第30話 ダンジョン環境省
ダンジョンが発生し始めてから新たに設立された部署や省庁は多く、その中の一つであるダンジョン環境省。
ダンジョンの統計から発生地域、探索者に関しての諸々など業務は多岐に渡る。
「この男は何だ? なぜダンジョン内で銃を撃っている? 銃刀法違反じゃあないのか!」
会議室に映し出された男を見て、ダンジョン環境大臣である
「目下調査中ではありますが――彼はジャッジメントと呼ばれ、ネットではかなりの人気人物となっています。ネットでの推論によると彼の銃は恐らくジョブスフィアによってもたらされたと言われており、スキルやレベル、素顔や名前も未だ不明です」
職員の1人が調査書を読み上げるが、保科の顔は変わらなかった。
「何がジャッジメントだふざけおって! そんな物があるならなぜ国へ献上しない! あの銃があればより良い調査が進められるじゃあないか!」
「はい。ですので目下――」
「調査中なのはもう聞き飽きた! さっさとあのガキを連れて来い! 銃刀法違反でしょっぴけ! 警察は無能か!」
「――はい。かしこまりました」
職員は書類に目線を落とし、黙って作業を始めた。
他の職員も調査報告書を読んでは保科が怒号をあげる。
これが毎日繰り返されている会議の様子だった。
コノミが祈の動画に映りバズってしまった事で、ダンジョン環境省の目に留まってしまったのは事実だが、未だ彼の情報を得られずにいた。
それが保科には気にくわなかった。
ダンジョン内での銃火器使用、警察も軍も世界中の保安部隊も使用出来ずにいた武器。
人類の力の象徴たる銃が、誰でもなくあんな子供にのみ使用が許されるなど許されるわけがない。
保科はそう考え、苛立っていた。
あの子供をどうにかして見つけ、適当な理由を付けて拘束、そして銃を奪う。
そうすれば世界に先んじる事が出来る。
アメリカもイギリスも中国も、どの国も無しえなかった事を日本が成し遂げる。
その功績によって自分の地位もさらに向上する。
保科は脳内に描かれる理想と、それを妨げている無能な部下達に辟易していた。
「チッ……! 無能な探索者共め。所詮底辺の奴らなんだ、少しは国の為になる事をしろって」
会議を終えた保科は不機嫌な態度を隠そうともせずに、会議室から出て行った。
残された職員達は一様に溜息を吐き、ぐっと背を伸ばした。
「何が底辺で無能だよ。無能はお前だっつの」
「銃刀法違反とか言ってたけどさ? だったら探索者全員アウトじゃんね。剣とか槍とか持ってるんだからよ」
「わかる。ダンジョン発生前から官僚だったからな、機能が落ちた脳味噌じゃあ現状を理解しきれないんだろ」
「言えてる。今じゃダンジョンで世界が回ってるし、なんなら探索者がいるからここまで経済も回復したまであるのに」
「噂じゃスキルとか魔法とか、そういうのも信じてないみたいだぜ?」
「さすがにそれは嘘だろ?」
「だといいんだけどな。さっきのだってどうせCGかトリックだって思ってんだろうさ」
「は~マジかよ。さっさと誰か変わってくれないかな? もっと柔軟な思考で現状をしっかり理解してる奴」
「それを言ったら結構な人が候補にあがるって」
「違いない! あっはっは!」
古き鬼が去った会議室には先ほどとは打って変わって明るい朗らかな笑い声が響いたのだった。
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