★新しい家
ルナリアは、真新しい白いワンピースに薄桃色のカーディガンを羽織って、病院の外に立っていた。外には、白とピンクの可憐な花束を抱えたレオンが待っていた。
「退院おめでとう。はい、これは君にプレゼントだ」
ルナリアは初めてのプレゼントに戸惑いながらも、顔を赤くして受け取った。甘くて爽やかな花の香りがふわりと顔の前に広がる。
「ありがとう。こんな綺麗な花、はじめてです」
「そうなんだ。その花の名前、何だと思う?」
レオンの質問に、ルナリアはわからないと首をかしげた。レオンは、照れたように頭をかきながら答えを教えた。
「その花はね、君の名前と同じ、ルナリアという地球の花なんだ」
「私と同じ花?」
きょとんと花を見つめるルナリア。レオンは慣れないかっこつけに少し恥ずかしくなった。彼女が少しでも元気になるようにと、地球の花を調べて見つけたのだが、他の花も添えれば良かったかなと思い始める。
そのレオンの心配を打ち消すようにルナリアは頬を緩め、
「ありがとう」
と満面の笑みをレオンに向けた。彼女の笑顔にレオンはよかったと嬉しくなった。一安心したレオンは、宇宙船車の乗降口を開けて、ルナリアを助手席へ案内する。
「さあ、立ち話も何だし乗りなよ」
「お邪魔します」
ルナリアは花束を大事そうに抱えると、遠慮がちに乗り込んだ。レオンが運転席に座り、キャノピーで閉まった空間に落ち着かない様子で縮こまるよう座っていた。
少し打ち解けてきたと言っても、よく知らない人と二人きりの空間は緊張するのだろう。レオンはなんとか気持ちをほぐしてもらおうと話しかけた。
「これから、君が過ごす家に案内するよ」
「家?」
「うん、仮だけどね。君は今自由の身だけど、まだ事件の関係で、宇宙警察の保護下にあるんだ。その間は、そこで暮らしてもらうしかないんだけど、いいかな?」
ルナリアはレオンの話に顔を暗くした。
「施設ですか?」
「それが君は特別待遇で、一人暮らしなんだ」
児童施設にすべて断られたため、彼女が一人で暮らせる場所を探す苦労があったが、レオンはそれを悟られないように明るく言った。どうして施設じゃないのか理由を聞かれたらどうしようかと内心焦りながら。
「一人暮らし? 本当に?」
ルナリアは顔を上げてレオンを見つめた。信じられないと言った顔をしていたが、同時にどこか嬉しそうにも見えた。
「本当、本当。俺の寮からもそんなに離れていないし、何かあったらすぐに相談に乗るよ。いつでも署で待ってるから」
「はい、わかりました。えへへ、どんな家に住むんだろう。大きい窓があるといいなあ」
ルナリアは元気を取り戻すと縮こまった姿勢を正した。彼女はどんな家に住めるのか、楽しみな気持ちを正直に話し始めた。レオンはそれを静かに聞いた。
宇宙船車は空を駆け抜け、住宅街に入った。広く広大な土地に、小さな家が大きく距離を取って贅沢に立っていた。家のサイズよりも、庭が土地を占めており、植物や置物、謎のオブジェなど住民の個性を表すように飾り付けられている。
その中のひとつ、白くて四角いシンプルな家に、宇宙船車は降り立った。レオンはキャノピーを開けて、ルナリアに手を差し伸べた。
「さあ、ここが君の新しい家だ。中を案内するよ」
「あ……よろしくお願いします」
ルナリアはレオンの手を握って、宇宙船車から降りた。彼女は花束を大事そうに抱えながら、レオンの後ろ姿を目に歩いた。
「ほら、家に入ってごらん」
レオンは後ろに隠れるルナリアをドアの前に案内した。彼女はおどおどと、どうすればいいのかわからない様子で、レオンの顔を見た。
「え、でも鍵がない」
そう彼女が言った時だった。ドアの上から緑色の光線が放たれ、彼女の体を分析しだした。
「え、何?」
「鍵は君自信だよ」
レオンは、初々しい彼女の様子に懐かしさを覚えた。自分がはじめて地球を飛び出し、他の星の進んだ技術に驚き、戸惑いの日々で過ごしたことを思い出す。今でも、驚くことは多々あるが。
<おかえりなさい>
機械の声に合わせて、ドアが勝手に開き、ルナリアを迎え入れた。彼女は恐る恐る玄関に足を踏み入れた。物も何もない真っ白な空間が広がっている。彼女はその光景にぽかんとした。
「ここが私の家。……何にも無い」
戸惑いの隠せない表情でルナリアはレオンの方に振り返った。レオンはふつふつと笑いが込み上がってきて、とうとう噴き出してしまった。
「ふっははは!」
急に笑いだしたレオンにますますルナリアは戸惑った。
「ごめん、ごめん。急に笑ったりして。君が俺の時と同じ反応だったからさ。じゃあ、部屋の説明をするよ。ここにモニターがあるだろ。これで部屋の間取りとキッチンやトイレなどの設備を設定するんだ。あとは家が自動で配置してくれるよ。ちなみにこのモニターの配置も変更できる」
レオンはドアのすぐ横の壁に埋め込まれているモニターをルナリアの目線の高さに設定した。
「おすすめ設定にしてもいいし、家に話しかけて相談して決めてもいい。君の好きなようにするといいよ。あと、ここは地上が住宅地で、地下に公共施設やお店があるんだ。好きに出入りしても大丈夫だよ。でも無駄遣いしないように、配布された資金はそんなに多くないからね」
レオンの注意に、ルナリアは片手を押さえた。
「はい、大事に使います」
「よろしい。じゃあ、俺はもう行くよ。この家の中ならセキュリティは問題ないけど、外はそうじゃない。暗くなる前に帰るようにね」
「はい、約束します」
ルナリアの真面目な表情に、彼女なら大丈夫だとレオンは安心した。
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