょっと見せてもらっても良いか?」


「おう! じゃんじゃん見てってくれ!」


「りこにも見せてくださーい!」


「どうぞどうぞ!」


 お前もついてくるのかよ……。

まあ良いけどさ、邪魔だけしないでくれよ?

 それにしても……まじで上手いな。

手が大きいくせに、繊細な線と優しいタッチで描かれている。

そして、ストーリー性も見ただけで感じる……とても素晴らしい。

だから、和真は漫研部の中でも一番の実力を持っていると評価されている。

俺でもこんな絵描けねえよ……。


「やっぱお前の漫画はすげぇな。叶わねえよ」


「いやいや、そうでもない。この3年間でだいぶ形にはなってきたけど、もうちょっとって感じなんだよ」


「これ以上を目指すなんて……俺お前が眩しすぎて見えねえわ」


「ははっ、それは大げさだな」


 和真は遠慮がちに言ってるけど、俺は褒めちぎるから。

だってまじで上手いんだもん。

俺もこれくらいうまく描けるようになりてー!


「やまもと先輩、どうやったらこんなに上手にかけるんですか?」


「うーん……やっぱり毎日書くこと、そして……キャラクター1つひとつに命を吹き込んであげることだな」


「命を吹き込む……りこたちみたいに生きているってことですか?」


 お、珍しく鋭い答えを出してきたな。


「まあそういうことだな。例えば――――そうだな、この子マヒルちゃんって言うんだけど……。この子は髪型にこだわってる。マヒルちゃんはこの作品に出てくるキャラクターの中で一番髪が長い。だから、髪の動きに一番気を使ってるんだ。髪が長いってことは髪の手入れを欠かせない人ってことだから、髪の質も一番キレイにしてあげてるんだよ」


 さ、さすが和真だな……。

話していることが次元を超えていてちょっと混乱してきた。

 まあ俺は良いとして、問題は莉子。

自称『頭の悪い莉子』は果たしてこの話についていけるのだろうか?


「ふーん……。なるほど、良く分かりました!」


 あ、これ分からなかったやつだ。

もう分からなくてスッキリした顔してるもんな。


「ということは、キャラクターにはそれぞれ特徴があるから、それを意識しながら描いたら良いってことですね!?」


「そう! 良く出来ました莉子!」


「やったぁ! りこ正解しちゃった!」


 ま……まじか!

あの莉子が……あの莉子が真面目な回答をして正解しちゃったぞ……。

俺の頭の中に、たくさんの俺が『ざわざわ、ざわざわ……』言ってる。


「先輩! りこ正解したので褒めてください!」


「えっ、あ……す、すっごいじゃないかー。俺は凄い感激してるぞー」


「なんで棒読みなんですか?」


「いや、ちょっと驚いたっていうか……」


「どういうことですか?」


「い、いやなんでもな――――」


「勝は莉子がちゃんと答えを言っていたことに驚きすぎたってことさ」


「それって……りこを馬鹿にしてたってことですかぁ?」


「そ、そんなわけ――――」


「まあ、そういうことだな」


 おまっ!?

何で全部口に出すんだボケ!


「ふ〜ん……先輩」


「な、なんだ?」


「今日はやけにりこのこと馬鹿にしてましたよね? ちょっとこっち来てもらっても良いですか?」


「お、おう……」


 あ、俺今日で人生終わるんだ……。

俺は莉子に腕を引っ張られながら、ちらっと和真の方を見た。

和真は……グッドサインを出して歯を光らせた。

 畜生!

あいつ覚えてろよっ!

絶対痛い目合わせてやる!


「さて、よそ見しないでちゃんとりこの顔を見て聞いてくださいね?」


「は、はい」


「先輩……今日会ってから今まで、りこのこと何回馬鹿にしましたか?」


「あ、えっと……2回くらいじゃないすかね?」


「2回? 正直に言ってくださいね先輩」


「はい! 2回どころか、莉子と会ってからずっとです! なんで数は無限です!」


「ふ〜ん……先輩は酷いです。こんなに可愛い後輩がいるのに、数え切れないくらい馬鹿にするなんて先輩はアホなんですか?」


 お前に言われたか無いわ!って言おうとしたけど、今それを言ったら確実に殺される。

ここはぐっと我慢我慢……。


「あ、ほら、またお前に言われたか無いとか思ってるんですよね? りこは意外と勘が鋭いのでこういうの当てちゃうんですよね〜」


 はい、当たっております……。

終わった、俺終わった気がする。


「じゃあ先輩はたくさんりこのことを馬鹿にしたので、痛い目見せてあげますよ。莉子が昔習った『柔道』で」


 俺は一瞬にして見ている世界が逆さまになった。

莉子に言われた通り、俺は痛い目を見ることになった。

父さん、母さん……俺いま、後輩に殺されそうになってるよ。

18年って短い間だったけど、ありがとう……。




〜完〜(船木 勝がお亡くなりになられたため)





 ってなるかー!

確かに痛い目は見たけど勝手に殺すな!

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