第4話 盗賊とお姫様
「出ておいで」
ウェンデルの旦那が呼んできたのは少女だった。
俺がその少女の顔を見た時にまたもや驚いた。こんな少女もいれば、声すらかけられない人もいるだろうが、その逆もいたことはうなづける。どれだけの男の心を踏みにじってしまったのだろうか。だが、そこまで無理もないとも思う。
たまたまって…ことはねぇか、だが王国に行けば顔つきの良い女性はいるのだろう。それか、俺が女性と会うのが稀になったかのどっちかだが。俺は後者にかけよう。そして、この人生にたまたま二人顔つきの良い女性に会った。同じ日だとは思わなかったが。
おそらく俺より恐らく2歳ぐらい若いってところか。その少女の服装は白と黒の魔道師が着てくるような服だった。
素材はかなりデリケートな印象だ。髪は流れるようにとても自然体だった。髪型はシンプルの割に、風に吹かれているような感じだ。本当に見たことのない質感だ。旅には持って来いの服装だ。
彼女の首の周りには月模様のネックレスがある。まさに星を実現させようとする輝きを感じる。手には魔法の書みたいなものがある。彼女はそれが自分にとって一番大事なもののように思える。まあ、他にも大事なものはあるとは願いたいが。
彼女の様子はどうもわかりにくい。それは彼女の性格での意味だ。どこか他人とは違う様子を感じる。でも、静かなところだけは譲っているのだろうか。そこまでは分からない。ぱっと見の印象はそれほどだ。俺はこの少女のことを知るべきなのだろうかとも思い始めた。
何よりも驚きだったのは、彼女の状態だ。この少女の表情は何というか、壊れかける魔道具のようだ。ひどく落ち込んでいるようだ。
「自己紹介しよう、彼女の名はエニーテ・カドレータだ。なぜこの子がここにいるのかというと両親が王国の奴らにおそらく捕まったからだ」
「また王国の奴らがやらかしたのか、大変だな」
ウェンデルの旦那は俺の顔をしっかりとみて表情を真剣にしたのだ。俺にとってはこの表情を見るのはいつぶりか。彼には彼女がどれだけの思いでここにいるのかが肌で分かっているのだろう。ウェンデルは彼女を椅子に座って貰っていた。
「ドーレン、事は緊急なのだ。そして、このお嬢さんもまた狙われている」
「またまた大変ですな。もしかして、彼女は王女候補かなんかですか?」
「立場的には近いが、そういう王位継承の問題でもないらしい、だが、彼女の名はこれで省くことはたやすいだろうね」
王位継承でもないだと?王国はそれだけにしか興味がないと思ったぜ。これは面白そうだ。だが、まだいやな予感が拭えねぇな。
「なるほどな、あいつらが興味あるのはなんなんだ一体?」
「エニーテのお嬢さんによれば、王国の反逆罪で捉えに来たって話さ。
あいつらは何も学んじゃいない。またあの時を繰り返すのか…」
「ってことは王位継承が関係ないなら、なんでわざわざこんな真似を?反逆罪も処刑されるんじゃないのか?」
「確かに、そのような例も過去に存在する。が、王位継承の場合はそもそも、人物が邪魔になる。その場合は、暗殺者や処刑に値するを言い訳にしてことを済ませるだろう。だから今回は彼ら自身を必要としているのだろう。なぜかは知らない」
そしてこの場合は反逆罪という刑なのだが、もちろん刑としてはかなり重い。だが、それならもっと重い刑にするはずとの理由らしい。確かに罪としては曖昧過ぎると感じる。
「ほう、で本題なんだが、なんでこのお姫様をここに連れてきたんですか?」
「単刀直入に言う。彼女を、いやエニーテを助けてはくれないか?」
今日で三回目、また面倒ごとかよ…
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俺が王国の娘を助けるだと?まったく何を考えてんだこの人は。それを口にした瞬間にこの娘も俺の方を見てきたじゃねーか。
「ウェンデルの旦那、なんで寄りによって俺なんですか?」
