第11話林檎の主従はお気の毒様

 その頃、ヴィクトル・ダルシアク皇帝の執務室では……。


「エドゥアール・ギュイ……!」


 地獄の釜の蓋を開けたようなおどろおどろしい空気と、一声聞けばどんな者でも一度は凍りつくに違いない超高圧・極低温な怒声が床や壁を這い、執務室内の窓ガラスに無数のヒビを入れた。


 赤毛の騎士隊長に林檎になる魔法を掛けた張本人たる男ヴィクトルは、きっとそろそろ差し入れの品が修道院内に入っただろうと見越して、この少し前から机の上の球体に遠視魔法でその光景を映し出していた。

 だからこそ臣下を林檎に変え、その林檎周辺に限っては遠視魔法が察知されないような秘匿魔法を掛けての内部偵察というある意味無謀な手法に出たのだ。


 因みに、向こうで後は自分でどうにか魔法を解いて更に詳しく内部の様子を探れとも命じてある。


 動けない林檎に変えておいて自力で解除しろとは何とも鬼である。

 そして解除方法は林檎だけに「誰かに齧られる」という酷な条件だった。

 齧られる=口付ける……とも言えるので、魔法を解く定番の方法たるキスが解除方法と言えなくもない。いやもうまさに全くその通りだ。

 ただ、ヴィクトルにもアデライドとエドゥアールに起きた展開は全くの想定外だった。

 彼としては正直な所エド林檎はアデライドではない誰かに齧られると思っていたからだ。


 何故なら、彼のかねてより知るアデライド・ロジェは生の林檎を好まない。


 しかし、彼女は進んで口にした。


 これが単なる日常の光景だったならその点に驚き益々異なるアデライドへの思索を深めただろう。だがそれ所ではなくなった。よりにもよって最愛のアデライドの前で無様に全裸でのた打ち回る失礼無礼を最早思い切り宇宙レベルで超越したクズ男の図を目の当たりにしたせいだ。

 120%の殺意を抱いたヴィクトルだったが、机の上の球体を壁に投げ付けるのはどうにか堪えた。もしも投げていたなら壁を五枚は貫通させていただろう。


 日頃から女子修道院への差し入れは珍しくはなく、それが果物なら特に魔法の有無を厳しく調べられたりはしないと踏んでエドゥアールを潜入させたのはヴィクトル自身だ。


 ハッキリ言って後悔しかない。


 皇帝たる者が教会管轄地で魔法を行使するなど禁忌を破るのかともし糾弾されても、入る前から元々魔法が掛かっているものはセーフだと言い逃れられるセコい手に出た自業自得だろうかと自問自答もした。


「くそっ、あの男は何をやっている。さっさと部屋を出ろ」


 破廉恥三昧な臣下への怒りの余り頭痛までしてきた。

 アデライドが向こうに留まる真の理由を知りたい彼はエドゥアールをその調査のために潜入させた。

 しかし、エドゥアールの存在は最悪の形で露見してしまった。もうひたすら舌打ちするしかない。

 その一方でヴィクトルは淑女たるアデライドが嫌な物を見たと卒倒しなくて良かったと心底安堵してもいた。

 球体の中に映る彼女はよろめく気配もなく、むしろ逞しくも気遣わしげな顔で破廉恥隊長を見下ろしている。

 そんな彼女が次のような衝撃発言をした。


『ええと、知らなかったとは言え齧っちゃってごめんね、エド。大丈夫……? ほらとりあえずこれでも巻いておいたら、――使ってるシーツで悪いけど』


 アデライドの使っているシーツ。


 エドゥアール、とヴィクトルは地獄の門番でも脱兎の如く逃げ出すような怨嗟の呟きを漏らした。

 ジャンヌによって昨夜の分は既に洗濯され新しい物に取り換えられているのだが、そんな細かな事実までを彼は知らない。

 銀甲冑を借りていたという恩義がなければ、この先間違いなくエドゥアールの命はなかっただろう。


『とりあえずそこのクローゼットに隠れてて。ここで見つかったら変な誤解されて噂になっちゃう程度ならまだしも、袋叩きの目に遭っちゃうもの。それに騒ぎを起こして私も今ここを追い出されるわけにはいかないのよね。ただし、詳しい理由とかは後できっちり聞かせてもらうわよ』


 全裸男にも動じない優しく頼もしい令嬢の姿にちょっとトキめいたヴィクトルは、彼女に大きな不安はなさそうだとしてここで遠視の魔法を切った。正直に言えばこれ以上変な場面を見たくなかった。

