勇者の不器用な育て方
ササデササ
第1話 人生行き止まり
私が初めて精神科にお世話になったのは三十歳の誕生日でした。
勤めている……、と言っても食品工場のフルタイムパートです。
誕生日にノー残業を社員さんに申告していました。
「あいつ残業しないらしいよ」
「誕生日にママとパパにお祝いしてもらうんだって」
「三十路が? 結婚しないのかな出来ないのかな」
「出来ないんだよ。きっと彼女もいたことないぜ」
誕生日のことは誰にも言ってないから、これは幻聴。
分かってはいたんです。
治療は受けていませんでしたが、自分が聞こえているのは幻聴だと分かっていました。
最初は分からなかったのですが、とある医療漫画で統合失調症の事を知った時、一気に病識を持てました。
あとは、簡単です。分かるんです。
飛蚊症と本物の虫の区別が何となく分かるように、本当の悪口や心の声なのか、幻聴なのかが分かるのです。病識を持ってからは。
それまでは全てが本物でした。
長くなりましたが、分かっていても心はすり減るもので、その日、工場で過呼吸からの気絶コンボで、救急車を呼ばれました。
そして、搬送されたのが内科や呼吸器科ではなく、精神科でした。
それから入院をして、退院の条件のように精神科デイケアを勧められ、進歩もなく十年が経ちました。
私は何をしているのだろう。
三十歳でフルタイムパート、しかも深夜勤務。
世間からの評価は分かっています。
それでも転職六回の私は、自分の能力のなさと心の弱さで幾度となく挫折して、やっとたどり着いた居場所でした。
エースにはもちろんなれてないし、中の中も怪しい。
幻聴じゃない陰口は叩かれるけれど、いじめられてない。
多分、時給分の仕事はできている。
所得税も市民税も社会保険も厚生年金も一応は納めている、社会に出ているつもりでした。
しかし今はなんだろう。
精神科デイケアに通い十年立ってしまった私は、なんの生産性もない。社会から隔離されている。
そのせいか、ときおり、過呼吸らしき発作が起きます。
脈拍も血圧も酸素飽和度も異常ないのに、呼吸がすごく苦しくなります。
二、三時間で治まるのですが恐怖でした。
月に一度ぐらいこのような発作が起きるのです。
精神科デイケアの帰り、ふっと呼吸が苦しくなりました。
四十歳の誕生日でした。
またいつもの発作か、そう思っていたのですが、意識が遠のいていきます。
ヤバイ、そう思って塀に身体を預けます。
でも、駄目です。
どんどん苦しくなり、ついに意識が飛びました。
目を覚ますと、そこは八畳ほどの和室でした。
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