「ドーレン、折り入って頼む!もちろんあの件も勝手にやってもらっていい、ただ彼女の親を救って欲しい」
「彼女の親だけですよね?」
「それが…彼女には泊まるところはここら辺なのだが、俺にも用ができてしまって無理になってしまったんだ。だから彼女もと同行して守ってくれ!」
「いや、さすがに無理ありますよ…旦那、それに俺は盗賊でっせ、人を助けたところでなにをしろっていんです?」
「それも承知しているし、とっておきの案もある。お前にしかこの仕事はできない、だからおまえに頼んでいる。ここら辺で唯一頼れる盗賊はお前しかいない」
なんでいつもこうなるのかが本当にわからない。そしてお姫様のお守りは性に合わない。俺は用心棒じゃねーし!だが、仕方ない。ウェンデルの旦那は俺の恩人でもあるのは確かだ。だから今は話に乗るとするか。その案とやらには興味もあるしな。
「…じゃあ、とりあえず今は形だけですよ。旦那」
ウェンデルはため息をつきながら
「まあ、今はそれでいい。そこでもう一つの本題にも関係してくる」
「エニグマの件ですね?」
「そうだ。ドーレンにとってほしいものがある」
「ああ、王国に潜入するためのやつってことだな。ここら辺に一体何を探して欲しいんだ?」
ウェンデルの旦那は説明をした。旦那は王国潜入に使える魔道具を探していたのだが、それ魔道具が見つかったらしい。その魔道具の仕様というのが使い手の見た目を変える、もっと正しくは魔法による偽装に近いとの話だ。それがここら辺で二つあると情報が入った。それはある放置された町の近くに、洞窟らしきものが発見され、ウェンデルの仲間たちによれば、その魔道具に違いないと。そして洞窟といってもそこまで広くはないらしいが。
「今更なんだが、なんでそれを知っているのに旦那たちはそれを回収していないんだ?」
「そうしたいのは山々だが、今回の場合理由が二つある、
一つはそもそも俺たちに力を分散する時間がない
二つ目は使い手自身がその魔道具を手にしないといけない
ということだ」
「まあ、面倒くさいってことには変わりなねぇか、納得いった。でいつ出発すればいいんだ旦那?」
「なるべく早めにしてもらうと助かる」
「いや、今はさすがに…」
「今の状況は分かっているが、時間が惜しい。その魔道具がいつ盗賊によって捕られるか…」
「分かったよ、これでも今は結構体に来てるんだぜ?」
「今回ばかりはすまないな」
「これでも飲め、今の状況に効くだろう」
「ああ、助かるぜ旦那」
ウェンデルの旦那が俺に体力をある程度回復する薬を渡した。これは優しさというべきなのだろうが、やはり精神的な疲れとまでは癒せないだろうな。とはいえ、旦那も忙しい分やってみるか。
「お、そうだ。せっかくだから自己紹介しよう。こいつはドーレンって言うんだ。聞いた通り、盗賊さ」
俺らが話している間にエニーテという少女はずっと横で座って食事をとっていた。置いてけぼりにされていたことに俺はすっかり忘れていた。
にしても、彼女は気にしてはいないところか、心はここにあらずって感じなので、話すことに対する気遣いは無用だな。
「おう、ドーレン・アイセルド様だ。よろしくなエニーテのお嬢様」
彼女は俺を見た瞬間に引き気味になっていた。そう、これが普通の反応だ。王国の奴らがする冷たく、同情しようとしねぇ反応だ。なんで俺はこんな失礼な奴を助けなてはいけなんだ…
彼女は少しした後、軽くうなずいた。ショックを受けた最中だから許してやってもいいという反面、正直面倒だ。俺はこんな奴と馴れ合う趣味など持ち合わせてはいないが、敵対したところで、返って悪くなるに違いない。
「では頼むよ、俺はまだここに用があるから、ちょっと休んだら行って欲しい。あと、彼女をしっかりな」
「わかりやしたって…」
そして少しだけ休憩を取った後、俺はエニーテのお姫様と人がいない町に向かって探索することになった。