 彼とて、普段騎士としては有能な臣下を私怨で失いたくはない。彼女がエドゥアール如きの裸体には見向きもしないとわかって安堵したのもある。


「人任せにするのはやはり良くないな……。しかし、魔法を使わずに入るにはどうしようか」


 一つ教訓も得て短く嘆息した栄光の皇帝陛下は、まずはうっかりヒビを入れてしまった窓ガラスの全てを魔法で瞬時に修復するのだった。


「報告によれば、確かあのアドリアンとか言う子供は修道院を抜け出したんだったな……」


 何であれ現地に足を運ぶ前に最低限の公務を片付けなければならない。ヴィクトルは気を取り直して仕事に集中した。






 エドはものの数分でジャンヌとシスターに見つかった。

 ジャンヌはちょうど洗濯から戻ってきたのと、老シスターもたまたま近くにいて彼の野太い悲鳴をばっちり聞いたせいね。二人は私の部屋に何か緊急事態があったようだと駆け付けた。私と話していたせいでエドがクローゼットに隠れる時間もなかった。


 現在私は気まずい面持ちで大人しく椅子に腰かけ、シスターは精一杯曲がった腰を伸ばして居丈高に腕組みして汚物でも見るみたいに床に正座で全裸シーツの赤毛の不審者、もとい騎士隊長を睨み下ろしている。


「ええとあのですね、彼は知り合いで、手違いでこんな事になったって言うか……」

「アデライド様つかぬ事をお訊きしますが……この変態があなたの恋人なのですか? もしそうなら交際を考え直すべきですね。もう大昔ですがわたくしの経験から言ってこのように白昼堂々破廉恥な殿方はろくでもないですよ」

「恋人? あははまさか違いますよ、タイプじゃないですもん」

「ごごご誤解です某如きが恐れ多い! 申し訳ございません申し訳ございません死にたくない死にたくないいいいーっ!」


 私は笑い飛ばしたけど、エドは血相を変えて半狂乱になった。まあヴィクトルに聞かれたら立場が悪くなるだけだろうしね。

 それにしても、シスターは元々私の世話役になる人だったようだから私が何かワケありなのは知ってるけど、今の言い方からすると私に誰か交際相手がいるって察してるわよね。まあね、ここに来る令嬢なんて大体似たような理由だろうから予想は難しくないのかもしれない。

 とは言え、今はエドの処遇だわ。

 シスターは今にもエドの首根っこを捕まえて窓から放り出しそうな般若みたいな形相をしている。ま、体力的に無理そうだけど。男らしい厚い胸板とシックスパックだったエドの筋肉美に見惚れたりしない辺りシスターも中々のものだわ。こんな出来た体付き、並の婦女子なら垂涎ものだと思うわよ。胸キュンに年齢は関係ないし。


 でも魅せる肉体美って観点から言えばヴィクトルの方が断然素敵……って何考えてるのよ私は。


 顔の前で片手を振って煩悩を追い払うと、私はごそごそとドレスのポケットを漁った。

 正直エドが露出狂として突き出される場面なんて気の毒過ぎて見てられない。ヴィクトルも酷な任務を与えるわー。


 だから私がこれからする事は一か八かの賭けだ。


 私はずずいっと上向けた両掌をジャンヌとシスターへと突き出した。


「お願いです、どうか彼を見逃してあげて下さい。――これで!」


 これで、これで、これで、これで……と私の声がエコーがかった室内は急にしんと静まり返った。


 シスターが両目をこの上なく大きく見開いている。


 その双眸にはキラキラした装飾品の輝きが映っている。


 私の両手には賄賂の一部がてんこ盛りだった。


「エドは、私のかけがえのない友人なんです!」

「ううう、レディ~ッ」


 エドが感動したように涙ぐみ堪え切れないように口元を押さえた。ただし絵的には白ける。現に私も二人も最初だけで後は彼の方を一顧だにしなかった。


「彼は貧しい少年の面倒を見てやったりしてて、いい面もあるんです。お金で解決なんていけないってわかってますけど、こんな猥褻罪エドも初犯……だとたぶんそう思うのでどうか慈悲をかけてあげて下さい!」

「当然初犯ですよおおお! そもそも某の本意でもありませんから!!」

「だ、そうですし、お願いします」


 輝く金品を駄目押しするようにシスターの面前へと更に近付ける。これらは下着の裏やトランク鞄の二重底に隠していた物だ。


「――取引成立です。アデライド様は話のわかる方ですねえ」


 はい、かくしてエドは無事に難を逃れられて、そこらをうろついててもすぐには不審がられないシスターの服まで用意してもらえました~。化粧も。ただね、その女装盗賊の残党かって一瞬思ったわね。


「めでたしめでたし~」

「全然めでたしじゃないですよおっ! どうしてよりにもよってシスターの格好なんですか!? 女装なんですかあ~!」


 エドは用意してもらったシスター服を着ておいて嘆いている。まあそれしか着る物がなかったから仕方なく着たんだろうけどね。


「ぷふふっ、似合ってるわよエド、ううんエドナ?」

「茶化さないで下さいよレディ~!」

「あはは、エドは良い人よね。あなたならどこにお嫁に行っても、ああ違うわ、エドの嫁になりたい~って女の子は多いでしょ。この色男~」

「え……はは、いましたけど……フラれました」

「あ、あー……人生長いんだしエドのマイラブは未来に待ってるわよ!」

「ははっ……どうでしょ、この機に出家でもしますかね」

「ええーと、出家はともかく、じゃあ私が立候補しちゃおっかな~」

「――そっ某生涯独身を貫く所存でありますーーーーっ!」


 急に思い切り直立不動の姿勢を取ったエドは、血相を変えて怖いくらいの切羽詰まった表情で叫んだ。これが漫画とかだと集中線が顔のアップに重なってたわね。

 こっちも冗談なんだけどねー。でもエドって今みたいな冗談通じないくらいに堅物ってか生真面目な男だっけ?


