第34話 通報者の真実

―???(通報者)視点―


 古い話をしよう。

 僕は常に弱い男だった。


 実は僕には、幼馴染がいた。幼稚園から親ぐるみの付き合いで、小さいころにおませな彼女から誘われてファーストキスを済ませた。どんどん成長して思春期になったころ、僕たちはお互いを気にして、恋人関係になった。


 中学生の時が、僕にとっては人生最高の幸せな時間だった。

 美人な幼馴染と晴れて恋人になれて、このまま社会人になったら結婚するんだろう。そんな淡い期待を込めていた。


 ずっとふたりだけの幸せな時間が待っているはずだったのに。

 それは中学1年の夏に壊されてしまったんだ。あの憎きサッカー部の近藤の手によって!!


 近藤は、女慣れしていて、中学の時からプレイボーイとして浮名を流していた。そんな男が、僕たちのすれ違いを利用して、彼女の心のすき間に入り込んで、浮気を誘導させたんだ。


 ※


「あのオタク気持ち悪い」


「あれが彼氏だったなんて人生最大の恥」


 ※


 豹変ひょうへんした幼馴染に近藤はこう言わせて、自分を満たしていた。

 最低の趣味だと今でも思っている。


 そして、運命の日。浮気がバレて問い詰められた彼女は僕にこう言ったんだ。


「私の幸せを邪魔しないで。お願いだから、別れて頂戴」

 ずっと優しく笑いかけてくれた彼女は、汚物でも見るかのような冷たい目でこちらをにらみつけていた。もちろん、近藤の腕を握っていた。


「なんでだよ。なんでだよ。僕と結婚するって約束してくれたじゃないか!!」

 身体を崩れ落としながら、すがりつくように泣きついた。プライドもすべて捨てて……


 でも、彼女は無慈悲に笑いながら、現実を突きつける。


「わからないのかな。私はもう近藤君にぞっこんだからあなたと別れるの!! そういうことだから、早く別れてね。私、彼と幸せになるんだから」

 すべての価値観が崩壊した瞬間だった。そこにあるのは近藤への恨みだけ。


 僕は、不登校になり、学校に復帰するまで2年以上かかってしまった。

 勉強は得意で、中学の先生たちがあきらめずに僕をサポートしてくれたから、なんとか県立の名門校に進学できたけど、そこには近藤と幼馴染もいた。幼馴染は、すぐに近藤に捨てられて、ちょっと近藤にストーカー気味になっていると風のうわさで聞いた。僕はできる限り赤の他人のように振る舞った。


 高校になってから人生をリセットしたかったけど、それすらうまくいかずに無為な時間を過ごして、高校1年生の1学期は終わってしまったんだ。人間不信になっていたから友達もできなかった。


 そして、憂鬱な去年の夏休み明け。つまり、1年前の今頃。僕は運命に出会った。

 その人は、青野英治という人だった。どうやら、1学期のころからひとりぼっちだった僕のことを気にかけてくれていたみたいで、夏休み明けの席替えで、席が近くなってから話すようになった。


「ねぇ、キミ、いつも本を読んでいるよね。俺、文芸部だから興味あるんだ。おすすめの本教えてよ」


 放課後に遊びに行くようなことはなかったけど、趣味が合って教室で気軽に話せるようになった唯一の友達。それだけで、僕は数年間のセピア色の世界から抜け出すことができた。


 彼と話していたことをきっかけでクラスメイトとも話すことができるようになって、僕は失われた青春をやっと取り戻せたんだ。青野君は、自分が僕を救ってくれたと気づいていないようだったけど。僕は間違いなく救われた。


 僕は、理系クラスに進学して、別のクラスになって少し疎遠になってしまったけど、いつか恩を返したい。今、楽しい高校生活を送れているのは、彼のおかげだから。


 そして、彼と出会って1年後の夏休み明け。事件は起きた。彼が、付き合っていたはずの天田さんに暴力を振るったと噂が学校を駆け巡って、孤立してしまったんだ。僕のヒーローがそんな卑劣な真似をするわけがない。


 噂を確認したところ、天田さんの後ろには、近藤の関与の影があった。僕はそれに気づいて、ついに激怒した。一度ならず、二度までも僕の大切な人を傷つけるのは許せない。


「近藤。また、お前かっ!!」

 僕は、怒りに満ちて、あいつのことを調査した。弱みを握るために。昨日は、あいつが天田さんの家に入っていくのを見た。でも、これでは弱い。ただ、遊びに行っただけと逃げ切ることができるかもしれない。


 だから、決定的なチャンスを待ったんだ。そして、それは思わぬほど早く訪れた。

 ふたりは東京の繁華街で待ち合わせして、本来高校生が入ってはいけないはずのラブホテルに入っていくのを目撃することができた。法律で高校生の利用が禁じられているはずの場所に。


 僕は、その2人の様子をスマホで撮影し、すぐに警察に通報する。

 これであいつらはかなり追い込まれるはずだ。この写真を現像し、学校にも送り付ける。


 そして、この証拠は決定的なゲームチェンジャーになるはずだ。あの偽りのサッカー部の王様を追い落とすために!!


「もしもし、警察ですか。実は、ちょっと高校生のようなカップルがホテルに泊まっているようなんですが、これってまずくないですかね? はい、場所は……」


 僕なりの復讐と正義を執行して、いかがわしい歓楽街を去る。青野君の立場が少しでも良くなることを祈って!!

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