異世界でも俺は、敗者の座を欲しいままに—

溶くアメンドウ

序章

第1話 異世界へ

 俺は銀丸。永年銀メダルの2枚目だ。

…流石にそこまで捻くれてるつもりはないが、どうにも腐れ縁の昔馴染みのせいで周りにはそう見られている。


「…クソッ」


 高校生である俺がタバコを吸っている状況は本来忌むべき事象だが、私服の俺は随分老けて見えるらしい。…これも捻くれた考え方の1つかな?


『何でやめたの? 何で…なんで』


 市大会に総体、インターハイ…果てはカカリ稽古ですらも、一度だってアイツに勝てた事はない。多分、生まれ持ったモノって奴の次元が違うんだろうな。あらゆる努力が無意味な時間の浪費に思えた。


「…ふぅ、何か意味あんのかな? 俺の人生」


 酒は不味い。これを飲んでイキってる不良どもは本当に根性があるんだなと体感した。ま、酔ってる間は確かに気分が楽になるが…後の事を考えるとあんまり良いモンでもない。


「生きるって無意味だよな、マジで」


 最近は専らその事ばかりを考えている。ワイルドっていうのか、唯自然に生きる生き物達と違って社会っていう生命が一個の歯車みたいな部品として成立してる社会じゃ、意味がない生って奴は多分…無意味なんだろうな。

 厚生労働省が設置してる何とかいうホットラインが24時間じゃない辺り、大人って奴らは俺の考えを肯定しているように思われる。


「でも生きろって…クソどもが叫んでる」


 そんな綺麗事を叫べるなんて、つくづく幸福・・な奴らなんだと思う。自明の理だよ、苦しみ抜いた人間の台詞じゃないからね。


「何だよ、俺にどうしろってんだよ…わかんねぇよ」


 苦しい、逃げたい、やめたい、それを肯定して欲しい。

 そうゆう心底からの願いを肯定してくれる大人は1人だっていなかった。


 大人が俺たちに託すのは理想像のみで、いつだって現実を凌ぐ実践的な考えや方法を伝授してはくれなかった。都合が悪いからなのか、本人達もそれを知らないからなのか。あんまり勉強に打ち込まなかった俺には結論は出せなかった。


「疲れたんだ、それだけなんだよ」


 本当に、それだけだ。

別に、大義めいた何かを振りかざすわけでもマトリックスみたいな本当の現実に目覚めたわけでもない。癒しようのない疲れが溜まって、助けの求め方も分かんなくて…ただムチャクシャに頑張っているだけなんだ。そしてそんな現状が続いて先が見えなくって…それだけなんだ、本当に。


「楽になりたい…消えてぇのが正しいか?」


 自分という存在はまるで負の遺産だ。なんなら世界にマイナスを齎している不穏分子…いうなればいない方がマシ・・・・・・なカス、あるいは不良品か。どうするのが正解で、どうしたら不正解なのかすら分からない。


「…っぶしな、バカが」


 正面からは大型トラックっぽいライトがかなりのスピードで迫って来ている。轢かれてしまいたいって欲が僅かに湧くっちゃ湧くが、その程度で楽になれるのかは甚だ怪しい限りである。


「ゆうて避けられるさ、所詮」


 人を轢く事は相当なデメリットだ、いや不謹慎というか言葉選びが悪いというか。過失割合だとか責任だとか、兎に角トラック側にとってプラス足りえる要素はない。むしろ轢けるモノなら轢いて欲しい…そんな気分なんだ。


———


「…洞窟? 湧水? 何だ…ここは」


 下半身から腰に掛けて…いや、全身か? 下方に視線を向けると白シャツが血に塗れているのが分かる。持っていたはずのアイスの入ったビニール袋も無い。


「それよりも…何が起きたんだ?」


 空気…というよりは匂いが変だった。初めて嗅ぐ匂いが多過ぎるし、先程まで近付いて来ていたトラックのライトも消え果てている。


「まるで異世界って奴だな」


 夢想せずにはいられなかったアイツのいない世界。

もしかして、俺はそんな理想郷みたいな世界に迷いこんじまったのか??


…本当なら、願ったり叶ったりだ。



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