第2話 神を名乗る男
目を覚ました時、そこは和室でした。
ちゃぶ台が真ん中にあり、奥にはテレビがあります。
その中間の床には、最新ゲーム機が三種類揃ってました。
ちゃぶ台には男が座ってました。
何やらゲームをやっているようです。
彼は私より年上、恐らく六十は越えてます。
白髪のロングヘアーをゴムひとつでまとめ、白いアゴヒゲが立派です。
男は私に気がつき、振り返りました
「おぉ、ちょうどクリアしたところでの」
「はぁ。えっと。あの。ここはどこですか? あなたは誰ですか?」
私は状況がつかめません。混乱しています。
「落ち着きなされ。お主は当選したのじゃ」
「当選? 宝くじにですか?」
「いやいや、アジアで十億人が死ぬ度に記念に特別な生まれ変わりを贈っておるのじゃ。つまりの、あ前さんは死んだのだよ」
「死んだ? 私が?」
思い出してみました。頭がボーッとするのをこらえて、自分が今さっき何をしていたのかを思い出してみました。
精神科デイケアの帰り道、いつものように呼吸が苦しくなって、でもいつもより苦しくて、意識が遠のいていったから、近くの塀に身体を預けたのでした。
死んだ?
「何度も経験した発作だったのに、死んだのですか」
「そうじゃ、心不全じゃな。兆候があったのに病院にも行かないで哀れよのう」
そうですか……。
悔しさで涙が出てきました。
社会に貢献できなかった。
親孝行できなかった。
パソコンのエロ動画、エロホームページのお気に入りも消せてない。
「まぁ、そう悲観しなさんな。お主らは所詮ごちゃごちゃといる七十億人の一人に過ぎない。誰が死んでも社会はすぐに修正され滞りなく流れていくものじゃ」
「慰めになってないですね。私の死なんて社会に修正するほどの影響も与えませんよ。現実か創作か思い出せませんが、奴が死んで十年は研究が遅れた、なんてセリフも聞いたことありますよ」
「おーおー、これは随分と捻くれた者が来たものじゃ。陣内裕太よ」
「なぜ私の名前を……、と聞きたいところですが分かりますよ。あなたは神様なのですね?」
「ふむ。その通りじゃ」
神を名乗る男は、いや本当に神様なのでしょう。
神様は嬉しそうに笑った。
「さて、この部屋に来れるのはアジアでは十億人が死ぬたびに一人でな。お主はとてつもなくラッキーなのじゃよ。現世でどういう人生を歩んできたかは置いといてな」
「それで、一体私は何に当選したんですか?」
「この部屋に来た者には次の人生でウルトラレアしか出ないスキルガチャを1つプレゼントしているのじゃ」
涙が渇いてきました。
少しずつ嬉しくすらなってきました。
私の人生後悔はあれど、未練はありません。
「ウルトラレア確定ガチャですか。ってそれソシャゲのガチャみたいですね」
「わしはゲームが好きでの。お主ら人間がゲームを作ってくれて本当にありがたいのじゃ。まあ地球がわしの作った箱庭ゲームみたいなものじゃが、それは置いといて、本当に本当にありがたい。何せ神だからの、確率操作……はしてしまったらつまらなくなるが、月百万円までのガチャは許容範囲としておる」
「はぁ」
充分チートで遊んでますね。
「それにもちろん家庭用ゲームも好きでの、今もファイナルクエストの十二シリーズぶっ通しで全部クリアしたところじゃ」
「あの大作RPGをですか。睡眠も食事もせずにですかですか?」
「うむ」
「一体何時間かかるのか想像もつかないですよ。って神様にしてみれば大した時間じゃないのですか」
「ふむ。およそ百四十億年かな。わしが生まれてから、この宇宙が誕生してからそのぐらいじゃ。それに比べれば大した時間ではないのう」
「ところでウルトラレア確定スキルガチャとやらはどうやって引くんです?」
「わしの自慢にはあまり興味ないみたいじゃな。だが、十二作クリア記念に十二回プラスしてもよいぞ。わしは今大変機嫌がよい」
「本当ですか?」
