第6話 地獄の沙汰も

ちゃりん。

わたしの貯金箱が音を立てた。

中には10円玉が詰まっていた。そろそろ100枚くらいは貯まったかな。

1000円あればお昼ご飯くらいは行ける。でも、まだ使わない。

もうすぐ光側が勝って、金本位制になって銅とかの価値が上がると、これが1枚1000円くらいに価値が上がるらしい。つまりこれが10万円くらいになるということか。


光側が勝ったら、これで何を買おうかな。

その時には、「平津さんは正しかった」「黄桃さんは正しかった」ってみんな言ってくれるだろうな。

LINEブロックされた友達もきっと、「彩香ちゃんの言う通りだったよ、ごめんね」って言ってくれる。


明日、これと同じ貯金箱を買いに行こう。


「…が今日亡くなったことが分かりました。66歳でした。関係者によりますと、おととい東京都港区の自宅で倒れ…」



「おはようございます、さやさん!これどうぞ!」

「ありがとうございます!何ですかこれは?」

黄桃から私の手に渡されたのは、立方体のプレゼント箱が入っている少し重い紙袋だった。

「貯金箱です!わたし最近10円玉貯金してるんですよ!」

「あぁ、それって…」

「そうですそうです!!金本位制?になったら10円玉の価値が上がるらしいんで始めたんです!!」

「良い備えですね。」

「ありがとうございます!!」

荷物になるな、と思った。

そもそもそんなに銅の価値が上がるなら、何故10円玉貯金なんてちまちましたことをして、銅のインゴットとかを買わないのだろうか。

理由は明白だ。面倒臭いのだ。そして、銅のインゴットとかを買う程の金がないのだ。


紙袋をリュックに入れると、黄桃が続けた。

「そういえば、おととい小川…なんでしたっけ?が亡くなったらしいですね〜」

「『化学の眼』の教祖ですよね。これを機に教団も弱体化してくれると良いのですが。」

「信者さんは復活祈願やってお布施までしてるらしいですよ?さすがに復活は無理ですよね〜!」

黄桃はそう言って笑う。

「無理ですね。一度死んだ人間ですから。」

「もしかして、ゴムマスクで復活したふりとかじゃするんじゃないですかね〜?」

「まさか。」


しかし、黄桃も似たようなもんだ。

いつか「光側」が勝つ、助けてくれる。そう信じて疑わず、私に沢山の物を、時間を、金を、心を捧げているのだから。



「今日のデモ、たくさんの人に見てもらえましたね!」

「そうですね。ももさんもいつもありがとうございます。」

「こちらこそです!」

「ではまた。」

「また今度〜!!」


黄桃の背中を見送った後、リュックを背負った。

「おっも…」

小さく独り言をこぼした。


「…教団は取材に対して、『お答えできません』としています…」


私は、最後まで「神様」でいられるだろうか。

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