失くしものは何ですか?

@ishikawa0330

第1話

 忘れ町。私たちが住む町はそう呼ばれていた。そう呼ばれる理由は、黒いチューリップが咲く土地だからだそうだ。本来なら、自然には咲かない黒いチューリップだけど、私たちの町では何故か咲いている。

 黒いチューリップ。花言葉は「忘れて」。この花がたくさん咲いているせいなのか、この町の住民たちは忘れっぽい傾向があり、失くしたものさえも気づけば忘れてしまう。

 そんな、忘れん坊な私たちのためにいるのが、藤田さん。

 藤田さんは、私たちが失くしたものを教えてくれるスーパーヒーローだ。


 この前も、向かいのおばさんの失くしものを教えてあげていた。

「あれなんだよ。細くて、丸くて、とても大切なものなんだよ。あれがないと、大事なことは何にもできないからね…。なんだっけかなぁ。」

 こんな感じでおばさんは藤田さんに話しかけていた。

「おばちゃん、それはきっと印鑑じゃないかな?印鑑はとても大事なものなんだから、忘れたらダメじゃないか。早く探さないと。」

 藤田さんはいつもこうやって失くしたものを思い出させてくれる。

 子供たちが横を通るたびに、宿題のことを気にかけてくれるし、夜には火の消し忘れを防ぐために「火の用心」と叫びながら町を巡回している。そのおかげで町は安全で、忘れん坊の住民たちも安心して生活できているのだ。


 今日は何かを失くしたような気分がしたので、藤田さんに会いに行く日だ。

 私の周りには今日も黒いチューリップが咲いている。

 あれ、そういえば藤田さんって誰だったけ。


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