108-4

「すっかり世話になったみたいだな」

はしゃぎつかれたのか眠ってしまったケインに苦笑する

「気にしなくていいよ。私も楽しかったからね」

ルーシーさんはそう言いながら手紙をこっちに渡してくる

「これをサラサに」

受け取った手紙にはフルネームが書かれていた

しかもその名前に見覚えがある


「流石に気付いたかい?」

「…王家筋…」

「正解よ。私は王弟の三女だったの」

いきなり口調が変わった

「過去形?」

「側妃の娘は邪魔だったようでね。3度目の暗殺事件があった時に家を出たのよ」

「そんなことが可能なの?」

レティのその問いは尤もだ

「男だったら無理だったでしょうね。女は子が生めないよう魔法による処置を受ければ可能だそうよ」

「え?でも息子がって…」

「どうやら私の魔力の方が高かった様でね?」

ルーシーさんは笑いながら言う

基本的に魔法は自分のレベルより高い人にはかからない

ただし補助魔法や回復系魔法なんかの相手を助けるための魔法に関しては例外だ


「スタンピードの混乱に乗じて名前や髪の色を変えてこの町に来たのが10年前。今では私が王家筋だと知っているのはスチュアート家の当主と『弾丸』の関係者、この町の領主と冒険者・商業両ギルドのマスターと商会長くらいかしら」

何か問題が起きた時の保険で知らせてあるという感じだろう

「そうそう、あなた達の見つけたファシスネーションフラワーの研究もスチュアート家から依頼されて私たちがしてるのよ?」

「えー」

まさかの繋がりだった

ひょっとしたら陛下も気付いてるんじゃないだろうか

それでも表立って動かないのはコーラルさんの計らいか

“私達”にどんな人が含まれるのかはあえて聞かないでおこう


「ケインがここに来てくれた時はちゃんと守ると約束するわ。私の知識をこの子に教えたいし、この子の私にはない視点に期待してるの」

まだ10歳のケインに対してここまで言うのはどうなんだろうか?

「それに私ならケインの手助けをして上げれると思うわ」

「手助け?」

「足の状態の緩和」

「!」

ケインが話したのか?俺達にも話してないのに?


「これはケインの前では知らないふりをしてちょうだいね。ケインがサラサの治療を受けないのは…孤児院に同じような怪我をした子がいるからみたいなのよ」

その言葉に頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を覚えた

確かに孤児院には足を引きずるケインと同じ年の少年がいる

母さんと一緒に孤児院に時々顔を出すケイン

そのケインの足が治ってもその子の足は治らない

ケインはまだ幼かったころから母さんの回復魔法が普通じゃないと理解していたってことか?


「痛みに対して神経に働きかける作用のある物、麻痺する部分に刺激を与える物、様々な薬草がここには集められるの。ケインが興味を持つのはそう言った薬草ばかりよ」

「自分で治そうとしてるってことか?そして孤児院の子も、似た症状の子も救うと?」

驚く俺達にケインがその時に零した言葉を余すことなく伝えてくれた

「まだ10歳なのに…」

「そうね。正直私にもまだ未知の世界なの。でもそんな未来を夢見たいと思うわ」

ルーシーさんには救いたくても救えなかった人がいたのだろう

何故かそう確信していた


「ケインのことと関係なく必要な薬草があるなら連絡してくれ。俺が手に入れて見せる」

「私も協力するわ」

「あら、それは頼もしいわ。その時は頼らせてもらうわね」

上品な笑い方に貴族の姿を垣間見える

でも不思議と嫌な感じはしなかった

俺はケインを抱き上げレティと共に薬屋を後にした


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