第29話 DBB

「あっはっはっは! 君ヤルねぇ!」


「笑うな! お前もあのキラッキラの目で見詰められてみろ! 絶対に断れない!」


 後日、俺は隼人の研究室ラボに寄り、昨日の顛末を話した。


「いやいや、笑ったのはそこじゃあないよワトソン君」


「誰が助手だ誰が」


「大人気アイドル不動のセンターを助け、そして今度はそのアイドル達のコーチングと来たもんだ。来たねぇ、春ってぇやつがよぅ」


 そう言って隼人はわざとらしく鼻をすすった。

 

「春ってなんだよ。そんなんじゃないからな? コーチと生徒、それだけだ」


「どーだかねぇ? オンナノコって生物はどうも理解しがたい部分があるから」


「ふん、天才でも分からない事があるんだな?」


「あ、それ嫌味だろ」


「皮肉だ」


「まーいいや。それでさ、僕も一枚噛ませてくれよ」


「どういうことだ?」


「ほら、今まではコノミンに色々と手伝ってもらってたわけじゃん? そこをさ、僕があの子達のスポンサーになるから――」


「なるほど。あの三人を使って金を稼ごうって事か」


「違う違う。あ、いや違くもないかな? 僕が作った試作品をコノミンが試す、そしていい感じに出来上がったらあの子達に使ってもらう。そうすればきっと今よりも売り上げは上がるし、あの子達の成長にもつながると思うんだよねぇ」


「広告塔か……分かった、聞いてみよう」


「助かるよ、コーチ」


「くっくっく、我らの術中にはまったが最後、決して最後まで逃げられはしないのだ! フゥーッハッハッハ!」


「最後までしっかり責任持つんですね分かります」


「……うっせ」


 そしてその後、佐藤さんと通話をして詳細を話した。

 すると以外にもすんなりOKが出た。

 

『私初めて広告のオファー受けちゃいました! 嬉しいです! 頑張ります!』


 と結構乗り気だったりする。

 だがまぁ、隼人が作る物に駄作は無いので信頼していいだろう。


 ビジネスパートナーである前に、俺はたった一人の幼馴染として隼人に絶対の信頼を置いている。


 今では唯一の心を許せる存在なのだ。


『ダンジョンという謎の構造物が世界に姿を現してから、世界は激変した。エーテルという未知の元素が世界を満たし、それの発生源が世界中のダンジョンであるという事も立証された。ダンジョン内ではエーテルが魔力の源となっているのは皆も知ってるよね? じゃあ何でこっちリアルサイドじゃあ使えないのかを説明していくよ』


 連続再生で垂れ流されるダンジョン関連の動画を、ぼーっと聞き流しながらほうじ茶をすする。

 世界がダンジョンから受ける恩恵は非常に大きい。


 なんせ未知の鉱物や素材がわんさか獲れる。

 しかもほぼ無尽蔵にだ。


 ダンジョンを神の思し召しだとか言っているバカげた新興宗教もあったりするし、この世界にはもうダンジョンの無い生活を送る事なんて出来やしない。


 ちなみにどうしてリアルサイドではダンジョンの力の恩恵――いわゆるスキルや魔法、レベルやステータスの事――が使えないのかと言うと。

 それは単純に世界に満ちているエーテル濃度が極端に低いからだ。


 ダンジョン内に満ちているエーテル濃度が1000だとすれば、リアルサイドでの濃度は1くらい。

 しかしそれが飛躍的に濃くなる場合がある。


 それがダンジョンボーダーブレイク、通称DBBだ。

 DBBが起きる原因は様々だが、DBBが起きるとそのダンジョンの周囲2キロ圏内はダンジョンと同じエーテル濃度になる。


 圏内であればスキルや魔法、スクロールやマジックアイテムなども使用可能になり、探索者の肉体もレベルに同期される。

 そして通常のモンスターは約1,5倍ほど強化され、続々とダンジョンから吐き出される。


 これをウェーブと呼び、通常は1~3ウェーブで収束する。

 各ウェーブの終わりにはフロアボスも登場し、かなりの激戦になる。


 仮にモンスターが圏外へ出てしまった場合は、自衛隊や警察、ダンジョン特別機動隊などが出張ってくる。


 圏外であれば銃火器の使用が解禁され、爆薬や迫撃砲にミサイルなども利用出来る。

 圏外に出てしまえばモンスターもかなり弱体化されるので、そういった方法でも殲滅が可能なのだ。


 このダンジョン内で銃火器が使えないというのは、エーテル濃度との関係性がもっぱら有力な意見だ。

 当たり前の話だが、世界各国でDBBは危険視されており、それの対応にミスがあった場合、その場所は地獄と化し、人の住める領域では無くなってしまう。


 DBBが発生した地域は、戦闘が激しければ激しいほど、その爪痕は深く再興にも時間がかかる。

 今や日本は耐震性プラス耐ダンジョン性も求められているのではないだろうか。

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