第78話 クリスマス当日
クリスマス、それは老若男女が色めき立つ一年最後のビッグイベント。
街のどこもかしこもイルミネーションで彩られ、若い男女はピンク色のイルミネーションを見境なく振り撒いていく。
相方のいない男女は黒き漆黒の闇に呑まれ、七大罪の権化と化すのだ。
毎年この日を憎む者もいれば、楽しみにしている者もいる。
しかし俺にとって性なる祝日などどうでも良い事であり、生まれてこのかた彼女がいないのも悔やんだ事はない。
いつも通りなら24日と25日はダンジョンに籠って、素材集めやら高難易度攻略などに勤しむ所なのだが……。
「ねねねねねねね! コノミはどっちが好み? なんちゃって!」
今年はどうやらそうもいかないようで、俺は24日の朝から祈に連れ出されていた。
連れてこられたのは上野。
「俺は右かなあ」
朝から駅前の喫茶店でモーニングを食べ、俺を連れ出した理由を聞いた。
何でも祈の男友達にクリスマスプレゼントをあげたいのだが、男の趣味が分からないから俺に選ぶのを手伝って欲しいそうだ。
今は喫茶店近くの露店街に来ており、そこで祈がアクセサリーを物色している。
「右かぁ……そうかぁ……んー、でも何かイメージと違うんだよねぇ」
「そ、そうか……」
というやり取りを、はや十回は繰り返していた。
しかし祈に男友達か……いや、いるだろう普通、異性の友達くらい。
まぁ俺には異性の友達はいなかったが……。
俺が祈と出会ってまだ一年も経っていない。
お互いのプライベートは不干渉だし、交友関係の話もあまりしない。
ビジネスパートナーのようなものだしな、この関係は一体いつまで続くのだろうか。
自分が言い出した事ではあるけれど、まさかここまでの関係になるとは思っていなかった。
「んふふふ」
「楽しそうだな」
「そりゃそうだよ! だってクリスマスだよ? プレゼントの一つや二つ送ってなんぼよ! 選ぶのも楽しいしねぇ」
「そういうもんか……」
「そういうもんなのですよ」
露店街を物色し始めてから、既に数時間が経過しているが、祈は何も購入する気配が無くあっちの店こっちの店と渡り鳥のように飛び回っていた。
男友達……気になる。
友達なだけで、他にどうという関係は無いのかもしれない。
だが待てよ? クリスマスプレゼントを渡そうと考えるほどの距離感という事じゃないのか?
まさか祈が気になっている男なのか?
男と女に友情は無いと、よくネットに書いてある。
クリスマスというのは男女の距離がぐぐっと近付き、友達同士のようなカップルも誕生するという記事も見た記憶がある。
プレゼントを吟味している祈の横顔を、気付かれぬようにチラリと見る。
瞳はキラキラと輝き、口角は常に上がりっぱなしでアレじゃないこれじゃないと呟いている。
果たしてただの友達へのプレゼントを選ぶだけで、こんなにも幸せそうな顔をするだろうか?
「な、なぁ祈。そのプレゼントをあげる相手ってのは、その、特別仲良いって感じなのか?」
「へ? んー……うん! そんな感じだよ!」
ちょっと悩んだ感じはあったが、きっぱりと言い切った祈の顔は満面の笑みが浮かんでおり、キラキラと眩しいくらいに輝いていた。
「ほ、ほぉー……祈にそんな友達がいたとは知らなかったな」
戸惑う心を悟られないよう、冷静さを保ちつつ言った。
しかしその言葉がよろしくなかった。
「えへ……うん。出会ってからずうっとお世話になってる人でね。押しかけたような形なのに親身になってくれて、私の大好きなお友達なんだ! 今はまだ、ね」
何故か頬を真っ赤にしながら、俺の瞳をまっすぐ見つめてくる祈。
その視線は反則だろう。
Sが三つは付く美少女のそんな表情は、精神衛生上よろしくない。
がっちりと視線が合った俺の鼓動は途端にペースをあげ、一気に最高速まで達したのだった。
「……チッ」「何だよアレ」「見せつけてんじゃねぇよ」
ごった返す人混みの中から、そんな声が聞こえたような気がした。
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