融合
水まんじゅう
序章(1)
「迎えに来たよ」
僕はそんな夢を見た。
僕は
そんな僕の、今の最推し作品は『正義の悪人』。この作品は、ざっくりと言えば…主人公が仲間と共に魔王を倒しに行くっていう…ゲームっぽい作品?なんだけど、これが面白いんだなぁ!一番面白いのは、
いやダメダメ。まだ最推し作品が終わってない。せめて終わってからにしよう。そうしよう。僕はやっとの思いで家の玄関の鍵を開け、布団にダイブした。ああヤバい。せめてシャワーを………。
その時、どこからかパキパキ、という変な音が聞こえた。僕の家には僕以外いない。僕はガバッと起き上がった。
「うにゃああああああああぁあぁぁぁぁああ!?」
幽霊だ、幽霊だ!絶対そういう系だ!そんな、僕に優しくしてくれる幽霊がいるのか!?こんなちっぽけな部屋に!?はぁ!?!?いや、ありがとう!!でも怖いよ!?
……世の文豪ならば、この気持ちもサラサラと美しく書いていたのだろう。僕は本を読むのも好きだけれど、彼らの描く気持ちは、情景は、本当に鮮明で透き通っていた。僕みたいに、ただ叫んで驚いている気持ちを表現するんじゃない。ただ、こうやって同じ気持ちを違う言葉で表せる文豪たちが少し羨ましかった。
さて、幽霊のおかげでなんとかシャワーを浴びることができた。その途中、ふと思ったんだ。最推し作品のこと。めっちゃ強い奴を登場させれば、誰も傷つかずにハッピーエンドになるのでは……?そしたらば、この暗い闇の底を彷徨する僕の気持ちも、少しばかり楽にはならないだろうか?
これだ。
そうだ、僕はいつもこうやって生き延びてきた。人間っていうのは実に単純で、やりたいことさえあれば生きる力で溢れる。今までの死にそうな気持ちも忘れて、オリキャラ制作に取り掛かった。頭では寝た方がいいことくらい分かりきっていた。それでもやめられなかった。僕の子供、僕の分身をあの作品の世界で生かすために。アホらしいと思うか?そうだよ、僕はアホだ。こうでもしなきゃ自分が生きてることすら気がつかないのだから。
まずは名前を考えちゃおう。オシャレな感じにしたいな、なんて考えて、うーんうーんと悩んでいる。よし、名前はこれで決定!性格は………好きなものは……嫌いなものは……身長と体重も決めなきゃ………そうだ、才も決めなきゃ。才にも名前がついている。そうだなあ、そうだなぁ……これまたオシャレにしたいなぁ………ちなみに、僕のセンスに期待している人がいたら、先に謝っておきます。僕はただの一般人だから、文豪ではないから、オシャレなものを目指しても、どうもそれらしくない。どこにでも存在してそうな、価値のなさそうなものになってしまう。ちょっと悔しいけど、でもそれが僕らしいとさえ思った。
そうやって自分一人で自分のことを甘くして笑っているうちに、彼女のデータも完成した。そして、寝落ちしてしまった。彼女のデータを打ち込んだスマホが光り輝いてそのまま消えないのも気が付かないまま。
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