第35話 蜘蛛の巣を張って待ち構えるルドレッド国王
獣人たちにライオネル殿下の調査を命じてから半月ほどが経過した。続々と提出された調査報告は、どれも好ましい結果ばかりだった。
やはり噂通りカーマイン殿下からの信頼も厚く、兄弟仲は良好であると報告された。また、貴族たちはライオネル殿下を尊敬し、一目置いているとのことだった。
さらに、ライオネル殿下はビニ公爵邸を度々訪れ、ビニ公爵の大変なお気に入りということもわかった。ライオネル殿下がビニ公爵家を継ぐために、養子縁組をするという情報まで得られたのは朗報だった。
これは、素晴らしいことだ。ライオネル殿下がメドフォード国の経済を支えるビニ公爵家の影響力や財力を全て弾き継ぐことに対して、非常に感銘を受け喜びで頬が緩んだ。
芸術に深い造詣を持ち高い教養を持っている、ライオネル殿下の性格も趣味も非の打ち所がない。彼の趣味は絵画を描くことに、ヴァイオリンやフルートを演奏することだった。
家族や友人を大切にし、人とのつながりや縁を大事にしているようだ。この特性は彼が幼い頃からの友人たちと、今もなお維持している良好な関係からも窺えた。 ライオネル殿下はその地位にふさわしい資質を持ち、ビニ公爵家の莫大な財産を守り、さらに増やすことができる才覚がある。
ライオネル殿下の存在がメドフォード国とカロライナ王国の架け橋となってくれることは明白だ。彼は妹の夫として、称賛と尊敬を受けるにふさわしい存在だと確信した。そうであれば、なんとしてもカメーリアに興味を持ってもらう必要があった。
ここまでの報告で、私は彼の理想の女性像を想像してみた。人のつながりや家族を大切にする真面目な女性。楽器の演奏などを共に楽しむことができ、芸術について語り合える女性。
いわゆる模範的な優等生タイプの女性だな・・・・・・我が妹、カメーリアは多少我が儘で、友人関係になってもすぐに疎遠にしてしまうことが多かった。
なるべく協調性を身につけさせ、有名なヴァイオリン・デュエット曲を猛特訓させよう。
もちろん、カメーリアは王族であるから、幼い頃から楽器の演奏のレッスンを受けてきた。技術的には問題なく演奏できるはずだが、音楽を通じて人々の心を打つことと、単に楽器を演奏することは、その意味合いがまったく異なってくる。
私はこれらのことを踏まえて、カメーリアと再びサロンで話し合いをした。
「ヴァイオリンのレッスンを受けよ。一曲だけでも良いから人を感動させる弾き方を身につけるのだ。それから幼き頃より友人だった者達を雇った。辻褄を合わせておきなさい」
「雇った? なぜですか?」
「良識的なライオネル殿下は、妻の友人関係が広く良好であることを望むだろう。いずれも、彼らが望んでいるものを私が提供することで話が決まった。ハローズ公爵令嬢とティーガーデン侯爵令嬢はお前の親友になった。他にも3人ほど見繕っておいた」
「彼女たちは幼い頃から知っていますが、親友ではありません。友人関係がそれほど大切なのでしょうか? 私は気が合わない方たちと付き合うよりも、一人でいる方が好きですわ」
首を傾げるカメーリアに、この作戦をわかるように丁寧に説明していく。ライオネル殿下の価値観とあわせるようにと説得もしていった。彼女は神妙な顔つきで私の言葉に素直に頷いた。
カメーリアは単なる気まぐれではなく、本気でライオネル殿下に恋をしたようだった。
☆彡 ★彡
カメーリアの状態が整った後、私は国同士の交流と協力を強調し、それからライオネル殿下を特別な文化交流会に招待した。その際、カメーリアとのヴァイオリン・デュエットをするように提案する。
我が妹であるカメーリアの音楽の才能は広く知られており、必ずやライオネル殿下との共演が素晴らしいものになること。また、この機会を通じて両国の人々がさらに親しい関係を築くことができることを力説した。
私はライオネル殿下が断りにくい状況を整え、万全の準備を整えた後、彼の到着を待つことにしたのだった。
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