俺をからかってくる妹の友達が泊まりに来た

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第1話 ポケットの中にはパンツがひとつ

 俺は今、正座をしている。

 いや、という方が正しいか。


「ねえ、兄ちゃん。なんでこれ、持ってたの?」


 妹である京香きょうかは、あるものを手に持ったまま俺に問いかけてきた。その間、正面を見る事を許されていない。なぜなら、そのあるものを見てはいけないからだ。


「なんでって、事故だよ。勝手にポケットに入ってたっていうか……」


「そんなわけないでしょ! どうしたら勝手にポケットの深くまでが入るの!」


 京香の怒号に思わず腰を深く曲げた。顔は見れていないが、絶対怖い顔をしている。もしそうならカワイイ顔が台無しだよ、まったく。


 このように俺は怒られているにも関わらず余裕があった。

 だって、俺は悪くないし。それに、誰が原因かも分かっている。


「まったく……。今日は佳奈かなちゃんが泊まりに来てるのに……」


 佳奈――鹿目かなめ佳奈は京香の友達だ。小中高と一緒らしく、よく一緒に遊ぶと聞く。


 そして、今。その佳奈が家に泊まりに来ている。


 そう、すべての原因はきっと佳奈だ。パンツを仕込んだのはきっと、佳奈だ。


「あたしは大丈夫だよ」


 京香の隣から聞こえる佳奈の声。悪びれた様子はなく、平然としている。


 友達の兄に変態疑惑が出ているというのに、動揺していない。自分のパンツが兄の部屋着のポケットに入っていたというのに。


「でも、あたしのパンツをポケットにいれるなんて。とんでもない変態なんだね、お兄さん」

 

 今すぐぶっとばしてやりたい。誰のせいでこうなったと思っているんだ。


 しかし、今顔を上げれば空手黒帯である京香の蹴りが飛んでくるに違いない。

 それだけは避けなければ。ここはガマン、ガマンだ……。


「とりあえず、兄ちゃんは私の部屋に来ないこと! 何か用事できたら連絡して」


「まあまあ京香ちゃん。お兄さんも悪気はなかったと思うよ。理性を抑えられなかったんだよ」


「そんなわけあるか!」


 耐え切れず、顔を上げてしまった。たかが一つ歳の離れた女の子にここまで言われては、耐えろと言われる方が無理だろう。


 怒りというか、弁解したかっただけだ。俺が高二の思春期真っ只中だからってそんなことするわけもない。そもそも京香の友達だ。そんな目で見れない。


 幸い、京香の蹴りは飛んでこなかった。説教のキリがよかったのか、パンツを手に持ったまま自分の部屋に向かおうとしている。


 佳奈は京香についていっていたが、開かれた扉から出ようとした時振り向いてきた。


「それじゃ、お兄さん。また後でね」


 扉の隙間から見える佳奈のほくそ笑む顔。


 まったく腹立たしい。いつも、いつも佳奈にからかわれる。


 昔からそうだ。一緒に遊んでいるときも。買い物に付き合っているときも。


 今回家に泊まりに来たのもきっとそうだ。俺で遊びたいんだ。


 今日は金曜日。そして、時刻は20時をまわったところ。


 佳奈は日曜日まで家にいると聞いている。つまり、二泊三日。


 そして、今週末両親は実家にいる祖父母と旅行に行くため家に帰ってこない。


 家には俺と京香と佳奈。もう、嫌な予感しかしない。


「うお!?」


 突然、ポケットに入れていたスマホが振動した。この時間帯に連絡が来るとしたら両親だろうか。


 何も疑わずにスマホのロックを解除してメッセージを確認する。


『あは』

『お兄さんおもしろすぎ!』

『あたしのパンツ仕込んどいてよかった』


 佳奈からだった。さらっと罪を告白しているし、煽っているのか?


 思わずスマホを投げそうになったが、なんとか耐える。


『やっぱり佳奈だったか』


 少し落ち着いてから返信したため、多少間があった。


 それにも関わらず、すぐに既読が付く。京香が一緒にいるんじゃないの?


 仲が良いと話さずとも一緒にいることは苦ではないと聞くけど、スマホをいじってても問題ないのかな。


『これから日曜日までよろしくね、お兄さん』


「くっそ……」


 やっぱり、からかわれている。


 さて、この三日間どう過ごそうか。

 そもそもちゃんと寝れるのかすらわからない。

 最低限の生活だけは確保しなければ。


「……よし!」


 俺は頬を両手で引っ叩いて憤りを吹き飛ばした。


 もし、また佳奈が何かしてきたら今度こそ叱ってやろう。これは俺の社会的地位を守るためだ。


 まあ、最初に佳奈のパンツが俺のポケットから出てきた時点で危ういけど。


 こうして、俺にとって地獄の三日間が始まった。




 ――――――――――――――――――――――

 ○後書き

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