「そうなの、男前なのに勿体ないわね~」

「ハハハ国を護る騎士たる者、婦女子にうつつを抜かしてはいられませんからっ!!」


 ふうん、そんな女装シスターな格好で胸を張られても面白いだけだけどね?

 まあそれはそれでいいけど、私は早速と更なる賄賂を渡してエドのここでの滞在用隠れ場所も用意してもらったわ。

 破廉恥ハプニングが収拾した所で、必要になったら呼ぶからとシスターには退室してもらってエドに着席を促してジャンヌと話を聞けば、彼はここには密かに調査のために来たって正直に話してくれた。

 それもこれも私にここに留まって欲しくないからみたいだけど、エドはまさに私とヴィクトルのとばっちりよね! 何かもうめっちゃごめんね! もしもヴィクトルに殺されそうになった時は精一杯庇うって約束するわ。

 そんな決意を胸にする私は、聞けるうちにとエドから他にも話を聞いた。

 アドリアンはここの塀に開いた子供が通れるくらいの小さな抜け穴から敷地の外に出た話とか、アドリアンのおかげでここの占拠を知った話なんかを。


「それで、一つ心配なんだけど、エドはここからどうやって出るつもり? また林檎に――」

「――なりませんよ絶っっっ対にっ!! 大体某は騎士なのでここでの魔法は禁じられています。見つかったら大目玉どころじゃありませんからね」


 彼は冗談か本気か首が飛ぶジェスチャーをしてよこした。


「あ、よねー。ならどうやって? 外のあの高い塀をよじ登るとか?」

「いやーあれはさすがに落ちて死にますね。あの塀には内にも外にも上までよじ登れないような特殊な仕掛けがあるっぽいですし」

「ならアドリアンが使ったって言う抜け穴は?」

「あの子でもかなりギリギリで、途中つっかえるかと思ったと言っていましたし、某には無理な大きさですよ」

「エドなら何とか行けるんじゃない? 関節外したりして」

「いえ、さすがに某でも無理です」

「そうなの? うーんでもエド、あなたならできる! ユーキャン!」

「鬼ですよね何気に!」


 脱線したまま無為に時間を浪費できないと気を取り直した彼は、似合いのシスター姿で咳払いをする。


「動物でもない限りは通れませんよ本当に。陛下からは、レディの帰都に合わせて荷物に紛れて帰って来いと言うような趣旨の事を言われましたよ。ですのでそこのところをご協力お願いします」

「えっ……とそれは~……」


 約一年後でもいいなら可能だけど。良いわけないよねー。

 結局言うに言えなくてテーブルの上の林檎へと手を伸ばす。

 ……うーん、やっぱまだやめとこ。

 ぶっちゃけさっきのがトラウマで、エドにもう林檎人間は入ってないわよねって確かめてからじゃないと齧る気にはなれない。でも何となく今は訊きづらいわ。


「レディはどうしてここに滞在したいんですか?」

「ノーコメント」

「半月くらいなら陛下も我慢できるみたいですし、某も陰ながらレディの護衛の任に就きますけど、なるべく早く帰る方が陛下の機嫌も格段に良くなりますよ」

「申し訳ないけど当分帰らないから、あなたはどうにかシスターに頼んでこっそり出してもらいましょ! シスターに任せればきっと上手くいくわ。だから帰りたくなったらいつでも言ってね」

「いえ、某はレディと一緒に……」


 エドは私の表情を見て今は諦めたように溜息を吐き出した。


「あのお嬢様、差し出がましいようですが、帝都に帰っても大丈夫なのではないでしょうか?」

「ジャンヌ?」

「おお、そう思いますか!」


 ここで何を思ったかジャンヌがおずおずと話に入ってきた。


「お嬢様は皇帝陛下の怒りを買ったと思われて、酷い事が起きる前にとここに籠る決意をなされたのでしょう? ですが、先日の陛下のご様子からその心配はないようにお見受けします。あの方はお嬢様を心底愛してらっしゃいますよ。お嬢様のためなら火の中水の中飛び込みそうです」

