★カビ星人を追え

 レオンとシャドウは星を飛び出した。レオンはなんとか姿勢を取り戻し、助手席に座る。運転席のシャドウに呼びかけた。


「おい、シャドウどこに行くつもりだ」

「さっきからなぜ私をシャドウと呼ぶんだ? 誰かと間違えているのか?」

「警察内でお前のことをシャドウと呼んでいるんだ。どうせ名乗る気もないだろう?」


 レオンは指名手配の画像を見せた。


「シャドウか。ふーん、いい名前じゃないか気に入ったよ」


 シャドウはご機嫌な様子で鼻歌を歌い始める。レオンの宇宙船車を手動で操縦しながらレーダーを見た。レーダーには赤く点滅するものが一つと、それを囲むように並ぶ何個もの緑の点滅があった。


「おっと、この先はまずいな」


 シャドウの言葉にレオンはズーム機能で遠くを確認した。真っ黒に覆われた輸送船とそれを囲む宇宙警察の宇宙船が見える。ここは上司たちが向かった事件現場だ。


「カビ星人だ! おいシャドウ、あそこに向かってくれ!」

「警察のところに行けだと? 冗談言うなよ」


 シャドウはハンドルの向きを変える。レオンはハンドルに手を伸ばして向きを戻した。


「おい! 横から何をする! 危ないだろう!」

「俺も現場に行くんだ! 席を替われ!」


 レオンとシャドウがハンドルの取り合いをしていると、モニターに上司の顔が映った。


「あ、ガン警部補!」


 レオンが叫ぶと同時に「やべえ」とシャドウが身をかがめる。


「レオンか? ん? なんで運転席に座っていないんだ。いくら自動運転だからと助手席でくつろぐな!」

「すみません! すみません!」


 レオンは身を乗り出して運転席のカメラに顔を写す。


「そんなことより、お前! なんでここにいるんだ。仕事はどうした? 終わったのか!」

「はい! 不正貨幣の取引はありませんでした! それと重要なお知らせがありま……」

「あ! カビ星人が動いた! お前のせいだ、くそ!」


 ガン警部補からの通信は切れた。シャドウは体を戻すと、背もたれに体を預ける。


「ふー、ばれるかと思ったぜ。あ、お前私のことをばらそうとしたな」

「当たり前だろう。俺は警察だ。当然のことだ」

「なんだよ。あの無法地帯の星から助けてやったのに」


 シャドウは肩をすくめてハンドルを握る。


「追い出そうとしたくせによく言うね」


 レオンはハンドルをがっちりと握った。二人でにらみ合っていると、突然警報音が鳴り響いた。


『警告! 警告! 前方から輸送船が接近中。五秒後に衝突します。自動運転の制御が奪われています。今すぐ回避行動を取ってください』

「何だって?」


 自動運転の制御を奪ったのはシャドウだろう。信じられなかった。宇宙船車をハッキングするとは。シャドウは一体何者なんだ。


「ハンドルを離せ!」


 シャドウに手を叩かれて、慌てて手を離す。しかし、車体のスピードを上げるが遅かった。超高速で迫ってくる黒い輸送船が宇宙船車の後部に当たってしまったのだ。車体全体に衝撃がはしり、回転する。いくら三半規管を鍛えたといっても高速でスピンするため頭がくらくらした。くるくると回転しながら宇宙船車は緑豊かな星に輸送船とともに墜落した。


 宇宙船車の強度は高く、衝撃吸収機能もついている。それでも体に受けた衝撃はすさまじい。痛みですぐには動けなかった。骨は折れていない。なんとか破壊された後部から這い出る。地面にフエルソン鉱石が転がっているのが見えた。掴もうと手を伸ばすも、先に拾われてしまった。拾ったのはカビ星人だ。彼はそのまま逃げ出した。レオンが追いかけようと体を起こそうとしたとき、頭を勢いよく押さえられた。


「ああ、また盗まれた。それは私のだぞ! 返せ!」


 シャドウはレオンの頭を手で押さえつけて身を起こし、そのままカビ星人を追いかけた。レオンも慌てて起き上がり、その後ろをついて行った。


 日光浴中の花星人をかき分けてカビ星人は逃げていく。カビ星人は体が変形できる。細い隙間に入り込まれ、追跡不能となってしまった。レオンは逃げ込まれた隙間の壁を悔しがって叩いた。


「逃がした。はやく探さないと」


 レオンはガン警部補の言葉を思い出した。「お前にはまだ早い」と。地球人の自分が活躍することはできないのかと悔しくなる。


「私らは顔を見られている。ほら、これを着ろ」


 シャドウがレオンの肩を叩くと、妙なものを手渡してきた。べろんとした皮のようなもの。広げてみると、頭の先にお花、髪の部分は葉でできており、体はもさもさと根のようになっていた。この星の住人、花星人の姿だ。


「これは花星人! シャドウ、まさかお前皮を剥いだのか!?」


 レオンがドン引きすると、シャドウは呆れたように答えた。


「そんな訳あるかよ。これは変装用の皮だよ。DNAデータさえあれば、人工細胞で簡単に作れる」


 シャドウは作業着の上から皮を被った。その姿は花星人そのもの。頭と胴体のつなぎ目に少し違和感を覚えるぐらいで他は完璧だ。レオンも花星人に変装すると、シャドウと手分けしてカビ星人を探しに行った。


「カビ星人を見ませんでしたか?」

「腐った大木に向かっていったわ」


 レオンは住民の花星人に聞き込みをしていき、カビ星人の居場所を突き止めた。

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