第194話 近藤家の破滅
―近藤父視点―
弁護士とやっと面会できた。
会社で雇っている顧問弁護士。彼は敏腕だ。こちらが問題を起こしても、彼がうまくやってくれるから表立ったトラブルには発展していない。だから、今回の問題もうまくやってくれる。
「ああ、近藤さん。息子さんの弁護はできません。さすがに、あそこまでやらかしてしまったら私でもどうにもなりませんからね。私は、負ける戦いをしないんですよ。悪しからず」
そのとげとげしい言葉に若干の自尊心を傷つけられたが、今は息子のことよりも自分の保身だ。
「それはどうでもいい。俺の容疑は晴らせるのか? 裏金問題はうまくごまかせるんだろうな?」
こちらの鬼気迫る表情を弁護士は苦笑で受け流す。
「どうでしょう。永田町の中央は、あなたをトカゲのしっぽ切りで済ませたいみたいですし。私はいろんな事情をくんで、あなたができる限り不利益にならないようにすることしかできませんね。あとは、空気を読んで、中央に被害がいかないように速やかに問題を解決するつもりです」
「おい、弁護士を雇っているのは俺だぞ。俺の利益のことだけを考えてくれ」
「とはいってもね。近藤さん。もう、あなたの会社は終わりですよ。すでに、県や市の入札参加資格は停止が確定済み。もうどうすることもないでしょう? あとはつぶれるのを待つだけ。私があなたの弁護を請け負っているのも、中央の大物さんたちが弁護費用を肩代わりしてくれるいるからにすぎません。本来なら、今すぐ手を引きたいんですけどね。敗北という経歴に傷がつくから。まぁ、大物とのコネを作れるから、この程度の傷なら許容範囲ですが」
すでに、自分とは別のところで、俺の運命が決められていることに憤る。だが、変えることすらできない運命を突きつけられている。
「俺はどうなるんだ……」
「ええ、多額の借金を抱えるでしょうね。たとえ、今回の件で傷を最小限に抑えられても、あなたはどちらにしても社会的に抹殺される。どう転んでも、あなたは終わりです」
冷徹な刃が心に突き刺さる。今まで上流階級の生活ができていたのに、このままじゃ借金まみれの生活になる。どうなるんだ。嫌だ、嫌だ、嫌すぎる。
「嫌だ。俺は金で苦労なんかしたくない。なぁ、先生。自己破産する。自己破産すれば、いいんだよなぁ。借金はゼロになるんだよなぁ」
俺の嘆願に、弁護士は深いため息をついた。
「これだからシロウトは」という表情を浮かべて、こちらを軽蔑しているように見える。
「あのねぇ。自己破産で全部解決できるなんて、社会はそんなに甘くないんですよ。今回の件だって、会社の裏金とか粉飾はあなたの悪意から始まっていますよね。あなたの不法行為で作った損害ですよね。裁判所がそれを認める可能性は低いですよ。自分が悪いことしたんだから、完璧に許されるわけがないんですよ。どこまで、甘く考えているんですか。あなたは……」
「嘘だ。嘘だと言ってくれ」
「ああ、あと息子さんの犯罪行為の損害賠償とかも基本的にはどうにもならいことが多いですからね。ちゃんと責任取ってください」
絶望の底に突き落とされる音がした。
「どうにかできないんですか……」
「無理です。ここまでのやらかし、なかなかありませんよ。自分の失敗の責任は、自分で取ってください。いい大人でしょう?」
うまく呼吸ができなくなってしまうくらいショックを受けた。
こちらが苦しそうにしていても、弁護士はどこを吹く風だ。
「うそだぁあぁぁぁぁぁぁああああ」
いままでずっと腰が低かったのに、金の切れ目が縁の切れ目か。
味方は誰もいない。
「そんな絶叫しても誰も許してくれませんよ。あなたの会社ももうほとんど持たなそうですよ。現金のストックが無くなれば、終わりです。倒産も時間の問題だ。だから、早く全部認めてくださいね。お偉いさんたちのために動けば、もしかしたら誰か援助してくれるかもしれませんし。まぁ、可能性は低いですが」
あざ笑うかのように、退出する弁護士は吐き捨てていった。
「近藤さん。結局、あなたは金の力で人間をつなぎとめていたんですよ。それ以外に、あなたの価値はない。これではっきりしましたね。では、考えておいてくださいね。私は早く認めたほうがいいと思います」
死刑にならなくても、社会的な抹殺はすぐそこに迫っていた。
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