「え……ええと、そうかしら~?」

「はい。帰って普通に生活しても大丈夫ですよ」

「そこは某も太鼓判を押して同意します!」


 私が籠るのは妊娠したからなんだけどジャンヌはまだ知らないんだった。だからエドに加勢する形になった。彼女には教えておけば良かったかも。

 現時点で私の妊娠を知るのは私とムンム、そしてニコラのみ。ベテランシスターはどうだかわからない。

 そういえばムンムもこの街に来ていて、彼からは街の医院の手伝いをしているとの連絡が来ていた。折を見て私の顔というかコンディションを診たいって手紙が来たから、彼には近いうち特別に女子修道院長から許可をもらって診察してもらうつもりでいた。ムンムは男だけど医者だし私の主治医でもあるから仕事としての滞在は認められると思う。

 ジャンヌは私の意見を聞きたそうにする。


「そうだとしても、私はまだここにいるわ」

「えっどうしてですか?」

「まっままままみむまさかっ、陛下に愛想を尽かしたんですか!?」

「ノーコメントです!」


 ジャンヌは不思議そうにエドは死刑宣告されたみたいに絶望したけど、告げるべきって確信がなかった私は最後までノーコメントを貫いた。






 その夜、ジャンヌとシスターエドと夕食後に他愛ない話をして過ごしていると、シスターがやってきた。

 彼女は大事そうに腕に布包みを抱えていて、その中には毛玉が見えた。

 何だろうと三人で見ていると何と毛玉がもそもそと動いた。


「にゃお、にゃあ」


 毛玉が顔を覗かせて可愛く鳴いた。


「「「猫?」」」

「ええ。アデライド様も退屈でしょうし、ここでの生活の間この子の面倒を見てあげては如何でしょう?」


 私の退屈に気付いて気を利かせたシスターが連れて来たのは紛れもない猫だった。


 品の良さそうな長毛種で、毛色はシルバー。


 ……誰かさんを彷彿とさせる色だわ。


 だからちょっと最初は近寄るのを躊躇っちゃった。

 でもまさかこのツンとした猫が残酷皇帝のわけがない。

 世にも珍しい銀の林檎だったら警戒しただろうけとね。


 アーモンド形の一対の赤い瞳が私を凝視する。


 うぐっ、瞳の色まで一緒!


「へえ~ツヤツヤしてるし随分毛並み綺麗だな。さてはお前美味いもんばっか食ってるな~?」


 エドはからからと笑って興味津々に猫を見つめたけど、猫からじろりと睨まれでもしたのか急にハッとして、その後更にはダラダラと汗を流して何とも言えない顔付きになって目を逸らした。


 え、何今の?


 これが犬社会だったら間違いなくエドはにゃんこの下だった。彼は本当は立派な騎士様なのに何か泣けてきた私……。嗚呼、閑話休題。


「にゃーあお」

「ひいっ! 過ぎた口を利きましたすみません!」


 エドが、彼もあのお方を連想したのかただ猫が一鳴きしただけで本気の悲鳴を上げたわ。だけど見なさいエド、銀にゃんこは大人しくシスターに抱かれているじゃあないのっ。

 あの唯我独尊ヴィクトル様が誰かに大人しく抱っこされてるわけがないんだわ。だからこれは只の猫、只の猫、ちょっと高そうな猫ってだけよ。考え過ぎたら駄目よエド。

 そう自分にも言い聞かせて気を落ち付けて、そっと指先を猫へと伸ばした。

 幸い、威嚇されて爪で引っ掻かれるなんて悲しい展開にはならなかった。


 私の手に頭を擦り寄せるようにして猫は撫で撫でに気持ち良さそうに目を細めた。


「きゃーあ可愛い~ッ」

「あらあら、アデライド様がお好きみたいですねえ。私が撫でても無愛想にして特に反応を見せなかったんですよこの猫。お行儀は宜しいですけれど性格に難ありかもしれませんねえ」


 冗談っぽく笑うシスターだけど、猫は機嫌を損ねたように彼女の腕の中から逃げ出した。

 そうしてこっちの足元に寄ってくる。

 猫は嫌いじゃないから抱き上げて顔に近付けた、途端。


「――ぶえーっくしょいっ! へっくしょん! はっくしょーーーーん!」


 いきなりくしゃみが止まらなくなって、思わず猫を放り出してしまった。


 すると、くしゃみが止まった。まさにコントだわこれ。


 猫の方も見事十点満点な着地を披露したはいいものの、突如令嬢らしからぬ盛大なくしゃみをかましたからか、心底ビックリしたような真ん円な目で見上げてくる。私だってビックリよ。