「と思ったが流石にそれはわしに近づきすぎてしまうからの~。脅威になったら嫌じゃし、二回プラスにしよう」
「そんなにウルトラレアですか」
「おぉそうじゃ。不老不死に運命操作に時間操作もあるぞ。ゼロコンマ一パーセントほどに絞らせてもらっているし、制限も設けておるがな」
「もう我慢できません。もったいぶらずにお願いします。ガチャを引かせてください」
私がそう言うと、目の前に巨大な、自動販売機ほどのガチャガチャが現れました。
しかしボタンやお金の投入口はなく、液晶もディスプレイもありません。
受け取り口はあります。
そして右横にレバーがありました。
「おぉ、四角いですね。大きいですね。これが例のウルトラレア確定スキルガチャですか」
「左様じゃ、さあ三回引くのじゃ」
私はウキウキしながらガチャガチャのレバーを引きました。
何かが受け取り口に落ちてきます。
中身を確認しようとすると、神様に止められました。
「一気に引くのじゃ」
「はい」
私はもう二回レバーを引き、二回投入口に何かが落ちてきました。
投入口からボールが転がり落ちてきます。バスケットボールぐらいの大きさです。
ボールには左右に割れるように切れ目があり、ひもが出ています。まるでくす玉のようです。
「さあ、一つ一つ開けていくのじゃ」
神様は自分のことのように嬉しそうに言いました。
それと同時に、ボールは宙に浮かび、私の頭のあたりで停止しました。
3つ並んで信号機のようです。色は同じ色ですが。
ボール、と言うか、もうくす玉で良いでしょう。
私は一番右のくす玉の紐を引っ張ります。
くす玉にはこう書いてありました。
『なんでも鑑定』
「おぉ。これは便利なものを引いたの」
「そうなんですか」
詳しく知りたい私の思いを他所に、神様は催促します。
「さあ、次のじゃ!」
私は真ん中のくす玉の紐を引っ張ります。
出てきたのはこれでした。
『テイム(レベル無制限)』
「ふむふむ。人間にはもてあますかも知れんが、よいスキルじゃ」
そうなのですか? と聞く暇を私に与えず、神様は催促します。
「さあ、最後の見せるのじゃ!」
私はもやもやした気持ちで、でもわくわくした気持ちで、最後のくす玉の紐を引きます。
『勇者育成』
今までで一番分らないです。
なんですこれ?
「ふむぅ。よりによって、これとは……。自己強化スキル無しでこれとは……。なにより地球に転生するのは無理じゃの」
「はい?」
「お主の世界に勇者も魔王もおらんじゃろ?」
「まぁ、そうですね。勇者や魔王が存在する世界があるのですか?」
「ある。世界というより星じゃな」
「なるほど」
「飲み込みが早いのう。わしが作った宇宙には、お主らのような人間が住んでる星がいくつもある。地球は文明的になかなか高度な方での、ゲームも発明したしの。そのことから想像できるだろうが、お互いに干渉する科学力はほぼないのじゃ」
「そのいくつかある魔王と勇者のいる星のどれかに私は転生するのですね」
「そういうことじゃ。スキルの説明は特別に記憶に焼き付けてやろう。それと今の記憶も特別に持って行って良い。だが、それだけじゃ。ウルトラレアスキル以外は普通の人間として生きていくのじゃ。頑張るのじゃよ」
頑張る。その言葉が心に少し刺さりました。
私はこの人生で頑張っていただろうか……。
否です。
無言のままの私を励ますように神は言った。
「お主の病気は思っている以上に世界に悪意あると錯覚させている。安心せい。来世では病気はついてこないぞ」
「はい」
私は力なく返事しました。
と同時に意識が遠のいていきます。
でも恐怖はありません。
眠りにつくときのように快感さえあるようです。
「では、魔王のこと頼んだぞ」
最後にその言葉を聞き、私の意識は途絶えました。
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