第46ー2話 夏至祭りの奇跡 ソフィの決意

振り返ると、優しく微笑むライオネル殿下が佇んでいた。


 「私たちはちょうど用事を思い出しましたわ。先にエレガントローズ学院に帰っていますから」


 三人とも示し合わせたように、私の前から急いで去っていく。


 「ちょっと、待ってください。私も帰りたいのですけれども…」


 けれど、言葉を終える前に、ライオネル殿下は私を優しく抱きしめた。その瞬間、私の心は飛び跳ねるように高鳴った。


 「もしかして、記憶が戻ったのですか?」


 そう尋ねると、ライオネル殿下は静かに首を横に振った。


 「いいえ。残念なことに、まだ戻ってはいません。ですが、カロライナ王国に旅立つ前まで書いていた日記を見つけました。ソフィ嬢との出会いからの出来事が詳しく記されています。『一生守るべき大事な女性』と書かれていました」


 彼の言葉に、私の胸中には温かな感情が広がっていく。ライオネル殿下は以前から私を支え、救ってくれた人であり、私の中で特別な存在だった。以前の家族から受けた仕打ちに傷ついた私を、癒やしてくださったライオネル殿下に、恩返しをしようと決意した。


 「日記の内容に縛られずとも、大丈夫です。ライオネル殿下、私たちは今から新たな始まりを迎えましょう。あなたが望むなら、ずっと側にいます。以前のような関係に戻れなくても、友人としてでも、どのような形でもかまいません。私はあなたを支えます」


 これが私の愛で、相手の幸せを願う愛だ。再び、彼が私を愛さなくても、かまわない。彼が側にいてくれることが、最も大切なことだから。


 雲は夕焼けの光によって燃えるように赤く照らされ、その輪郭が暖かい光の中で鮮やかに浮かび上がっていた。日がゆっくりと沈んでいく。夏至祭りのメインイベントは夜空に輝く花火だ。


 やがて、打ち上がった花火に私達は身を離して、ほんの少し距離をとった。初対面の男女の適切な距離感に近いけれどこれで良い。今の私達には相応しい。花火の美しさや一瞬の輝きを称賛し、この夜の特別な瞬間を共有した。


 周りの会場は多くのランタンで照らされ、幻想的な雰囲気に包まれた。妖精や天使の仮装に身を包んだ人々が、夏至祭りの美しい瞬間を楽しんでいる。そのなかに、グレイトニッキーの姿を見つけた。彼は真っ白なローブに身を包み、大きな白い羽根のついたエンジェルウィングを背負っていた。彼の眉にはキラキラとしたスパンコールが施されており、その眉が笑顔を引き立てていた。


 「夏至祭りの奇跡をこのグレイトニッキーが演出しましょう」


 彼は満面の笑みで私達に近づき、ライオネル殿下の瞳のように澄んだ青い液体の入った瓶を、私達に差し出したのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る