帰宅部相沢君のそれなりな青春ラブコメ

@under_bar

第一話 スリーアウトチェンジ

第1話 全然知らない女


 今朝いきなり親父からプロ野球の観戦チケットを二枚渡された。試合は今日、場所は甲子園で阪神巨人戦。いわゆる伝統の一戦ってやつだ。


 親父曰く「同僚と行く予定だったんだけど残業になりそうだから代わりに頼むわ」とのこと。いや、頼むわって言われてもな……。


 正直困る。

 親父はなんか〝俺、いいことしたな……!〟って感じの表情で鼻をこすっていたが、俺から言わせりゃ〝こんなもんいきなり押し付けられても……〟ってなもんだ。

そりゃまあ俺も野球はやってたし見るのも別に嫌いじゃないが……人にはそれぞれ予定ってもんがあるわけで。


「なあ川村。お前今日暇だったりする?」

「いや普通に部活だけど。なんで?」

「だよなぁ……。いやさぁ――」


 早速教室でいつも連るんでいる野球部の川村に聞いてみるも返答は案の定。俺は若干愚痴交じりで事情を説明する。


「んじゃもう一人で行けば?」

「……正直わざわざ一人で現地観戦したいかって言われたら微妙だわ。外野席だし。万が一テレビに切り抜かれて隣が空席だったら後で何言われるか分かったもんじゃない」

「でもその理屈だと二個とも空席の方がよっぽど酷くね?」

「そうなんだよなぁ……」


 深い溜息。いやまあ別に怒られたりしないと思うけど。多分普通にちょっと悲しむだけだと思う。なんなら寧ろ謝られそうだし、それが一番気まずいまである。

 そんな話をしていると陸上部の山本が挨拶がてらこっちに近寄ってくる。教室では大体いつもこの三人+αって感じだ。


「流石にいきなり今日はムズイだろ。ちなみに俺も部活な」


 そしてこっちが仕掛ける前に先制攻撃をもらった。

 こういう言われ方をすると常に暇人な俺(帰宅部)ってやっぱ青春をドブに捨ててんのかね……と捻くれた思考が過るが流石に胸の内に留めておく。


「どうしたもんかね」


 代わりにポツリと独り言を呟き、ぼりぼりと頭をかく。

とりあえず後何人か誘って無理そうならLINEで中学時代の友人とか当たってみるとして……。


 とその時、背中に突き刺さるような視線を感じた。


 レーザービームのようにこちらを真っ直ぐ射抜く強烈な視線。

 思わず振り返ると、当然ながらバッチリ目が合う。

 そしてこれまた当然ながら、そこにいたのは俺の後ろの席の女子、岸野葵だった。

 何度か瞬きをしても視線が逸れることはない。

 岸野はそのつぶらな瞳でじっと、仲間になりたそうにこっちを見つめている……。


 いやいや、まさかな……。

 そもそも俺は岸野と喋ったこともないし、もっと言えば岸野が誰かと喋ってるのを見た記憶すらない。見た目通りの、無口を体現したような女子なのだ。


「どしたん相沢」

 急に黙り込んだ俺を不思議に思ったのか川村が尋ねてくる。

「いや、なんでもない」


 すぐさま俺はかぶりを振って向き直り、てか一時間目なんだっけとしょうもない話題に切り替えた。


 ま、まさかな……。


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