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そして今は森の中にまたやってきた。まだそこまで暗くなっていないことが救いだ。しかし、この状況の意味が分からない。俺はなんでこんな女と散歩しなくちゃならないのか。距離も離れているし、話にならん。両方の意味でな。俺にとってはただのマイナスにしかならない。
そもそもこのエニーテとやらは戦えそうにないんじゃないか?魔法の書は持っているが、魔術師には見えない。偏見なのかもしれないが、服は戦う用ではなさそうだ。
ちなみに、人がいない町はここら辺で珍しくはないことだ。もちろん、盗賊によってそこを拠点とするもの少なくはないが、盗賊は基本的に称号にこだわるため、一番誇りに盗んだお宝の近くに住むことが多い。俺はそれについてはちょっと変だと思うのだが、だって洞窟の前でわざわざ拠点にするのはただ単に野宿しているようなもんだ。そして、また洞窟も部屋としてちゃんと機能させることもできるのだろうが、時々魔物がいたりするからその処理も大変なんじゃないか?
それはさておき、今は気を紛らすためにもエニーテと少しでも会話できるようにしよう。一番避けたいのは予想外の問題が起きた時にパニックになることだ。
「エニーテっていうんだっけ、改めてよろしくな」
俺は色々と表情をや仕草をオープンにしてエニーテに話しかけようとしているが、彼女は無反応みたいだ。そもそもまた俺から離れようとするし、全然成立する気配がない。
「俺が怖いというのはわかるが、警戒しないでくれると助かる。ここら辺に何が起きるかわからねぇからな」
厳密にいえば、俺らがいる場所は魔物も盗賊たちも基本的には来ない、それはもっと先にあるのが普通だ。とは言っても、俺は今日だけで、遭遇したやつが多めにはいるのだが…これ以上は来ないでほしいもんだ。
彼女は下を向きながら前に歩いていた。そして、腰についている本を固く握りしめている。
「そうだ、いま持ち歩いている本についてなにか教えてくれよ」
彼女は本を一瞬見てから、何かをくちにしようとする
「月についてのお話…かな…」
いやなんだよそれ…だがやっと何かを話してはくれそうだ。距離は少しだけ遠くに離れるが。
彼女は俺を少しだけ見ているが、なぜか俺の勧見たいなものが働く。こいつかなり俺に信用していないらしい。もともと盗賊に嫌悪感に抱いているようだが、なんでかはしらねぇ。俺はなんもやってねーし。この女に恨みを買う理由もない。
そしてなんか俺の臭い気にしてねぇか?なんか盗賊だから臭そうって考えてんのかこの野郎…いや俺は臭くねぇぞ!なんだこの女は?盗賊はこれでも清潔感には気を付けてるんだぜ。王国の奴らにだって汚ねぇやつだっているだろうに…
まあいい、もう少しの辛抱だ、もうすぐで洞窟にたどり着く。
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「よし、着いたな」
洞窟に着くと、地下の道が続いたりしている。最初はかなり狭く、道路に引き込めれそうだ。洞窟には迷路もあるのだが、ここはそういうのはないらしい。なんて便利なことだ。今度こそ穏便に行きたいところだが、現実はそうあまくはないって思うと、気が抜けないが、疲れる。
少し弱そうな魔物がいる。少しだけ大きい狼みたいなやつが4体だな。叩きに行ってみるか
「お嬢さん、下がっていろ」
俺はダガーを取り出し、切りにかかった。俺の得意な直観の働きで視界を開けるように広げる。俺は走りながら、素早く済ませようとした。俺はまず、周囲を回れるようにかわしやすい体制で構えていた。そして、その魔物どもが、エニーテに近づかないように見張っていた。どうやらこいつらは俺しか見ていないらしいので好都合だ。そして奴らが飛び込む瞬間に隙を狙って切るようにした。
「なんてことはねぇようだな、もう大丈夫だ」
