第69話 影響力の実感

「だそうだよ? ジャッジメント君」


「うるせぇ。俺だってこんな事になるなんて思ってねぇよ」


 俺と隼人はパソコンの前に陣取り、ダンジョン系の掲示板を眺めていた。

 モニターには俺についてのあれこれが、それはもう沢山のスレッドとして立っていた。


 スレ内ではもっと発言力を考えろだの、経済効果凄いだの、祈達をコーチングで厨二患者に洗脳してるとか、言いたい放題言っている。

 先日、息抜きに秋葉原まで出かけた際、街中のダンジョン系リサイクルショップに人だかりが出来ていた。


 中には【あのジャッジメント氏推奨、中古装備特化セール!】とか書いてあるポップも見かけた。

 別に推奨してないし、可能性の一つと伝えたつもりなのだが、うまい事宣伝に利用されてしまったらしい。


 そこで俺が本人として登場して異議を唱えたらどうなるか、いくら馬鹿な俺でもわかる。

 なので知らないふりをして通り過ぎたのだが、怪しげな中古アクセサリーを売っている露店にすら人が集まっていた。


 さすがにここまでの光景を見てしまえば、俺の発言でこうなってしまった事は明白だ。

 隼人の話ではネットオークションなどが荒れており、中古装備を高値で転売する輩も多くいるそうだった。


 堂洞との対話から数日しか経っていないのにこれである。

 

「これからは発言に慎重になる事だね」


「そうみたいだな……はぁ、面倒くさい」


「今や君のチャンネルは超大手にすら匹敵する登録数なんだ。君が冗談で嘘の情報をリークしたとすれば、それを鵜呑みにして真実だと思い込む人達だって出てくる」


「んな事あるか?」


「あるさ。若い子から大人まで、何が真実で何が嘘かを見抜けない人は多いんだよ」


「……気を付ける」


「まぁ君が冗談でも嘘情報なんて流さないのは分かっているけどね、念の為さ」


「有名になるって面倒くさいんだな……ダンジョンでひっそりPK狩ってた頃が懐かしいぜ」


 俺は深く溜息を吐き、現状を大人しく受け入れた。

 有名になり、注目されるというのがこんなにも面倒くさく、厄介だとは欠片も思っていなかった。


 ラノベや漫画によくいる、鈍感系主人公のあの能天気さと無責任さは嫌いなタイプだったが、今はそれが羨ましいとすら思う。

 

「祈達はそれでも頑張ってんだもんな。尊敬するよ」


「そうだねぇ。若いみそらで誰にも頼らず、有名になればなるほど喜ぶあの子達を君も見習うといいさ」


「俺が気負い過ぎってだけかもしれないがな」


「それは8割あるねぇ。元々ビビりで嫌な事からはすぐ逃げてたし。おねしょした時も一緒に寝てた愛波ちゃんのせいにしてたし」


「貴様ぁ! それを言うなぁ!」


「わざわざ水を愛波ちゃんの――」


「それ以上は言うなぁ! 何の関係もない話だろぉあ!」


 唐突に俺の忌まわしい過去を面白そうに語り出した隼人の口を塞ぎ、祈達に聞かれていないかと焦る俺であった。

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