異世界でも発注管理 〜日本から発送されます!〜

@hantyo18

プロローグ

プロローグ-1 転移前のひととき

「今日の営業先は、○×病院か…」




 真夏の街中を歩きながら、午後からの予定を確認する。


 俺こと姶良史人あいらふみとは、とあるシステム開発会社の営業担当をしている。うちの会社のラインナップは大きく分けて3種類。「発注管理」「在庫管理」「売上管理」である。その中でも、今日は「発注管理」についてのプレゼンをするつもりで営業先に向かっていた。




 もう少しで営業先に着くというところで、急なめまいに襲われてしまった。『そういえば、今日の最高気温は40℃を超えるかもと朝のニュースで話題になっていたな…』と心の中で考えながら、俺は意識を失ってしまった。




 目を覚ますと、そこはどこまでも真っ白な空間が広がっている世界であった。『あれ?…俺は○×病院に向かう途中で意識を失ってしまったはずでは…?』と考えていると、後ろから不意に声を掛けられてしまった。「その通りですよ。」と。




 後ろを振り返ると、そこには絶世の美女といっても過言ではない女性が立っていた。彼女はいわゆる大和撫子のような格好をしていて、俺にはとうてい普通の人間には思えないのであった。彼女は、戸惑っている俺の様子をみて、「こちらでお茶でも飲みながら、何があったのかを説明しますね。」と声を掛けてきた。そうすると、彼女の後ろには先ほどまではなかったはずの机と一人がけのソファーが2つ設置されていた。




 ソファーに腰をかけて彼女の話を聞いたところ、俺に何が起こったのかが分かってきた。どうも俺は、40℃を超える炎天下の中を営業回りしていたことで熱中症になってしまい、もう少しで営業先というところで無念にも力尽きてしまったようである。




 本来であれば、俺の魂は地球で新たな命として転生する予定であった。しかし、彼女は俺にお願いしたいことがあるようで、死ぬ寸前の俺をこの空間に連れてきたそうだ。なぜ、彼女にそんな事ができたかというと、俺が予想していたとおり彼女は普通の人間ではなかったからである。




 彼女はそもそも人間ですらなく、日本では神様としてあがめられている存在らしい。彼女には、日本以外にも担当している地域があるらしく、そこの地域は現代よりそうとう昔の発展レベルだそうだ。彼女としては、その地域の発展はその地域の人間がするべきという考えにより直接の手出しはして来なかったらしい。しかし、ここ数百年で発展具合に進歩がみえなくなってしまい、彼女も頭を抱えていたそうだ。そこで、現代日本の知識を持っている俺にその地域に行ってもらい、少しでも発展のてこ入れを行いたいそうである。その話を聞いて、俺はその地域に行く事を決断した。そして、詳しい打ち合わせをすることにした。




 


 「女神様、私はどのような場所に転移するのでしょうか。」と、最大限の敬意を払って訪ねてみた。


 すると、彼女は「史人さん、私のことは”姫神きしん”とお呼びください。史人さんが転移される世界は、いわゆる異世界と表現されている世界になります。その世界のことを”カゼノタ”と私たちはは呼んでいます。カゼノタには3つの大陸があり、史人さんに転移してもらうのは”カントル”と呼ばれる大陸の”ジオフロ”という国になります。」と返事が返ってきた。




 そこで私は、「では、姫神様と呼ばせていただきます。姫神様、私のできる範囲で頑張ってはみますが、私はたんなる営業でしかありません。どこまでご期待に応えられるかは…」と覚悟をもって伝えた。


 しかし、姫神様は「その点は問題ありません。史人さんのできる範囲で行動していただければ大丈夫です。あちらの世界では、”ステータス”と呼ばれるシステムで能力が管理されています。このステータスを現地のひとよりち・ょ・っ・と・だ・け・強化しておきます。これにより、自己防衛が可能になると思います。また、史人さんには特殊能力をお渡ししますので、その力も使っていただければと思っています。」と、さらっと返事をしてきた。そこからは、俺に与えられる特殊能力についての説明が始まった。




 「まず、特殊能力とは何かから説明をします。特殊能力とは、いわゆる”スキル”と呼ばれるものになります。スキルには2つの分類があり、「固有スキル」「会得スキル」と呼ばれています。「固有スキル」は、生まれてきた時点ですでに持っているスキルであり、だいたい10~15%の人が持っています。内容は人によってバラバラであり、詳しい効果は他人には秘密にすることが一般的です。それに対して、「会得スキル」は訓練などを重ねることで新たに獲得することのできるスキルになります。内容は共通なことが多く、「スキル書」と呼ばれる習得方法や効果が書かれている本も出版されています。また、スキルは使えば使うほど成長していきます。習得したてではレベル1ですが、最終的にはレベル10まで成長させることができます。そして、史人さんには固有スキルとして「発注管理」が使える状態で転移していただきます。」




 「「発注管理」ですか?それって…」




 「はい。史人さんが営業を担当していた「発注管理システム」をベースとして他の機能も組み込んだものになります。実際に使っていただきながらご説明しますね。「呼出よびだし」と声にしてみてください。」