まあ、かなり地味だし、あまり目に留まるようなもんはないのは頷ける。これぐらいなら安心して進めそうだ。本来なら洞窟によってはたまたま強い奴が揃いに揃うのだが、ここの地域は、魔物が恐れているせいか、逃げ遅れた弱そうなやつしか出ないらしい。なぜこうなのかは俺も良くは知らないが。
エニーテは少しだけ驚いたようだ。俺は大したことはやってないが、彼女にとっては初めての体験だしな。
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またもや魔物たちが出てきたが、小物ばかりだ。だから案外テンポよく進められた。
俺たちはもっと先に進んで、洞窟の奥までたどり着くことはできた。
そして、目当てのものがやっと見つけることができた。
指輪のようなものがそこにあった。情報通り、二つあるのだ。
今回は、指輪自体は本人が付ける必要があるようなので、エニーテにもそれを言った。
「エニーテのお嬢さん、これをはめてください」
すると、彼女はゆっくりと指輪に近づく、そしてその魔道具を少し眺めた後はめた。
俺もその後、指輪をはめた。
やっぱり呆気ないないな、と思いつつも平和なのはいいことだ。特に今はな。いや、それは言わない方がよさそうだな…
指輪があるところには道は行き止まりのため、俺たちは入口に戻るとまた洞窟の道を歩いた。
「では、でましょうか」
今までと同様に、洞窟の中は同じ様子らしい。もう少しで出口だ。
そして、突然…?
なにも来なかった。
洞窟に出ても時にやばい奴は出なかった。本当か?
まあ、これはいいと受け取るべきか。だが、今日散々な目に合ったのにこれはあまりにも変だ。
---
そして俺らは誰もいない町に向かっていった。俺は洞窟とかには行ったことはあまりないが、こうのばかりだと盗賊に占領されてもおかしくはないな。残念ながら俺はここら辺にある洞窟には探索の出来ようはなさそうだ。ウェンデルの旦那がまた新しいの見つければ話は違うが…
旦那といえば話は逸れるのだが、どうやら乗っていたアークレイブンも旦那のもののようだ。アークレイブンみたいな魔物類の運び屋は人気なもので、盗賊たちには愛用されている。
そして、そのアークレイブン一つで商売ができると言っても過言ではない。ちなみに、あいつらを使うときには餌とかお金を上げても喜ぶ。何もあげないと怒るらしいのだが、俺はそんなまねはしないので見たことはない。
今回はアークレイブンには用はない。もっと長い距離なら使う理由はあるが、今日は歩きで十分だ。無駄な浪費はしたくないしな。
「いやー、特に何もなくて良かったですね」
っと言った途端。
大きな影が見えた。俺の勘も危機を感じている。
「ん?なんだったんだ今の?今見ました?」
エニーテは俺が言っていることに首をかしげる。確かに何かいた気がするのだが、今回ばかりは気のせいであって欲しいぜ。
そして、また影の様子が見えた。そして、風が吹いてくる音も聞こえた。
「今の見えたでしょう!」
エニーテはまだ俺の言っていることに気づいていないようだ。なんなんだ、これは。やはり俺が疲れすぎなのかもしれない。とにかく早く戻ることに越したことはない。
「まあいい、早くここから…」
「…!」
エニーテは上を見ながら怯えている声を出したように思えた。まさか、なんかのいたずらか?こいつも冗談は通じるようだが、今は本当にそういうのは要らない。
「いや、そういうのはいいんで」
「違う!」
そして、彼女は恐怖に揺れながら俺の後ろに指を指した。
そこに待っていたのは
大きな翼を持ち、
強靭な体を持ち、
とげとげしい顔を持ち、
果てには大きな声で叫ぶ
ドラゴンだった…
「ワォー!!!!!!」
「これが夢なら覚めてくれ…」
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