閑話9-2

「ウザいって言葉を理解できないお前らにそれ以上何を言えと?」

「は?」

「レイの方針で一般人にはできるだけ力を使うなと言われて育ったシアが、付きまとわれて迷惑だとしても、お前らを力でねじ伏せるわけにはいかないだろうが」

「だよなぁ…普通ならあれだけ付きまとわれたら殴り飛ばしてるよな」

「言えてる。興味ない女にしつこく言い寄られて喜ぶのは一部の女好きだけだろうし」

「大体ちょっと考えたらわかるだろ?お前がウザいって思う男に、同じようにしつこく付きまとわれたらどうするんだよ?」

「そんなの張り倒すに決まってるじゃ…え…?」

自分で口にして初めて自分のしてきたことを自覚したのか固まった


「私としてはあんた達もよくやるわ~としか思えなかったけどね」

自分に自信をもって言い返した女を真っすぐ見据えてそう言ったのは八百屋のエマリアだった

「どういう意味よ?」

「シアはずっとあんた達に意識も関心も向けてなかっただろう?うっとうしいと思いながらも言葉も通じない、気持ちも読み取ってもらえない、そんな相手は気にかける価値もないってよく言ってたからね」

「気にかける…価値がない…?」

ため息交じりに吐き出された言葉に女はつぶやくように繰り返したまま黙り込む


「ウザいと言わなくなったのは言っても無駄だし、そのやり取りすら無駄なんだと見切りをつけたからだよ。以前のシアの言葉を借りれば“空気と思えば腹も立たない”だったかしらねぇ」

「空気…」

「そんな様子にさえ気付かず自分たちの都合のいいように受け止めてたってことだからね。呆れる以外どうすることもできないわね」

エマリアは心底呆れたように言う

普段親し気にシアと話すエマリアの言葉だけに重みがあったのか誰も何も言い返さなかった


「まぁシアが女に興味示さない原因はお前ら自身にあったってことだな」

何処かの親父がそう言ってガハハと笑うと辺りからも笑い声が広がる

そんな中シアを狙っていた女たちはただ項垂れるだけだった

「自分で自分の首を絞めるってのはこういうことを言うんだろうな」

「だがあれだけ女を警戒してたシアが心を許せる相手を見つけたことは目出度いな」

シアを幼いころから見て来た冒険者たちはお祝いモードだった

既に乾杯を始める者もチラホラみてとれる


「それにしても…シアは完全にレイの血を引いてるな」

「ああ。あの極端さはちょっと懐かしいくらいだ」

「サラサちゃんと出会ってから変わったからね~あれは別人だったもの」

口々に言うのは町の人ならではかもしれない


「あの溺愛ぶりもしっかり引き継いでるみたいだし…他の女には目もくれないだろうな」

「俺としてはレティシアナちゃんが哀れだな」

「あぁ…サラサも大変そうだったもんなぁ。って今もか?最近また1人増えたんだよな?」

「増えたな。女の子だって顔がにやけてた」

「ナターシャもサラサも未だに結構な頻度で抱きつぶされてるみたいだしな」

そんな会話に皆それぞれの反応を見せる

悔しさを露わにする者

大切な相手を見つけたシアを微笑ましく見守る者

そしてレティシアナの今後を心配する者

いずれにしても自分が立ち去った後にそんな騒ぎがあったことをシアもレティシアナも知ることはない

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