 姫神様に言われたとおり、「呼出」と声にすると手元にタブレットが現れた。


 「史人さんが手にしているタブレットで、いろいろなことができます。今後は、『タブレット呼出』と念じることで取り出すことができ、胸に手を当てて『収納』と唱えるとしまうことができます。メインとなる「発注管理」だけでなく、発注したものを管理するための「在庫管理」、売り上げを管理するための「売上管理」もアプリの1つとして搭載されています。では、まずは「発注管理」から使ってみましょう。「発注管理」をおしてみてください。」




 「画面にたくさんの商品が出てきました。」




 「はい。ここでは、地球のものを発注することができます。発注には”資金”と”納期”が関わってきます。まず、”資金”は購入にかかる費用を指します。実際には現地のお金を使うことになります。”納期”は、発注してから手元に届くまでの時間になります。レベル1の納期は24時間ですが、レベルを上げることで納期は短くなっていきます。では、一度ホーム画面に戻っていただいて次は「在庫管理」をおしてみてください。」




 「パソコンのエクスプローラーみたいな画面が出てきました。」




 「はい。ここは、発注したものの受け取りと保管、また現地で購入した物をしまう倉庫として使うことができます。今の階層には「納品」「倉庫」「金庫」があります。「納品」には、直近で発注したものが収納されます。ここには階層を増やしたり納品された物以外をしまうことができません。「倉庫」には納品された物以外にも、現地で購入した物をしまうことができます。また、自分で階層を増やすことができるの使いやすいように設定できます。レベル1では畳6畳分ほどの収納容量しかありませんが、レベルをあげることで収納容量は増えていきます。また、レベルを上げることでファイルごとの時間経過を細かく設定できるようになります。具体的にはレベル3で時間停止、レベル7で時間加速が解放されます。「金庫」には、現地のお金のみ収納することができます。下には2つの階層があり、「運営資金」に収納したお金は発注する際に使われていきますが、「余剰資金」に収納したお金は勝手に使われないので、ご安心ください。収納するには、ファイルを開いた画面に直接入れる、または収納したい物に触れた状態で『ここに収納』と念じてください。取り出す方法は、画面上のものを触ると”取り出しますか”という選択支が出てきますので、”はい”を選択してください。そうすると取り出そうとした場所に取り出すことができます。では、もう一度ホーム画面に戻っていただいて最後に「売上管理」をおしてみてください。」




 「表計算ソフトが出てきました。」




 「はい。ここでは表計算ソフトを使って売り上げの管理を行うことができます。他の2つのアプリとも連動しているので、倉庫の中身を一覧表にまとめて在庫数を管理したり、在庫数によって自動発注することもできます。なお、自動発注する場合運営資金が使われていきます。運営資金がなくなった場合、自動発注が中止されますのでご安心ください。以上が説明になりますが、なにかご質問はありますでしょうか?」




 「もし、従業員を雇った場合このタブレットは使えるのでしょうか?」




 「このタブレットは史人さん専用になっていますので使用できません。しかし、ホーム画面にある「従業員管理」のアプリを開くと、従業員を雇った際に便利な機能が使えます。まず、従業員を雇った際にはこのアプリから”タブレット発行”を申請してください。すると、初期設定の完了しているタブレットが手元に現れますので従業員に付与してください。この世界では地球にはなかった魔力が存在します。魔力には人それぞれの波形があり、同じ波形の人は存在しません。スキルで作成されるタブレットは全て魔力認証によって他の人が使えなくなっています。ですので、付与する際に魔力登録を行います。この魔力登録によってタブレットとステータスが紐付くので、一度付与されればタブレットを胸に当てて『収納』と念じるとタブレットも収納することができます。取り出すときは『タブレット呼出』と念じると手元に取り出すことができます。」




 「従業員のタブレットではどのようなことができるのでしょうか?」




 「従業員用タブレットでは、史人さんのタブレットの子機としての機能があります。まず、「発注管理」については基本的に使えません。「在庫管理」については、「倉庫」と「金庫」の機能の一部が使えます。「倉庫」では、現地の物をしまうことと史人さんの倉庫からものを転送することが可能です。転送された物は倉庫にしまっておくこともできます。「金庫」では「個人口座」と「納金」が使えます。「個人口座」には給与を振り込むことができ普通の金庫としても使えます。「納金」では、納品したときに受け取ったお金を運営資金に送金することができます。「売上管理」も一部の機能が使えます。基本的には、他アプリとの連携が制限されているので計算にしか使うことができません。また、これら全ての機能は史人さんのタブレットの「従業員管理」から個人ごとに細かく設定が可能です。他にも名刺の作成や制服の作成、給与の支払いもこのアプリから行えます。」




 「至れり尽くせりで助かります。他には注意することはありますか?」




 「あとの細かいことは”異世界のしおり”をつけますので困った際にご確認くだされば大丈夫だと思います。」




 「分かりました。何から何までありがとうございます。」




 姫神様との会話も落ち着いてきたところで、いよいよ異世界に転移することなった。


 「史人さん、私の都合でご迷惑をおかけして申し訳ありません。どうか”カゼノタ”のことをよろしくお願いします。」


 「姫神様、私の命を助けてくださったご恩は一生忘れません。本当にお世話になりました。」


 「なにかありましたら、教会でお祈りください。では、あなたの人生に幸ありますように…」


 この言葉を聞いて、俺はまた意識をなくしたのであった。

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