第52話 マリエッタを大事に思うニッキー

「ビレル侯爵。お前は私の大事な人を傷つけた」


 猛烈に腹を立てているニッキーに、ビレル侯爵は青ざめてブルブルと震えていた。


「グレイトニッキー・ガガ伯爵。落ち着きたまえ。まだ、私は犯罪者ではない。国王陛下の判決がなければ、まだ罪人とはいえないのだよ。う、うわぁああーー。いっ、痛い。痛い」


 途中から苦痛に満ちた悲鳴になったのは、ニッキーがどこからともなく鞭を出現させ、彼の身体を打ち続けたからだ。鞭は自我を持つかのように宙に浮き上がり、その先端でビレル侯爵の背中やお尻を打った。


「はぁ? 何を寝ぼけてやがる? もう、お前は立派な犯罪者だろ。エレガントローズ学院の寄宿舎に許可なく立ち入り、ライオネル殿下の婚約者ソフィ様の部屋に不法侵入し、さらには高価な大鏡を壊したんだ。これだけでも、お前は鞭打ちの刑にあたるのだ」


 逃げ回るビレル侯爵を追い回す鞭はどこまでも追いかけていく。ビレル侯爵の滑稽な走り方が、貴族たちの笑いを誘った。あまりにも稚拙な犯罪に誰もが呆れていたのよ。


「だいたい、陰謀を企てるにしてもお粗末すぎますわね」

「あれでよく、メドフォード国の大臣が務まっていたものだ。爵位剥奪は免れないな」

「それにしてもソフィ様の立派だったこと。ビニ公爵夫妻がいなくても、毅然としていらっしゃいましたわ。やはり、ライオネル殿下の奥方になるに相応しい女性ですわね」


 ビレル侯爵の一連の愚かな行動を見ていた貴族たちは、私の気丈な態度に感銘を受けていた。結局、ビレル侯爵がしたことは私の評価をあげることになり、さらには幸せなもう一組のカップルの誕生を助けることになった。


「ニッキー。流石にあまり鞭を打つと、ビレル侯爵が裁判を待たずに、この世を去ることになってしまうわ」


「大丈夫です。『傷癒やしのエリクサー』を飲ませながら鞭打ちます! ソフィ様を貶めようとしたことも許せませんが、大事な女性の怪我の原因を作った男には、思いっきり痛い思いをしてもらわないといけません!」


 そんなわけで、ビレル侯爵は宙に浮いた鞭に撃たれながら、地下牢まで連行されたのだった。


「大事な女性?」

 

 マリエッタ様は頬を赤く染めて、嬉しそうに微笑んだ。結果として愛を告白する形になったニッキーは、気まずそうにしている。


「これほど大勢の前で告白したのだろう? 早く婚約して、私たちと同じ日に結婚式をするというのはどうかな?」 


 ライオネル殿下の提案は、私とマリエッタ様を非常に喜ばせた。ビレル侯爵事件による忌まわしい空気が一変し、会場にお祝いの雰囲気が広がっていく。


「マリエッタ嬢。私と婚約していただけませんか?」


 早速、ライオネル殿下の言葉に従い、ニッキーが婚約の申し込みをした。練習試合を見にいらしたマリエッタ様のご両親も、応援の意味で頷いていた。


「はい。喜んで!」


 マリエッタ様はにっこりと微笑み、抱きついた。


「マリエッタ様。抱きつく相手が違いませんか? ニッキーのがっかりした顔を見てご覧さない」


「だって、ニッキー様と親しくなるきっかけができたのはソフィ様のお陰ですから。それに一番に喜んで欲しいのもソフィ様ですから」


 今度は私がマリエッタ様に抱きついた。信頼し合える友人がいるってなんて素敵なの!



୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧


※ニッキーの一人称は俺だったのですが(身分の高い人の前では私)

叙爵したこともあり、彼は常に自分を私と呼ぶことを心がけるようになりました。←まぎらわしいな💦

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る