★地球

 青く輝く星には、緑の大地が広がっていた。木々が茂り、草原をうさぎが走り抜ける。空は小鳥たちの世界だ。その世界は透明なバリアで守られていた。


「ねえ、アレがうさぎなの?」


 小さな女の子がバリアの先のうさぎを指さした。


「そうかもね……」


 小さな女の子と手をつなぐ母親らしき女性は、バリアの先を生気のない目で見つめていた。


「もう、帰りましょう」


 母親は女の子の手を引いた。女の子は名残惜しそうにうさぎに手を振ると、母親の腕にしがみついた。




 地球の空に一筋の光が走った。流れた先には宇宙船車が飛行している。レオンたちの乗る宇宙船車だ。


 追手をなんとか撒いた後、無事地球にたどり着いた。近くのアミューズメント施設に宇宙船車を駐める。


「ここが地球だよ」


 レオンは疲れた体を背もたれにもたせながら銀河姫に教えた。銀河姫は落ち着かない様子で車内から外を見わたした。アミューズメント施設のギラギラした装飾に興味を持っているようだ。


「ここがあなたの故郷? すごくギラギラしているのね」


「こんなにギラギラしているのはここだけだよ」


 レオンは苦笑いしながらキャノピーを開けた。よく体になじむ空気が肺に入り込む。地球に帰ってきたのは何年ぶりだろう。宇宙警察になってから帰ってなかった。帰りたいとも思わなかった。レオンは吸った息を吐いた。


 レオンが感傷にふけっていると、急に視界が遮られた。頭に重い何かがかぶさっている。それを取ると、ごつごつとした岩肌のかぶり物だった。見覚えのある色と形。岩石星人のかぶり物だ。レオンは投げ渡してきたシャドウにこれは何だと目で訴える。


「花星人の格好はもう使えないからな、これで正体を隠しな」


 シャドウはもう一つのかぶり物を銀河姫に投げ渡した。見た目より重い岩石星人のかぶり物を銀河姫は必死に掴んだ。


「こんどはこれを着るの?」


 銀河姫はかぶり物を広げて言った。花星人のかぶり物を着ているとばれそうな発言にレオンは焦った。シャドウの肩を掴むと無理矢理宇宙船車から下ろした。


「あわわわ。女の子が着替えるんだから、俺たちは出るぞ!」


「何だよ、慌てて。ただ上から被るだけだろ!」


 文句を言うシャドウを無視して、レオンは銀河姫から離れた。横でシャドウがウブな奴とからかっていたが、聞かなかったことにした。


「見てみてどう?」


 着替え終わった銀河姫がひょっこりと顔を出した。見た目はレオンの上司と同じ岩石星人。でも中身が銀河姫だと思うとかわいく思えて仕方がない。


「うん、かわいいよ」


 そんなことを口走ってしまった。レオンの褒め言葉に銀河姫も照れたように指をくるくると回した。


 そんな二人の様子を見ていたシャドウは、「なんだ、こいつら」と醒めた様子で見守った。


 レオンの姿も目立つため、岩石星人の格好になった。二人並んだ岩石星人をシャドウはお似合いだと写真を撮りだした。銀河姫もノリノリでポーズを決める。


「ほら、地球の紹介をするよ。行こう」


 隣でピースサインをする銀河姫に手を差し伸べた。


「ええ、行きましょう」


 銀河姫は楽しそうにレオンの手を握った。レオンは写真の確認をしているシャドウに、一緒に行くのかと聞くと、シャドウは手をひらひらと振って遠慮した。甘々のお前たちの間に入れるほど、図々しくはないと言う。

 シャドウは、ここの施設は金稼ぎにちょうどいいんだと、アミューズメント施設に入っていく。


 レオンと銀河姫は手をつないだまま、歩き出した。


 地球には地球人だけでなく、あらゆる異星人が訪れている。そのような光景は他の星でも珍しくない。ただ、楽しそうにしている宇宙人と対照的にうつろな目をしている地球人の姿は、他の星では見られない異様な光景だ。幽霊のようにふらふらと地球人は当てもなく歩いていた。

 その異様な光景に銀河姫も気が付いたのだろう。通り過ぎる地球人を目で追い、レオンと見比べていた。


「死んだような目をした地球人が気になる?」


「え? あ、ごめんなさい、つい」


 レオンの問いかけに銀河姫は驚いて顔を上げた。彼女は自分が失礼なことをしたと思い謝った。レオンの故郷を見下しているようにみえたのかもしれない。そうではなく、ただ単純に星の先住民が暗い表情なのが気になっただけだった。


 あわあわとしている銀河姫をレオンは優しく声をかけた。


「気にしなくていいよ。君の気持ちは正しいよ」


 レオンは過去のことを思い出した。子どもの頃から地球人は他の宇宙人に敵わない存在だと言われ続けていたこと。そのことを口にする周りの人たちの目は暗く沈んでいたことを。地球人は夢を見ることを諦めていた。でもレオンは違った。レオンがそうならなかったのは父のおかげだ。地球人でありながら、宇宙の平和を守りに旅立った父を希望に生きてきた。


 銀河姫は気まずそうにしている。せっかく地球に来たのにこのままでは、彼女の思い出にならない。レオンは明るい声で彼女に言った。


「そんなことより、君に見てほしいものがあるんだ。地球の景色をたくさん見よう!」


 レオンは彼女を連れて駆けだした。

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