 まさかアデライド・ロジェが猫アレルギーだったなんてね。


 ズルルーと私が鼻を啜った音で我に返ったのか、シスターが焦って傍に来る。


「申し訳ございません! 動物が駄目だったとは知りませんでした。すぐに猫を部屋から出しますね」


 自分に向けられた彼女の眼差しの意図を察したのか、猫は身構えると捕まってなるものかと室内を逃げ回った。

 シスターもシスターで年甲斐もなく躍起になって追いかけるから埃も立って、それが余計にくしゃみを誘う。


「ちょっ、はっくしゅん、待って、ぇえっくしょーい、動かないでシスター、ああっくしょい! 余計に症状が酷くなりますってぶえっくしょーーーーい!」


 もっと鼻水ズルズルの惨状にハッとしたシスターはようやく足を止めてくれた。ちょうどジャンヌが差し出してくれたハンカチで私が鼻をチーンしたタイミングで。

 必然的に猫の動きも止まったけど、猫ってば何とまあカーテンレールの上にまでよじ登った。柔軟な身体能力とすばしっこさには感心するわ。身の危険を察知して俊敏に動けるってそのスタイルを私も是非とも見習いたい。

 何度も謝られどうにも気まずい空気の中、シスターは急いでお茶を淹れてくれたりして、それで私は口や咽を潤した。湯気で楽になったし空気がシャッフルされなくなると症状も落ち着いてきて、私は最後に小さくくしゃみの残りみたいなのをした。


「本当に申し訳ございませんでしたアデライド様、埃まで立ててしまうとは軽率でした。どうにか猫を回収しますので一度部屋の外でお待ち頂けますか? そこの変た……こほん騎士様手伝って頂けませんか?」

「いっ!? 某がですか!? じっ実は某も猫アレルギーでして無理ですすみません!」


 エドは何故だか必要以上に怯えてまるで逃げるように部屋を出て行った。彼に与えられた部屋に戻ったんだろう。

 エドの奇行はともかく、そうよねえ、猫は出されるわよねえ。それも仕方がないかー……なんて思いつつ、何気なくまだレールの上で毛を逆立てている猫を見た。バッチリ目が合う。


「…………」


 え、何かこの猫目付きは鋭いのに捨てないでって哀愁漂わせてるんだけど。

 そ、そんな目で見ないで……っ。

 私は一つ溜息を落とした。


「え~~~~っと折角ですし、ここで面倒見ましょ!」

「ですがくしゃみが……」

「抱っこはしないですし、耐えられないレベルで暴れられたら即座に追い出しますから心配しないで下さい。ジャンヌも居ますし。でないと何かこの猫今にも泣きそうで可哀相と言うか何と言うか」


 猫に泣きそうなんて変な言い方だけど、真面目に悲愴感しか見当たらない。変に人間臭い猫もいるもんだわ。……実はお腹に四次元ポケットなんて付いてない?


「それに、折角のシスターの好意を無にしたくないんです。この先もきっと色々とお世話になると思いますし。ね!」


 言葉に含まれたものを読み取ったのか、彼女はそれ以上反対意見を口にはしなかったけど、表情はまだ渋りげだ。


「猫の世話代は私が責任を持って全額出しますから、プラスαで!」

「わかりました」


 チョロかった。

 的確にプラスαに込められた意を酌んでくれて良かった~。

 そして私とジャンヌはようやくエド抜きだけど食後の時間を寛げた。因みに猫は部屋の隅で大人しく丸まっててくれたっけ。


 改めて猫についての話を聞けば、実は今日見つけた迷い猫だったらしい。


 どこから来たのか、女子修道院の私たちが寝起きしているこの建物の周りを暫くずっとうろついていたのを見兼ねたこのシスターが中に入れたんだとか。密かに誰かが餌付けしている半野良かもと思って訊いてみたらしいけど誰も知らない猫だった。

 この悪徳シスターだって腐ってもシスターの端くれだし、また放り出すのも忍びないって慈悲の心を出したのね。で、貴族令嬢が好みそうな見た目の猫だったから、私への点数稼ぎの一環としてここに連れて来てみた、と以上がこの猫の経緯。


「ねえにゃんこ、暴れたらソッコーで追い出すから大人しくしてるのよ?」


 言い聞かせるようにすると、銀毛猫は少し顔を上げて返事よろしく「にゃあ」と一鳴きした。


「わお、実はすごく賢い猫なの?」


 にゃあともう一鳴きされて、私もシスターもジャンヌも顔を見合わせて笑ってしまった。

 その後シスターが探してきた猫の世話に必要な一式も運び入れてくれて、私は私でもっと必要な物があればこれでよしなに~って袖の下も渡して、この日は終わりに近付いた。結局エドはこの日はもう部屋には来なかったわ。少し気になって様子を見に行ったシスターが言うには布団に包まってガタガタ震えていたみたい。うーん、実は猫嫌いだったのかしら。

 室内の余計な明かりを消してベッドサイドの手燭だけにして、就寝の身支度を整えた私がベッドの上で横になると、いつの間にやら椅子の上で丸くなっていた猫がこっちに気付けと言わんばかりに、それでいてどこか遠慮がちに鳴いた。

