第4話 信じるものは
「今年初の街頭、手伝ってくれてありがとうございました。」
「いえいえ!三が日は何も予定なかったので!」
「ももさんのような人が居るから、『新党陽のひかり』は今年も走り続けられます。」
「ありがとうございます!ずっと応援してます!」
1月3日。「平津紗夜 覚醒」の旗のそば。わたしはさやさんとビラを配り終わって片付けをしていた。
これでまた、マスクとワクチンの危険性をみんなに伝えられたにちがいない。
「さやさんはこれからどこかに行かれるんですか?」
「ここからすぐ近くの神社まで初詣に行こうと思っています。ももさんは初詣もう行きました?」
「いやまだ…」
「でしたら折角ですし一緒に行きましょうか。マスクをしなくていい神社だそうですよ。」
「良いですね!」
わたしとさやさんは片付けを終えると、2人きりでその神社の方向へ歩きはじめた。
「そういえば知ってました?参拝って本当は三礼三拍手なんですよ。」
「そうらしいですね。」
「えっ知ってたんですか!?すごいですね!」
「いえいえ。最近知りまして。」
「わたしも最近知ったんですが、正しい参拝方法は全然違うんですよね。『一揖、三拝、三拍手、一拝、一揖』と言って、こうすることで神様が動き出すんです。」
「知らない人の方が多いですよね。」
「そうなんですよ。二礼二拍手は神様を閉じてしまう方法で、明治時代日本人が目覚めないように国があえて間違った方法を広めたらしいです。」
「国民を間違えた方向に動かすのは簡単ですからね。」
「そうですね。簡単に支配されてしまうんです!」
さやさんは数少ない光側の人間だ。家族や友達に話せば変に疑われるような話も、さやさんはちゃんと聞いてくれる。
だから、さやさんは世の中を変えてくれると思っている。さやさんが立候補していない大きな選挙でも、投票用紙に「平津紗夜」「新党陽のひかり」と書いたくらいには。書き換えられないように、もちろん油性ペンで。
そんな話をしていると、神社に着いた。
〈マスクは有害です。ぜひマスクをお外しいただき、お顔を神様にお見せください。〉
という張り紙が嬉しい。こういう張り紙のない神社には、肩身が狭くて行けてなかったから。
拝殿で軽く一礼をして、三礼三拍手をした。
さやさんと、政治家と支持者から、恋人同士になれますように。
まだ気持ちを伝えるのは、怖いけれど。
一礼をして、また軽く一礼をした。
澄んだ空を背にしたさやさんは、いつも以上に鮮やかに見えた。
新党陽のひかりが、大きくなりますように。
そして、支持者からお金が沢山貰えますように。
かわいいな。
参拝の方法たったひとつで、国が支配されるって本気で思ってるの。
「参拝もしましたし、そろそろ駅まで帰りましょうか!わたしも山手線で帰るので!」
「そうですね。ところで、ももさんは何をお願いしたんですか?」
「…健康です!お金とかもそりゃ欲しいですけど、やっぱり健康は何にも替えられないので!あとお金はもうすぐ入ってきますし!」
「お給料ですか?」
「もうすぐ地球銀行から個人の口座に500万ドル振り込まれるんです!」
「そうでしたね。」
「もうすぐ緊急放送が行われるんです。そしたら闇の組織の金融支配はリセットされて、個人の口座にお金がたくさん振り込まれて、遊んで暮らせるようになるんです!」
「世界のパラダイムシフトも、もうすぐですね。」
「はい!その時にはきっと、みんなが真実に目覚めた世界がやって来ます!それまではこうして地道に活動ですね!」
「そうですね。一緒に頑張りましょう!」
黄桃が怠け者でなくてよかった。緊急放送とやらを当てにして、仕事を辞めたり借金をされたりしたらたまったもんじゃない。
いや、うだつの上がらない日々を闇の組織のせいにしている時点で怠け者ではあるけれど。
緊急放送のないこの世界で、一生暮らせるほどのお金を稼ぐのに一番早い方法は、
誰かにとっての神様になることなんだろう。
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