第226話 いじめ加害者家族の末路&二人の夜③

―相田母視点―


 どうしてこんなことになってしまったんだろう。息子は、県内の名門高校に入学して、サッカーでは全国大会に出場できるくらいに才能にあふれていたはずなのに。自慢の息子だった。親せきや近所の人に自慢していたくらいには。


「お前の育て方が悪かったからこうなったんだ。そもそも、なんであんなでたらめな主張をネットにさらしたんだ。今じゃ住所まで特定されて、職場でも白い目で、おちおち買い物にも行けない‼ お前がバカだから、あいつが警察沙汰になっちまうんだよ」

 夫は自分の責任を放棄して、私にそう食って掛かった。


「……なによ、自分勝手に」

 感情が爆発して、言い返す。


「なんだと、ネットでモンスターPTAババアって言われている分際で、俺にたてつくなよ‼ 終わりなんだよ、俺たちは。子供は警察に捕まって、高校を中退。女の子を集団でリンチしようとした立派な犯罪者だ。学校の備品を壊して、同級生をいじめてた。どうしようもないくらいのクズを育てた。お前のせいで、自爆して近所にまでそれが知れ渡ってる。もう職場にも行けない。全部、全部、おまえのせいだ」

 

「違う。ただ、あの子は悪い子にそそのかされただけ。本人もそんなに悪いことをしたつもりはなかったのよ。みんな、あの近藤っていう先輩が悪いの」


「知らねぇよ。でも、どう考えても、あいつは学校を退学させられる。他のサッカー部員たちと仲良くな。俺はそんなやつをもうこれ以上、養うつもりはない。帰ってきたら、お前ら二人は出ていけ。離婚だ、勘当だ。そんなにあいつを擁護するなら好きにしろ」

 夫は台所に逃げるように走った。何かが壊れたような音がした。

 全部が壊れていく。ほんの数週間前は、当たり前だった日常が、息子のせいで壊れてしまった。


 夫はプライドが高い。だから、このまま仕事もやめてしまうかもしれない。なんとかして、関係を修復したいけど、私の学校で行った脅迫音声が、デジタルタトゥーになっていて、何度も削除申請しても無駄だった。絶対に消えない。


 あれが出回ってから、夫は私のことを汚物を見るかのような目で見るようになった。


 あの子が帰ってきた時、どんな顔をして出迎えればいいのかわからない。

 私は息子をまた愛することができるのだろうか。


 泣き崩れながら、少しずつ家族の崩壊が現実になっていく。

 暗く冷え切った家の中で、私は一人きりになってしまった。


 ※


―英治視点―


 愛さんは、目を閉じた。それは合図だとわかったから、できる限り優しく彼女のくちびるを奪う。信じられないくらい優しく甘い吐息と柔らかな肌。抱き合うような形でキスをしているので、体温も伝わってくる。


 頭が完全に混乱していた。

 2度目のキスは、とても長く幸せな気持ちを共有できた。


「しちゃいましたね、キス」

 いつもよりもゆったりとした口調で、彼女は顔を真っ赤にしていた。


「うん」


「知っていると思いますが、ファーストキスですからね」

 その言葉にドキリとする。


「ありがとう」


「なにを言ってるんですか。こっちまで恥ずかしくなっちゃいますよ。センパイは違うかもしれないけど、すごく緊張したんですよ」

 上目遣いで色っぽい声を聴くと、クラクラしてしまう。


「俺だって初めてだよ」

 彼女は「えっ」と小さく驚いて、そして笑う。


「よかった。なら、お互いに一生の思い出になっちゃいましたね」

 そう恥ずかしそうに話すと、彼女はまた俺にキスをする。止まらなくなりそうだ。


「今日はこれで終わりです。これ以上は止まらなくなっちゃうから」

 同じ気持ちで嬉しいような寂しいような不思議な気持ちに支配される。


「じゃあ、ベッドに戻ります」

 彼女はゆっくりと布団を出て行こうとする。甘い香りを残しながら。

 身体を起こしたところで、こちらに振り返った。とても名残惜しい顔をしている。


 思わず行かないでくれって言いそうになったところで……


「やっぱり、今日は添い寝してもいいですか。一人になりたくないから」

 断る理由なんてどこにもなかった。

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