 何だかもっと傍で寝てもいいかってお伺いを立てられてる気がするわ。人恋しがりな猫なのかも。

 ジャンヌのベッドも運び入れてもらったから彼女は同じ部屋だけどベッドは別。


「お嬢様、駄目ですよ。またくしゃみが止まらなくなりますからね」

「んーでも顔に近くなければ大丈夫じゃない? よし、ふかふかなとこで寝たいならこっち来て良いわよ」

「んもうお嬢様あぁ」


 一応口でチチチと呼んでみれば猫はベッドの上に静かに乗ってきた。よしよしわしが寝る前の撫で撫でくらいはしてやろうぞ。手を伸ばしてそうしてやれば猫はやっぱり心地良さそうにした。太もも横に蹲る猫の体温が毛布越しに伝わってくる。くしゃみは出ない。

 毛並みが気持ち良くてぐしぐし撫でてやると、さすがに綺麗な毛並みを散々乱されて嫌だったのか猫は「ふにゃあっ」と不機嫌な声を上げてするりと私の手から逃れた。身嗜みを整えるように毛繕いをする。

 激しくして毛が飛んだのか私は自業自得でくしゃみを繰り返した。ジャンヌは呆れてた。

 自分馬鹿って思いつつ落ち着くまで鼻を啜って耐えたわ。


「ふう、やっと鼻が通るようになった」


 逃げて離れた床にでもいるのかと思ったら、猫は見計らったように再びベッドに上がってきた。しかも定位置と早々に定めたのか太もも脇に陣取って顔の方には来ない。


「あははアレルギーわかってるの? なんてそんなわけないか。きっと最初のくしゃみに驚いたから近付いて来ないのよね。あの時は驚かせて悪かったわ。――お休み、にゃんこ」


 通じなくても別にいいかと気楽に就寝の挨拶を掛けたら「にゃあ」と短く鳴いて心得たように猫は目を閉じた。案外本当に天才猫だったりして?

 そういえば名前どうしよう。きっと一年は一緒にいると思うからないと不便よね。でももう寝るし明日ジャンヌと考えよう。

 もう一度心の中でお休みを言って、私はゆっくり瞼を下ろした。

 ヴィクトルは、どうしてるかしら。

 忙しいだろう皇帝陛下もきちんと寝れてればいい。寝不足だと余計にイライラしちゃうもの。目を閉じる間際、視界の片隅に銀色の毛並みが見えたからかそんな事を思ってしまった。






 人知の及ばない遥か異次元異空間で、この魔法世界を取りこぼしがないよう慎重に見つめていた「」が、とうとうある一点で止まった。


 ――見ぃ~つ~けたっ!


 天使は声なき声で笑う。

 そうしてたった今覗き込んでいた世界へと存在をダイブした。

 只人の目には見えない光が天より降臨した瞬間だった。


「やあ、――アデライド・ロジェ。どこに雲隠れしたのかと思ってたけど、灯台下暗しってやつかあ~。……帝都で何かしてたのお? 例えば誰かー……高位の聖職者の意識に働きかける、とか。あーあ何にせよわざわざ他国にまで眼を向けるなんて手間かけて損したあ」


 帝都上空にふわふわと浮かぶ球形の魂を正面に見据え、天使はあたかも微笑むような声音で意思を伝える。ただその声は音には非ず。言うなればテレパシーの様なものだ。

 まあ元々天使自身も明瞭な姿形を持つわけでもなくそこに在るという概念的な存在であり、物理法則からは逸脱しており、尚且つ会話相手も魂の状態であり、最早鼓膜で音を拾う人間の肉体を有していないのだからそれがむしろ当然と言えた。


「君さあ、どうして逃げ出したりなんてしたの~? ってああその形じゃ自分で物は考えられても話はできないか、ごめんごめん」


 呆れと窘めを声ではない声に含ませた天使はハタと思い至り、直後魂は人の形になった。


 向こうの景色が幾分透けてはいるがアデライド・ロジェという少女の姿に。


「これで心置きなく会話ができるようになったでしょ」

「あらまあ……本当ですね喋れます」

「じゃあついでに」


 そう気が乗ったように言った天使も便宜上なのか単なる趣向なのか、天上画に描かれるような背に白い翼のある白い衣装の少年姿を顕現させた。


「やっぱ天使って言ったら、大半の世界で定番のこの姿だよね」


 中性的で金髪金眼の輝かんばかりの黄金天使は、少女の魂へとにっこりと笑んだ顔を向ける。


「さあてと、逃亡した理由を聞かせてくれない?」


 自らの変化を悟り物珍しそうに自分を見下ろしていた本物のアデライドは、困ったように、或いは観念したようにも見える仕種で眉を下げた。


「わかりました。実はその、妊娠していると知って嬉しかった反面本当にショックで……だから逃亡したのです」

「へええ~……って、ええっ!?」


 天使は自らでもそう思うくらいに珍しくも、予想外の答えに笑んだまま激しくフリーズした。何故なら手元の運命台帳にはアデライドとヴィクトルは「ロマンチックにくっ付いてラブラブ云々」と若干の死語を交えてのベストカップル賞な内容が記されていたからだ。一体全体何のイレギュラーなのか。

