★お尋ね者だらけ
広大な駐車場の片隅で、レオンは嫌な汗を流した。シャドウも犯罪者の一人だった。お尋ね者のレオンを狙っていてもおかしくなかった。あまりにもフレンドリーに話しかけてくるので、そのことを失念していた。
シャドウはレオンの顔写真と懸賞金の書かれた画像を見せてきた。ふふふと不気味に笑っている。レオンは生唾を呑み込んだ。自分に何をする気なのか。
わははとシャドウが愉快に笑い出し、もう一つのホログラムを映し出した。今度はシャドウの指名手配の画像だ。シャドウはレオンの肩をバシバシと叩いた。
「残念だったな!」
「な、何が」
シャドウが何を考えているのかわからず、レオンは戸惑った。シャドウはレオンの画像と自分の画像を見比べると、得意げに鼻息を漏らした。
「懸賞金の額はまだまだだな。お尋ね者の後輩君」
「はあああ?」
シャドウの言葉にレオンは思わず変な声を出してしまった。ただのマウントを取りに来ただけとは。
ともあれ、レオンを捕まえようと言う気はないらしい。すこしほっとしたところに、レオンの横を大きな花が視界を横切った。
「あ!」
レオンが止める前にその花はシャドウとレオンの間に立つ。根を大きく広げて盾のようになる。花星人のかぶり物を来た銀河姫だ。
「マスクをつけた誰かさん! 彼に一体に何をする気なの!」
遠くでレオンとシャドウのやりとりを見ていた銀河姫は、しびれを切らして飛び出してきたのだ。
シャドウは急に現れた花星人をじろじろと観察しだした。シャドウからもらった花星人のかぶり物だ。偽物だとわかり、中に誰かが入っているとわかるだろう。それが銀河姫だとばれたらレオンは心配で気が落ち着かなかった。
観察し終わると、シャドウは手をぽんと打った。
「ほほん。お前、花星人を口説いたのか。やるねー」
からかうようにレオンと銀河姫の前で、「花星人に恋する地球人」と軽く歌い歌い出す。
レオンは銀河姫だとばれていないことにほっとした。かぶり物だと気がつかないシャドウを抜けている奴だと思った。
歌い終わったシャドウはレオンと銀河姫を交互に見ながら顎に手をやり、デバイスで遊びだした。何度か上に飛ばしたあと、ぎゅっとデバイスを握った。
「そういえばその花星人もお尋ね者のおまけリストに入っていたな。ここにいる奴ら全員お尋ね者だな」
握った拳のまま、グータッチしたそうに腕を伸ばした。
「俺らは裏社会の非公式だ。公式のお前とは別だよ」
レオンは手の甲で伸ばされた腕を払った。シャドウはしぶしぶと腕を引っ込める。
「まあまあ」
シャドウはデバイスをしまうと、しゃがみ込んだ。宇宙船車の核融合装置を元の位置に戻すと、道具を片付けはじめる。そしてそのまま道具をトランクの中に放り込んだ。
そしてキャノピーを勝手に開けた。
「じゃ、さっさとこの星からでようぜ。運転手さん、運転をお願いします」
「え、お前も乗るのか?」
「お尋ね者仲間だろ? いいじゃないか」
そういって、シャドウは助手席に乗り込もうとした。しかし、背後から銀河姫がシャドウを押さえ込み、助手席を奪った。
「この席は譲らないんだから!」
勝ち誇ったように、銀河姫が言った。
「なんだ、この花星人」
シャドウは席を取られて驚きつつも、荷物であふれた後部座席に移動する。
この先のドライブは穏やかじゃなさそうだと思いながら、レオンは運転席に乗り込んだ。
しかし、このお尋ね者メンバーでいったいどこに行くのがいいのか。車内のモニターをいじりながら、眉間にしわを寄せた。その顔を隣で見ていた銀河姫はレオンの腕をつんつんとつついた。
「どうしたの、銀河姫?」
銀河姫がなにか言いたそうにしているので、モニターから手を離した。銀河姫は根を弄りながら話し出した。
「あのね。銀河の果てに行く前に。あなたの故郷の星をみたいの。それだけ見たら、もうわがままは言わない。銀河の果てに行くから」
「俺の故郷? 地球に行きたいの?」
こくりと銀河姫は頷いた。世界のことを知りたいといっていた彼女が、レオンの故郷に興味をもっている。レオンのことを知りたがっている。彼女の気持ちにレオンは胸がドキドキしていた。しかし、そのドキドキを邪魔されることになった。
後部座席でふんぞり返っていたシャドウが、顔を座席の間から出してきたのだ。
「地球か、いいね。行こうじゃないか」
身を乗り出して勝手にモニターを操作し、目的地を地球に設定する。勝手に触るなとレオンが口を開く前にシャドウはレオンの頭をがっしりと掴んだ。無理矢理顔を窓の外に向けられる。
「はやく駐車場から出ないと、お尋ね者ファンクラブに追いつかれるぞ」
そう言って窓の外を指さした。
車の影からこちらをうかがっている不審な影が見えた。それも一人ではない。少し視線をずらせば、別の場所にも怪しい人影がちらちら見える。全員がレオンたちの様子をうかがっている。お尋ね者のレオンを狙っているのだ。
レオンは一気にアクセルを踏むと、宇宙船車を急上昇させた。様子をうかがっていた人影も、乗り物に乗り込みだす。
「もっと早く言ってくれ!」
後部座席に向かってレオンは嘆きの声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます