第53話 楽しいダブルデート

 それからビレル侯爵は裁判にかけられ、爵位を剥奪されたうえに国外追放を命じられた。エレガントローズ学院での内通者は庭師の一人だったことも判明し、そちらも厳罰に処されたという。


「平民になって国外追放だと、その先はどのような人生になるのかしら?」


 私はライオネル殿下やニッキーに尋ねた。ニッキーとマリエッタ様が婚約してからは、頻繁に四人で会ってダブルデートのようなことをしている。


 ニッキーが側にいれば護衛をつける必要もないし、男性と二人っきりのデートに比べて、ボナデアお母様もフレンチ伯爵夫人も、喜んで私たちを送り出してくださるからよ。


 そんなわけで、今日も私たちはダブルデートをする予定だった。これからマーケットに行き、お買い物をしたり食事をする。行く先がマーケットになったのは、珍しい食材をニッキーが仕入れに行きたいと言ったからだ。


 私もマリエッタ様も行く先はどこだって構わない。大好きな人と一緒にいられれば、どこに行ったって楽園だもの。


「ソフィ様。私たちって、とても幸せだと思いますわ。だって、親友と過ごしながら、大好きな人とのデートも楽しめるなんて、普通ならあり得ないことですもの」


 マリエッタ様は、にこにこと私に笑いかけた。マリエッタ様は最初に出会った頃とは違い、今ではとても可憐な可愛らしい女性になっており、表情も柔らかだった。


 恋をするって、素敵なことだわ。


「罪人として国外追放された者には、身分を証明する物は一切ありません。紹介状もなくその国の民であるという証明も持たずに、雇ってくれる職場は限られてしまいます。過酷な環境で働きつづけることになると思いますよ」


 ライオネル殿下はビレル侯爵の未来をそのように予想した。


「あれだけ貴族として栄華を極めていた奴なので、多分働き続けるのは無理だと思いますよ。そんな職場は決まって辛くて汚くて賃金が安い職場ですからね。行き着く先は地獄ですよ。まぁ、自業自得です」


 ニッキーはきっぱりとそう断言した。この事件に一切関わっていなかったビレル侯爵夫人は、すぐさまビレル侯爵と離縁し、フローラ様を連れて実家のサイッコネン伯爵家に戻った。フローラ様も事件とは無関係だったことが証明されたが、もう貴族とは結婚できないだろうと噂されていた。


「フローラ様がお気の毒ですね。愚かな父親を持ったばかりに」


 マリエッタ様はポツリと呟いた。犯罪者の父親を持ったら、もう名門貴族の家には嫁げない。平民だって財産家で世間体を気にする家なら無理かもしれない、それがこの世界の常識なのだった。




☆彡 ★彡



 王都の市井マーケットには、古代からの運河が繁華街の中心を流れていた。この運河は王都の商業と物流を支え、都市の繁栄を支えてきたのよ。運河は重要な交通手段であり、市場での商品輸送に欠かせない存在だった。


 商人たちは運河を利用して商品を運び、市井マーケットに商品を供給している。また、運河は市民にとってもリラックスや娯楽の場所として親しまれ、市井の生活に欠かせない要素になっていた。


 私たちは早速、四人が乗り込める大きめの船を借りた。ニッキーが運河に浮かんだ船を自由自在に操ってくれたお陰で、船に乗りながら私たちはお買い物を存分に楽しむことができた。


 マーケットの一角では新鮮な肉が陳列され、色とりどりの調味料が売られていた。肉屋は大きな肉塊を切り分けて、それぞれの肉の部位を提供している。


 隣の屋台では新鮮な魚介類が並び、鮮やかな魚たちの色彩が、私たちの視線を引き寄せた。ニッキーはエビやカニ、魚の切り身を見て、料理のアイディアを膨らませていた。漁師が魚を捌く様子を見守りながら、新鮮な魚を選ぶのを楽しかった。


 野菜と果物の屋台では、季節ごとの新鮮な収穫物が陳列されていた。カラフルな野菜や果物は目にも楽しい。さらに、マーケットには珍しい商品も多く、エキゾチックな調味料、香り高い紅茶、ハチミツ、そして手作りのお菓子も並んでいた。


 カフェやレストランも船に乗ったままで、店員が食事を運んできてくれる。水面には運河を彩る美しい花々が浮かび、穏やかな風がそよぎ、運河の水面を揺らしていた。


 そんなロマンチックな雰囲気で、私たちはお互いの恋人に寄り添いながら、お茶や食事を楽しんだ。話題はもちろん結婚式のことや、卒業式のことだった。


「ウェディングドレスはどんなデザインにするおつもりですか?」


 マリエッタ様がはしゃぎながら聞いてくるから、私もつい弾んだ声になる。


「新しいドレスを新調するつもりはないのです。代わりに、ボナデアお母様が以前お召しになったドレスを身に纏うことに決めました。この選択について、ボナデアお母様も非常に喜んでくださったわ」


「あら、素敵! とても良い思いつきですわね!」


 運河に私たちの明るい笑い声が広がった。さて、私たちの卒業式は・・・・・・






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