 しかし長年様々な魂たちの案件を扱ってきた経験と胆力で乗り切って我に返った。


「お、面白い理由だね~それは」

「面白い、ですか?」


 アデライドは天使の感性を理解できないように小首を傾げた。


「子供は前々から欲しかったのですが、ただ……ヴィクトル様とはお別れしようと思っていたのです」

「へえ……。因みにショックって、媚薬で関係持っちゃったけど彼のその手のスキルに失望したとか、はたまた殺されるのが嫌だとか、そんなような気持ちになったの?」


 アデライドはフルフルと首を横に振る。


「いいえ。スキルは想像以上でしたし、殺されるなんて思った事はありません。ただ、何か違っていたと言うか何というか……陛下は私の本当の相手じゃなかったと言うか……」

「えー……つまりは」

「はい、好きは好きでも伴侶としては無理だったのです。言うなれば身内の兄や弟に感じるような家族的な愛情でしかなかったのです。それなのに愚かな私はそれを初恋だと勘違いしていたのです。いざ深い仲になってしかも子供ができてしまってから気付いても遅いのですけれど」

「あはは、子供出来ちゃったら殺されるって噂だしね」

「いいえ、今も言いましたが、私に限ってはそうはならないでしょう」

「おおう、強気に断言するね」


 威厳を取り戻してか、興が乗ったような顔で天使はカラカラと笑う。


「ええ。それくらいは感情面でも陛下と懇意でしたから。あの方にとっても私は妹でしょうね。そこに気付くかどうかは彼次第ですが」

「へえ~」


 ズバズバと結構率直に物を言う割にはアデライドは控えめな笑みで恥ずかしそうにした。天使はやっぱこの彼女がヴィクトルの妻になればいいんじゃね、と胸中で猛烈に思った。

 彼の手綱を握れる貴重な女性だろうし、この世界のためにも早い所元の体に戻してやった方がいいんじゃね、とも痛烈に思った。


「そんなわけで、彼とは別れて私の本物の愛を探そうと思っていたのです。しかし陛下のお子を身籠っていたら私の身分上はどうあっても結婚は免れないでしょう。人生詰んだ、とそう思ったらもうひたすらショックでショックで魂が抜けるくらいに現実を拒否したかったんだと思います。深層心理までが」

「……」


 この世界において深層心理なんて言葉をよく知っているな、と感心する天使は彼女には「賢者」の素質があるのではないかと疑いを持ち始めた。


 もしもそうなら「賢者」たる者ありとあらゆる知恵と手段を使って目的を達成するだろう。


 天使たちから賢者と呼ばれる人間は不思議とそういう才能を持ち合わせている。いやそう言う才能を持っているからこそ賢者と呼ばれるのだ。

 その才能は時に天の予定や采配ですら覆す厄介な存在でもある。

 例えば、恋の相手ではない男からの魂レベルでの逃避のように。

 ただ、それよりも……と天使は何とも言えない顔になる。


「今までさ、様々な世界の歴史上色んな王や皇帝を見てきたけど、王位の簒奪とか妻の寝取られとか惨い悲劇はあれど、ここまで恋愛面で不憫な君主も中々にいなかったよねー……ある意味寝首を掻かれるより酷いよ」


 アデライドはそれには特に何も返さず、微笑のような困惑のような曖昧な表情を浮かべるだけだ。思い直しそうな気配など皆無。天使は本心から同情した。


「私をどうするつもりですか?」


 そんな天使へと賢者疑いがおずおずとして訊いてくる。天使は顎に指を当て可愛く考えるポーズを取った。


「うーん、どうせこのまま戻してもまた逃げ出すんでしょ? 逃げるやり方を知って、味をしめたよね君」

「えっと……否定はしませんね」

「でしょー。はあ~~、いいよいいよ、とりあえず急がないから。今は代わりの子にアデライドやってもらってるしね」

「ああ、それなら遠くから覗き見ていましたが、まさに理想でした」

「あはは、見てたんだ……」


 理想。

 彼女が何を根拠にそう言うのか天使にはいまいちわからなかった。


「私にとってヴィクトル様は色恋ではない部分で未だとても大事な存在です。人生に幸せを感じて欲しいと、こうしている今も願っています。なので、その彼に諸々を超越するようなこれ以上ない伴侶を与えて下さった天使様の凄腕の采配には、心から感謝致します」

「……よくわかんないけど、何だか君には勝てる気がしないなあ。まあそのうち少なくとも一度は戻ってもらうから、それまでもう一回ゆっくり考えて最善の結論を出してみてよ」

