第55話 合同結婚式
私たちの合同結婚式は国をあげての盛大なイベントになった。自然も祝福の意を示すかのように、空は穏やかな晴天に恵まれた。太陽は、その金色の冠を頭に戴いて輝き、その暖かな光が出席者たちの心を照らした。風はふんわりと吹き、花々や木々の葉がそっと揺れ、誰もが幸せな気分に包まれた。
「素晴らしい天候に恵まれましたね。雨でも降ろうものなら私の力で快晴にしてやろうと思いましたが、なにもしないでこの天気。まさに、神様が私たちを祝福してくれているのだと思いますよ」
ニッキーがそのように言って、満足気に微笑んだ。ライオネル殿下は神に感謝の言葉を口にし、私もそれに倣う。マリエッタ様はそわそわしながら、立ったり座ったりと忙しい。
「緊張しますわ。式にいらしている方々は高位貴族ばかりですし、他国の王族もいます。しかも、立ち会いをしてくださるのは大司教様ですよね。誓いの言葉を忘れそうです」
「大丈夫ですわ、マリエッタ様。私たちが先ですから、それを真似れば良いだけです。少しぐらい間違っても誰も気づきません」
通常、新郎新婦の控え室は別々に用意されるけれど、私たちは特別に四人で大きな控え室を使用することになった。ライオネル殿下もニッキーも、花嫁姿になった私たちの側から離れようとしなかったからだ。
私のドレスはボナデアお母様が嫁ぐ時にお召しになったドレスだ。それは純白のドレスで、胸元は繊細なレースで飾られていた。ウェディングドレスのウエストからヒップにかけてのシルエットは、美しいカーブを描いており、まるでマーメイドの尾のように広がっていた。
ドレスの裾は長く床に花びらのように優雅に広がるデザインで、真珠の飾りがウェディングドレスに織り交ぜられており、美しい光沢を放っていた。
そのドレスは、背が高く手足も長い私のプロポーションを、最大限に引き立てるデザインだと思う。すばらしく繊細で美しい白百合のようだと、ライオネル殿下は私を賞賛してくださった。
一方、マリエッタ様のウェディングドレスは総レースのプリンセスラインで、スカート部分が幾重にも重なり合うデザインだった。ニッキーはマリエッタ様を白バラに例えて、可愛い過ぎて胸が痛い、と何度も連発していた。
どちらのドレスも素晴らしかったので、素直にお互いの美しさとドレスを褒め、一緒に結婚式ができることを喜んだ。
バージンロードを歩く時間が迫ってくると、渋々と立ち上がったライオネル殿下とニッキーは、花婿がいるべき定位置へと向かっていった。
控え室で二人っきりになった私とマリエッタ様は、顔を見合わせて笑い合った。
「私たちは旦那様になる方から、とても愛されていますね。ライオネル殿下もニッキー様も、私たちから一瞬でも離れたくない、というお顔をなさっていました」
マリエッタ様が顔を輝かせて私に同意を求めた。私はもちろん朗らかに笑いながら頷いた。愛されていると信じられることは、とても幸せなことだ。
やがて、私にはビニ公爵様が、マリエッタ様にはフレンチ伯爵様が、バージンロードを歩くエスコート役として控え室まで迎えに来てくださった。
「さぁ、ソフィ。ライオネル殿下のもとへ行く時間だよ」
「はい、エルバートお父様」
以前はビニ公爵様と呼んでいたけれど、今はエルバートお父様と呼ぶのが相応しい。満面の笑みで私に腕を差し出すエルバートお父様に、私は自分の手を添えた。
☆彡 ★彡
大聖堂は、高い石灰岩の壁と美しいステンドグラスの窓で構成されていた。その高い天井は、神聖な雰囲気を一層引き立てていた。大聖堂の中央には特別な聖壇があり、挙式の場として使用される。この聖壇は白いバラで飾りつけられ、真っ白な大理石の床は私たちの足元に美しい反射を映し出した。
大聖堂内のステンドグラスの窓からは、色とりどりの光が差し込み、神秘的な雰囲気だった。ステンドグラスには、聖人たちや天使の姿が描かれ、その美しさは挙式に神聖さをもたらした。大聖堂の中に響く音楽や賛美歌も、出席者たちの心を感動と祝福に包み込んでいた。
大司教様は白い法衣を纏い、神聖な誓いと祈りを導いてくださる。ライオネル殿下がまず口を開いた。
「ソフィと出会って以来、私の人生は輝きに包まれました。ソフィの笑顔と温かさが、私の心に永遠の幸福をもたらしました。私はソフィに誓います、ソフィのそばにいつも寄り添い、ソフィの幸せを願い続けます。ソフィが健やかなるときも病める時も、常にソフィに寄り添い永遠の愛を捧げます」
「ライオネル殿下との出会いは私の人生での最も美しい瞬間でした。ライオネル殿下の優しさと愛情は、常に私を包み込んでくださいます。私はライオネル殿下に誓います。ライオネル殿下の幸せを守り、ライオネル殿下の夢を共有し、ライオネル殿下のそばに永遠にとどまります。私たちの愛は永遠であり、これからもずっと一緒に歩んでいきます」
私たちの誓いの後に、同じような言葉をニッキーとマリエッタ様も誓い合った。聖なる誓いが交わされる瞬間、教会内では温かく感動的な拍手が起こった。出席者の方々は新郎新婦たちの約束に感銘を受け、私たちの幸福を祝福してくださったのよ。
挙式が終わり外に出ると、大聖堂の上空にまた『幸せの鳥』が現れた。今度は二羽だ。その羽ばたきは優雅で、二羽の鳥は一緒に空中を舞いながら、私たちの結婚を祝っているかのようだった。挙式の聖なる瞬間に起こったこの奇跡は、出席者たちの心に深い感動を刻み込み、結婚式を一層特別なものにした。
「あの鳥たちも夫婦になったばかりかもしれないです」
ライオネル殿下の予想に私も共感した。
同じ日に夫婦になったのなら、同じ時期に子供が生まれるかしら? とても楽しみでわくわくするわ。この世界は喜びに溢れている。
パレードの途中で街中を馬車で走っている際、物乞いから「ソフィーー!!」と大声で呼びかけられた。その顔は私のかつての婚約者にとてもよく似ていたけれど、私は一度も振り返ることはなかったのだった。
※第一部(本編)、いったん、完結します。
※以降は第2部(続編)として、リクエストに寄せられた部分を書いていきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます