第4話 たどり着いたら作品世界――②
この作品では、ダンジョンの中で魔素が集まって魔石となり、魔石を核としてさらに成長しモンスターとなるのだが、彼らは普通、自分の生まれた階層、あるいはダンジョンそのものから、出ようとはしなかった。
そう、ダンジョンの入り口や階層の扉に、殊更、結界の類が施されているというわけではない。「ただ彼らが出ようとしていない」だけなのだ。
その理由は簡単だ。モンスターの食い物は魔素である。ダンジョンの中にいる限りは、建物から魔素が供給されるので、飲まず食わずでも死ぬことはないからだ。ちなみに、この作品では、魔力の元である魔素は人間や亜人のみならず一般の動物も持っているという設定で、ダンジョン内で冒険者たちを襲うのはもちろん、ダンジョン外でも人間や家畜等を襲うのは、魔素を得るためである。
しかし、モンスターの中には「奇行種」というのがいて、理由は定かでないが、ふと、外の世界に出ようとする奴が出てくる。
そして、一匹が外に出るや、他のモンスターも後に続こうとするという、やっかいな本能があった。
言うまでもないが、原則、タワータイプのダンジョンなら上に行くほど、地下迷宮タイプのダンジョンなら下に行くほど強いモンスターがいる。
なので、一階、あるいは地下一階レベルでモンスター集団脱走が起こっても、雑魚モンスターばかりなので、そこまで問題ではない。とは言え、逃げた分はちゃんと全滅させないと野生化してしまうが。
ヤバいのは、上層部または深層部の強力なモンスターが脱走を企てた時――その階層までの全てのモンスター、フロアボス級の奴らも含めて、全てが解き放たれることになり、これはもう国家非常宣言レベルの災害だ。これを
その災いが、王国最大級のダッダリアのダンジョンで発生した。
ダッダリアのダンジョンは地下迷宮なのだが、全五十階と言われているうちの三十階以上の、無数のモンスターの一斉流出が始まった。
もちろんこのままでは街は壊滅、そこからそう遠くない距離の――馬車で一日ほどの――王都ゴールドリマも危うい。まさに、ストーリー中盤の山場! である。
この未曾有の危機に対し、ダッダリアの勇者たるマシューは――
本来なら、街の冒険者たちの先頭に立って、命がけで
しかし、無数かつ強大なモンスターの大群を見て、『星々の咆哮』のメンバーが止めるのも聞かず、とても勝ち目はないと逃げ出してしまった。
思わず、何ということでしょう! と言いたくもなるが、実はこれにも、他人には言いづらい事情があった。
この頃では、マシューは長期間の深酒がたたってアルコール中毒になりかけており、手が震えて、まともに剣が振るえない状態だったのだ。ああ、何という負の連鎖。
で、使えない勇者に代わってダッダリアの街の防衛にあたるのが、主人公トーヤと『空飛ぶ山猫』の面々。
チート魔法が使えるといっても、あまりに敵は多すぎ、強すぎ。
魔力枯渇に陥り苦しい戦いになるトーヤ。アンヌやルーシェは懸命に彼を支援する。
自分は本当に人々を守り抜けるのか、戦い抜けるのか――珍しく不安やら弱音やらを口にしたトーヤに対し、モエリィが大切なファーストキスをあげちゃうなんていう、何とも甘酸っぱいエピソードもあったんだな。いや、マジお前俺と代われ。
初恋の
かくして、ダッダリアの新たな英雄となったトーヤの評判は成層圏を突き抜け、マシューの評判は地殻を貫きマントル層まで落っこちる。
「普段偉そうにしてるくせに、あのザマは何だよ!」
当然すぎる街の住民の物言いに、マシューは逆ギレし、鞘から抜いた聖剣を人々に向けてしまう。
その刹那――聖剣は彼の手を離れ、どこへともなく飛んでいってしまった。
聖剣にも意思があり、事ここに至って、ついにマシューを見放したのだ。それはすなわち、「勇者」ではなくなることを意味していた。
人望、仲間、聖剣、そして勇者の称号――全てを失って、マシューは、ダッダリアの街から姿を消す……
そして数週間後、
そこに、ツノやら、コウモリの翼やら、鋭く巨大な爪やらを装備し、魔人となったマシューが強襲をかけてきた!
この漫画では、かなり最初の方から『独立幻魔団』という、王政打倒を掲げる反政府組織が暗躍していることが描かれていた。
マシューを魔人にしたのは、この『独立幻魔団』の仕業のようだが、きっと後で説明するつもりだったのであろう、この時点では詳しくは描写されていない。
ともあれ、闇の力を得て強キャラになったマシューは、自分が落ちるとこまで落ちたのはトーヤのせいであるという、歪んだ責任転嫁を抱えて彼らに襲いかかる。
そして最初の戦いで、トーヤは完敗し、深手を負ってしまう。
七種類もの最上級魔法が使えるのに、なぜ?
その理由は、トラウマだった。
Sランクのモンスターを目の前にしても、臆さず立ち向かう英雄気質の持ち主であるトーヤも、あの雪の日、マシューに真剣に殺されそうになった――死の恐怖を感じた記憶が蘇り、手足がすくんでしまったのだ。
ただならぬ事態に、王宮騎士団が駆けつけるも、瞬く間に一掃される。
その隙に四人、何とか撤退に成功するが、トーヤにとどめを刺そうと、マシューは王都を無差別破壊しながら行く手を探す。
トーヤの手当は回復担当の聖女アンヌに任せ、モエリィとルーシェが決死の覚悟で迎撃に向かう。
まずはルーシェが戦うが、まるで歯が立たない。
モエリィは、ルーシェが戦っている間に多くのトラップ魔法を仕掛け、弱いながらも知恵をしぼって奮戦するも、所詮は儚い抵抗――
「トーヤ……ごめんね……あたし……あなたを……守れ……なかっ……た……」
こっぴどく痛めつけられ、石畳の上に叩きつけられ、薄れていく意識の中で、それでも痛みのせいではない大粒の涙をポロポロこぼしながら、トーヤのことを想うモエリィ。ああ、もう見てらんない。
最後の一撃が繰り出されようとしたその刹那――どこかから飛んできた攻撃魔法がそれを阻止する。
もちろん、こんなこと
傷の回復もそこそこに、アンヌの肩を借りて、息せき切って戦場に駆けつけたトーヤ、無残な姿で石畳に倒れて、あるいはレンガの壁にもたれかかって、気を失っているルーシェと、そして、モエリィの姿を見て――
「きっ……貴様あああああ――っ!!」
トーヤ、シリーズ中、最大級の怒り爆発!
「二人を頼む!」
アンヌに言うなり、一人、猛然とマシューに向かい突進していく!!
「よくも……よくもモエリィをーっ!!」
ガキィンッ!!
激しい音を響かせ、我を忘れたかのように、聖杖でマシューに殴りかかる――
こうして、トーヤとマシューの最後の戦いが始まる。そう、それが、さっき見た光景だ。
長い長い、激闘の果てに――
「マシュー・クロムハート!! 俺は今日こそアンタを倒し、過去と決別する!!」
トラウマを吹っ切るかのように、トーヤはそう言い放つと、必殺の最上級炎魔法、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます