転生勇者のビフォーアフター ~転生したらこの先追放ざまぁで破滅する残念な勇者だった! でもまだ遅くない! 生き方「大改造」してみるぞ!~

桃島つくも

No.001 Alive an another life

第1話 始まり(プロローグ)に殺陣をどうぞ

 ブルーム大陸東部、プランタ王国、王都ゴールドリマ。

 石畳や、レンガ作りの建物や、三角屋根の教会や時計塔が目につく、欧州古都風の街並み――


 白昼。

 二つの影が、ガキン、ガキンと大きな音を立てながら、激しく戦っている。

 レンガが壊れた建物や、煙を上げる民家があちこちに見られる。

 街の人々の姿はない。この戦いに巻き込まれるのを恐れ、住処の部屋の片隅などでじっと息を潜めている。


 接近戦を繰り広げているその影のうち、一つは少年だ。紺色の短髪、赤い瞳の精悍な顔立ち。

 彼の名はトーヤ・ベンソン、職業ジョブは魔道士。

 ところどころに金の刺繍をあしらった濃緑のケープ姿、手には大きな円形の飾りがついた長い錫杖を持っている。


 もう一方の影は……これを人、と呼んでよいものか。

 両手と下半身は黒いドラゴンの鱗のようなもので覆われている。

 ところどころトライバル模様のようなものが浮かんでいる、上半身のむき出しになった肌もどす黒い。

 人なら白目の部分も真っ黒、頭には二本ツノが生え、髪は逆立ち、背中にコウモリのような羽もある。まさに魔人だ。

 両手の爪は二十センチ以上の長さで、ダガーのように鋭い。これで触れられたら、それだけで真っ二つにされそうだ。


「グガァッ!!」

 魔人は叫びながらその手をトーヤに振り下ろす。トーヤは錫杖で受ける。

 いや、正確に言えば魔法で防御したのだ。錫杖と相手の手の間には、ブウンと丸い魔法陣が浮かんだ。

「うっ……くっ……」

 ギリギリと相手の爪が迫り、トーヤの顔に汗が浮かぶ。相手とは明らかに体格差があり、力勝負ではかないそうにない。

 フッと魔法陣が消えた。しかしこれはトーヤの作戦だ。

 力ずくで突破しようとしていた障害物が急に消えたために魔人はつんのめり、体勢を崩した。

 もたれかかってきた相手につられるように倒れながらも、ハアッと気合いを入れながら、トーヤは右足で相手の腹部を蹴飛ばした。

 その足にも現れる魔法陣。魔力をこめたキックだ。

 魔人はウガッと声をあげながら、およそ五メートルは跳ね飛ばされ、民家の壁に突っ込んだ。

 ガラガラと壊れる外壁。ようやく相手との間に距離ができた。


「マシュー・クロムハート!!」

 瓦礫をはね除けながら立ち上がり、再び向かってくる相手に対し、トーヤは叫んだ。

「俺は今日こそアンタを倒し、過去と決別する!!」

 手にした錫杖をくるくると振り回した後、相手に向け、構える。

七星の聖杖アストラル・ロッド!!」

 トーヤの足下に大きな魔法陣が出現した。

 その背後に、ぼやっと、矢をつがえた厳つい表情の、荒ぶる男神のイメージが浮かぶ。

 円形の飾りの先端には炎が生じ、ゴォォ…と音を立てながら、大きな火球になっていく。

「トオォォォヤァアアアアアアァァ!!」

 魔人の方も両手で胸の前に形を作ると、パリパリという音とともに、ブラックホールのようなエネルギー球が形作られていく。

 火球とブラックホール。二つの魔力の弾は臨界に達した。

軍神の火矢マーズ・バーニング!!」

 背後の、幻影の男神の矢が放たれると同時に、巨大な火球が発射される。

「グガア゛アアアアァ!!」

 叫びながら、魔人もエネルギー球を打ち出す。

 炎の光弾と黒い光弾は、互いの中間点で衝突し、すさまじい轟音を立てた。

 激しい爆風が互いを襲う。くっと声をあげ、じりっと思わず後ずさりするトーヤ。

 発射された魔力の弾は、中間地点で押し合いになっている。ここからはどちらの魔力が上なのか。

「は…ああああっ!」

 長い戦いで疲労の極みに達しながらも、トーヤは最後の力を振り絞って錫杖に魔力を込め、自分の火球を押す。

「うがああああっ!」

 それは相手も同様だ。黒い光弾で相手を押し潰そうと力を込める。

 だが、次第に、トーヤの炎魔法、軍神の火矢マーズ・バーニングの方が、押し気味になっていく。

「ぐっ……ガッ……あ゛……」

 なんとか押し返そうとしている魔人。しかし、相手の火球が、じりっ、じりっと自らの方に迫ってくる。

 魔人の顔に、焦りが浮かび始める。

「うおおおおおッ!!」

 トドメとばかりに、トーヤがありったけの魔力を錫杖に込めた。

 火球は黒い光弾を消し去り直進すると、一瞬にして魔人を包み込み、大きな音をたてた。

 ぎゃああっ!! とあがる悲鳴。

 魔人の黒い体が燃え上がっていく。

「ト……トーヤァァ! き、貴様のせいで、ぎざまのぜいで俺は…俺はぁぁぁぁ!!」

 それが、炭と化して消えていく魔人の最後の言葉だった。

 最後にその目に映ったのは、勝利者トーヤの顔だった。

 トーヤの瞳に浮かんでいるのは、明らかに、侮蔑の色――

(何だよその目は……き、貴様なんぞが、お、俺をそんな目で見るなああ……! ちくしょう! ふざける……なああ……)

 体がボロボロと崩れていくにつれ、魔人の意識も、途絶えていく。


  ◇◇◇


 この魔人、人間だった頃の名前は、マシュー・クロムハート。

 彼はその昔、勇者だった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る