第15話 部屋と私と薄い壁

「はぁ~今日も収穫なしかぁ」


 私は家に帰り、疲れた体をベッドに投げ出した。

 ヴォイドさんに助けられたあの日から、私の生活は変わった。

 普段通りの生活をしようと心がけていても、心のどこかでヴォイドさんの事を考えてしまう。


 お気に入りの喫茶店に二人で行って、プリンアラモードをわけっこするの。

 あーんてして、ヴォイドさんのほっぺにはクリームがちょっと付いてるの。

 それを私が……私が……。


「きゃーー! ヴォイドさんったら駄目ですよぉお!」


 枕に顔を埋めて足をばたばたさせる。

 あまり大きな声を出しちゃうと、隣のお部屋の人に聞かれちゃうから気を付けないと。


「よし。動画編集しなきゃ」


 むくりと起き上がってふん、と気合を入れなおす。

 デスクトップパソコンの電源を入れ、動画編集ソフトを立ち上げた。

 中には私達平凡Dガールズの新曲と、新しいダンジョンで録画したライブ映像が入っている。


 結成して2年、長いようであっという間だった。

 最初は初級ダンジョンでおっかなびっくり動画撮影して、それを自分で編集してサイトにアップして。


 少しずつフォロワーさんが増えていって、私達がバズったのは3曲目のライブ映像だったっけ。


「懐かしいな」


 お気に入りのほうじ茶を飲んで口を潤し、お気に入りのみたらし団子を口に入れ、咀嚼してからさらにほうじ茶を口へ。

 みたらしの甘じょっぱさがたまらないし、その後に呑むほうじ茶も香ばしくて堪らない。


「はぁ……やっぱり上野にはいないのかな」


 あの日から私は時間を見つけては上野へ赴き、ヴォイドさんを探して回っていた。

 お気に入りのバッグの中には勿論、ヴォイドさんから借りたあのズボンが入っている。


 いつばったり道端で出会ってしまうかもしれない、その為には常日頃持ち歩いていなきゃね。

 そんな事を考えていたらスマホから着信音が流れてきた。


「誰……あぁ、翆か。はーいどしたのー?」


 平凡Dガールズ緑担当、田中翆。

 一番最後に入って来た16歳のふんわりした感じの女の子。

 ダンジョン探索中にたまたま出会って意気投合、即席でパーティを組んでみたら息も合う、これは運命的な何かの導き! と直感的に感じ取った私はその場でスカウト&交渉に入った。


 最初はしぶっていたけれど、その後無事加入。

 そういえば初めてバズったのも翆が入ってすぐの曲だな。

 私は双剣、翆ちゃんは槍、瑠璃ちゃんはソード&バックラー。

 ごりごりの近接戦特化だ。


 でも正直今のままではいけないと思っている。

 今は頑張れば中級の高難易度まで行けているけれど、ライブを撮るとなると安全マージンをとってランクを落とさざるを得ない。

 けど――。


「なんだろ、作業感というか、余裕すぎというか……」


 最初の頃の勢いというか、必死さというか、そういうのが薄れている気がしてならない。

 現に最近はそういう類のコメントも散見しているし、ワンパターンだと瑠璃や翆からも言われている。


 だからと言って無理をして死んでしまって、強烈なデスペナルティを喰らってしまっては元も子もない。


「はぁ……どーしよう」


 そろそろ中距離か遠距離担当のメンバーを加入させて、安全マージンを少し下げて――。

 と、うんうん唸っていた時の事。


「ンナァーーッハッハッハッハッハ!」


 という聞き覚えのある高笑いが聞こえた。

 あの偉そうで、けど自信に満ち溢れたあの笑い声。


 もう一度聞きたいと思ってやまなかったあの笑い声が聞こえたのだ。

 私は驚きのあまりビクっと体を硬直させ、ピンと伸びた足が壁にぶつかってしまった。


 どすん! と大きな音が鳴り、笑い声もピタリと止んでしまった。


「いったぁ~~……! って、まさか、いや……きっとヴォイドさんの動画を大音量で見てたんだ。きっとそう! あ、でも壁蹴っちゃって嫌な思いさせちゃったかな、謝らなきゃ……」


 きっとそうだ。

 散々探し回った思い人が、隣の住人さんのわけがない。

 もしそんな事があったなら、きっと私は――。



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