第80話 晴れていくえん罪と一条愛の怒り
―学校裏サイト(一条視点)ー
「なぁ、やっぱり青野の噂、嘘なんじゃね?」
「だよな。警察が動いているのに、表彰されるわけがないじゃん」
「じゃあ、どういうことだよ。誰かが嘘をついて、青野をわるものにしていたってことか」
「そういうことになるだろうな」
「じゃあ、誰が嘘をついてたんだ」
休み時間にスマホを取り出して、学校の裏サイトをのぞく。やっぱり、噂に疑問を持つ人が、掲示板で議論していた。
「だいたい、一条さんが青野側にいた時点でおかしいと思っていたんだよ」
「あの人が暴力男に近づくわけないもんな」
「じゃあ、彼女だけは青野のえん罪に気づいて、ずっと彼を支えていたんだ」
「すご」
「自分から敵を作ってでも、被害者を守ろうとしていたんだな」
「でも、一条さんは、青野先輩に恩があるって言ってた」
「それに、土曜日の人助けの件でも、二人とも一緒にいたんだろ。絶対に休日デートじゃん」
「この前も放課後デートしてたし、付き合ってるんだろ」
自分のゴシップを見ていると、恥ずかしくなる。まだ、付き合ってないんだけど、そういう噂をされるのは悪い気はしない。
勝手に”まだ”という言葉を使ってしまった。もう自分の気持ちに嘘が付けない。
でも、まずはセンパイのえん罪を晴らすことが第一。
私は、いつもは軽蔑している場所に書き込みを行う。自分の手が汚れることに少しだけ嫌悪感をおぼえた。でも、それ以上に今の状況が許せない。
「誰が嘘をついたって、たぶん、みんなわかってるでしょ?」
私のこの一言で掲示板の流れは一気に変化する。これ以上の書き込みは必要ない。誰もが言い出しにくくて、言えなかったはずだから。あとは、堤を切ったように、真実がネットの海に放流される。
「だよね」
「あの話が出た時点で、天田美雪が明らかに動揺して倒れたし」
「同じクラスだけど、近藤が全校集会の後から姿が見えないんだよ」
「それで決まりじゃん。この事件が起きる前からふたりともよく一緒にいたし」
「近藤先輩は逃げたんだな。女も見捨てて」
「じゃあ、二人は浮気してて、それがバレるのが怖くて、青野君にすべてをなすりつけたってこと?」
「それが本当だったら鬼畜すぎる」
「ありえないだろ……」
「ドン引きだわ」
「青野君がかわいそう」
先輩の傷ついた信用は、そう簡単には取り戻せないけど、これで劇的に改善されるはず。こういう手法は使いたくなかった。でも、最初にやったのは向こうの方だから。
「青野英治という私にとって大事な人を追い込んだ責任は取ってもらいますからね。私はあなたたちを絶対に許さない」
ふたりは、自分がしたことがそのまま自分の身に返るだけ。
それも、自分の保身のために、優しい彼を自殺を考えるほど追い込んだのだから……これでも軽い。
こういう風に、簡単に自分の立ち位置を変えてしまう無責任な人たちへの静かな怒りをおぼえながら、裏サイトを閉じる。
大事な人を守るためには、使えるものはすべて使う。
そうしなければ、何も守ることができないと分かったから。
私は黒井にメッセージを送信する。
「最悪の場合は、父に私から頼みます。すぐに連絡できるように手配してください」
下げたくない頭だって、彼のためになら……
そろそろ、近藤議員が動いてくるはず。彼が暴走して、先輩の家に卑怯な真似をしたら絶対に許さないっ。
テレビ局の問い合わせについては、私の方でも顔出しを許可した。
放課後に消防の人が来て、私たちを表彰してくれるらしい。その時にマスコミの人も一緒に来てくれるそうだから、その様子が取り上げられることで、今回の件で傷ついた先輩の評判はさらに改善されるはず。
これが無事に放送されれば、もう誰もセンパイのことを邪魔できないはず。
今日ですべてを終わらせる。
私は覚悟を固めた。
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