「はい。……向こうの二人にもまだ時間が必要みたいですしね。彼らは信じられないくらいにピッタリですが、どうしようもなく牛歩のようですから」

「はは……君は流星の如く展開が早かったもんね」


 彼女の結論はどうあっても変わらないようだと悟った天使はやれやれと額を擦った。とりあえず天使は復縁を無理強いはせず、魂を逃がさないようにだけして地上の様子見をしようと決め込むのだった。






 カーテンの隙間から射し込む月明かりのせいか夜中ふと目が覚めてしまってゆっくり身を起こせば、寝ている間も私の傍から離れなかったらしい銀の猫がもぞっと顔を上げたのが消灯後の暗がりの中に見えた。あらごめん起こしちゃったわね。別のベッドのジャンヌはすっかり夢の住人になってる。

 こっちが起きてるとわかってか猫は膝に乗ってきた。何とはなしにそんな猫を撫でながら、こっちを見上げる紅い猫目と目を合わせる。今夜の月明かりはそのくらいには物が見えた。


「ホントにおんなじ色味よね」

「にゃあ?」


 何がだ?って鳴いたみたいで思わずふっと相好を崩す。 


「ふふ、私の人生史上随一にインパクトのある人の話よ」


 猫の小さな頭を両手で包み込むようにすると指先でふにゃふにゃと顔マッサージしてあげた。大人しくされるがままのにゃんこの顔にこれまた和む。

 この子とは今日初めて会ったのにすぐ私に懐いてくれて私自身もすぐにこの子を気に入った。

 人でも動物でもフィーリングが合う相手っているものよね。出産してここから出て行く時はこの猫も一緒にロジェ家に連れて行きたい。


「ねえにゃんこ、私がここを出る時には一緒に来る?」


 その時に黙って連れてくのも悪い気がして、自己満足だけど何となく訊ねていた。

 猫はイエスって言うように鳴いた。

 だけどそれでもいつか私は元の世界に帰るから、その時はきっと寂しいだろうなあ。


「でも、ごめんね。君にだけは言っておくと、たぶん私はずっと一緒には居られない。私はここじゃない私の世界に帰らないといけないの。こっちの世界から見ると異世界って言うのかな、とにかくそこにね」


 撫でる手を止めて、密やかな囁きを落とす。


「私は本物のアデライド・ロジェじゃないんだ。別人って言うか、魂だけ別ものなの」


 猫はさすがに何を言われているのか理解できなくて不思議がっているのか、必死に目を丸くして私を見つめてくる。

 それとも猫には人に見えないモノが見えているって言うし、独自の感覚で私の何かを見抜いたのかもしれない。


「本物のアデライドが戻ったら彼女とも仲良くやってあげてね。それまでは宜しくだけど。ふふ、だけど誰にも内緒よ?」


 猫にだから言える大きな秘密。


「ん? どうしたの?」


 あれまあ、話を理解したみたいに思いっ切り固まってるわ。

 おかしなの。そんな様にも和んだ私は感じた眠気にわふふと欠伸をしていた。最後にもう一撫でして後は横になる。


「おやすみ」

「……にゃおん」


 小さく鳴いたのが聞こえて口許を緩めた。





 あ、ヴィクトルがいる。


 視界の端の銀色をぼやけた眼で眺める私はいつもは感じるような恐怖を感じなかった。たぶんまだ眠いせいね。現実感が薄い。

 でも何で?

 絶望しそうだから考えないようにはしてたけど、あの雨の夜の追い返しで彼はきっと傷付いたし怒ってるはず。ううん、はずって推量じゃなく、絶対怒ってる。


 差し入れかと思いきや裏があったし、何より無情にもエドを林檎に変えるくらいだし!


 直接私に手出しはできないだろうけど、正式な立ち入り許可を得ての来訪だったりして? でもわざわざ皇帝御自ら来る? しかも何度も怪我させた女の顔を進んで見たいなんて思う?

 まあ、漫画とかでも恋する男ってのは時々凄く矛盾して厄介だったりするからねえ。


「……ヴィクトル、あなたには悪いと思ってるけど、仕方がないの。でも、ごめんね」


 私がアデライドで。


 あなたのアデライドじゃなくて。


 むにゃむにゃと、半覚醒中のせいか余計な感情を取っ払った素直な気持ちが口から出た。


「にゃあ」


 と猫が鳴いた。


 ん? 猫?


「何で、猫が…………――!」


 私は一気に目が覚めてがばりと身を起こした。

 顔の近くからこっちを見ていたらしく銀長毛の猫がびっくり眼で飛び退けた。


「ああそっか、銀色は猫……ってそうよね、あの人がいるわけないか」

「ああお嬢様起きたのですね。洗顔のご用意はできております。その前にお水をどうぞ」


 窓の外は既に明るい。私は驚かせてごめんねと猫を軽く撫でつつベッドから出ると、ジャンヌの差し出してくれた水を飲んでから顔を洗ってサッパリとした。


「うん、良い一日の始まりね」


 問題は山積みだけどね。

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